身バレした!?


 ナインさんが奥から取り出してきた箱の中には、よく分からないものが大量に詰まっていた。

 ボールみたいな物や箱にしか見えない物、それにカードのようなもの。

 これ全部が魔導具なんだろうか。ちょっとワクワクするな。


「一番手はコイツですかね。ゼロワンド〇イバー・デラックスです!」


 初手でいきなりネタぶっこんで来てんじゃねぇよ。

 ニチアサなんて私もほとんど見た事ないぞ。


「このオモチャはなんと、魔力を通すと光って音が鳴ります! 変身ボイスも完備です!」

「すみません、次をお願いします」

「ありゃ、オススメだったんですけど。じゃあこっちはどうっすか?」


 次に取り出して来たのは……なんだあれ。等身大の人形にしか見えないんだけど。

 デッサン人形って言うんだっけか。木製のマネキンだ。


「魔導人形君改・三型です!」


 おぉ、ファンタジーっぽい名前だ。

 これはちょっと期待できるかも。


「この人形は何が出来るんですか?」

「着せ替えが出来ます」

「……着せ替え?」

「はい。別売りの服を着せるとその服に合った人形になるんです」


 ナインさんが言いながら人形にドレスを着せると、人形はうにょうにょと動いて女の子の姿になった。

 ほう。これ面白いなー。

 でも申し訳ないけどお人形遊びは趣味じゃないんだよな。


「ふむ、お気に召さないようで。ではこちらの剣などどうですか?」

「剣のオモチャですか?」

「ですです。刃はつぶしてあるので安心ですし、これは他の遊び方も出来るんですよ」

「へぇ。どんなのです?」

「これをこうしてですねー」


 オモチャの剣を鞘のまま地面に刺して。


「問おう、貴女が私のマスターか」

「ぶん殴りますよ?」


 さすがにアウトだ馬鹿野郎。

 私が生前どハマりしてたソシャゲの元ネタじゃねぇか。

 色々とダメだろそれ。


「ふうむ、難しいですねー……そうだエル、ちょっと席を外してくれないっすか?」

「どうした?」

「ちょっとリリィさんと二人で話したいんっすよ」

「お前がか? 珍しいな……リリィ、構わないか?」

「私は大丈夫ですよ」


 でもなんだろ。次のはエルンハルトさんに見せられないオモチャなんだろうか。

 ……まさか下ネタじゃないよな?

 無いとは言い切れないのがこの人の怖いところだよなー。


「そうか、では近場で適当に時間をつぶして来よう」

「了解っすー!」


 うーん。二人っきりは不安だけど、まぁエルンハルトさんの友達だから大丈夫かな。

 さてさて、お次は何を見せてくれるんだろうか。


「さて、ではこちらの絵をご覧ください。とても興味深いものが描かれていますよ」


 そう言いながら渡された一枚の紙。両面につるりと光沢があるそれを手渡され、私は思わず息をのんだ。


 絵って言うか、


「おっと、やっぱりそれが何か分かるんすね。予想通りっす」


 性別も温度も感じない機械音声でナインさんが言う。

 声色なんて分からないのに、まるで私をからかっているような気がして。

 思わず一歩、足を引いてしまった。


「地球人とは珍しいですね。私もこの世界では初めて見ましたよ」

「……それを知ってどうするつもりですか?」


 これはちょっとまずい展開なんじゃないだろうか。

 周りの人には記憶がないで通してたけど、ナインさんにばれた以上は他の人に知られるのも時間の問題だ。

 最悪、この街を出なければならない。

 うーん。せっかくいろんな人と知り合えたのになー。

 ちょっと……いや、かなり寂しいけど、割り切るしかないか。


「いや別に。ただの興味本位っすね」

「は?」

「ぶっちゃけどうでも良いんで。品物を買ってくれれば嬉しいっすけど、無理強いしても意味ないですし」


 スカイツリーの写真を箱の中に戻しながら、何気ない調子で語るナインさん。


「誰しも事情があるもんですからね。そこに土足で踏み込むような真似はしないっすよ」

「……そうですか」


 この人、見た目の割に良い人なのかもしれない。

 うん、見た目は超絶変人にしか見えないけど。

 そういやケン〇ッキーを司る神もいるんだっけか。

 この人はその神の信者なのかもなー。

 ……いや、その理屈で行くと某教祖様を祭った神殿とかありそうで嫌なんだけど。


「とまぁシリアスな空気は苦手なんでぶっちゃけますが、私も異世界人ってやつです」

「え、そうなんですか?」

「と言っても地球じゃないっすけどね。ここに似た世界から飛ばされて来ました」


 なんとまぁ、異世界って他にもあんのか。

 どのくらい種類があるんだろ。ちょっときになるし、今度アテナに聞いてみるかな。


「てなわけで、異世界人同士仲良くやりましょう」

「あ、よろしくお願いします」


 差し出された機械の手を取り握手する。

 やはり金属質で明らかにこの世界から浮いてるけど、異世界人という事なら当たり前なのかもしれない。

 そういう文化があってもおかしくはないだろうし。


「ちなみにこの格好は趣味っすね」

「趣味かよ」

「趣味っす。恰好良いでしょう?」

「え?」

「え?」

「なにそれこわい」


 どんな感性してんだこの人。

 禍々しいとか不気味とか異質とか、そんな印象しか受けないんだけど。

 ロボなのに妙に人間らしさが残ってるのがまた一段と怖い。


「リリィさんとは趣味が合わなそうで残念っす」

「え、誰かには好評なんですか?」

「それが全く。おかしいっすねー」


 おかしいのはナインさんの感性だと思う。

 割と真面目に。


「ていうか、分かってて変身ベルトとか聖剣とか出したんですか?」

「いや、それは普通にオススメ商品ですね。誰も買いませんけど」


 だろうな。うーん……悪い人じゃないんだろうけど、変な人には違いないな。


「さて、ではお次の商品を出しますか」


 言いながら大きな箱の中から……おい。

 明らかに箱より大きいだろそれ。

 ていうかどう見てもガチャガチャしてカプセル出すやつじゃねえか。


「これはランダマイザーという機械ですね。使い捨てのマジックボックスで作られたくじ引き機っす。一回100Eですがレア物が入ってますよ」

「たっか。え、そんなんやる人いるんですか?」


 確か100Eって1万円くらいだよな? 馬鹿高くないか?


「そうっすねー。最高神様直筆サインとか魔王様の手記とか、あとはレアメタルなんかが入ってるっす。もちろんゴミみたいな景品もありますけどね」


 なるほど。好きな人にはたまらないってやつか。

 そこはソシャゲのガチャと同じ感じだな。


「どうです? 一回だけ無料にしておきますけど、試しに回してみませんか?」

「んー。じゃあせっかくなんで」


 正直なところ興味はある。まぁLUKー15だからロクな物が当たらないだろうけどね。

 

「はいはい。んじゃそこのダイヤルを回してください」


 言われた通りにガチャリとダイヤルを回すと、金色のカプセルがころりと出てきた。

 手のひらより少し小さいくらいか? これに商品が入ってんのか。


「おっと? 金色はレア確定っすよ。運が良いですね」

「あれ、そうなんですか?」


 ふむ。LUKと実際の運はまた別物なんだろうか。

 レアと聞くとちょっとワクワクしてくるな。


「カプセルについてる紐を引っ張ったら開きますよ」

「あ、これか。とりゃ!」


 紐を引くとカプセルがピカっと光った。

 さぁ何が出てくるかな。ぶっちゃけファンタジー世界っぽい物なら何でも良いんだけど。

 やばい、結構テンションが上がってるわ。


 やがて光が収まると、真四角の厚紙が姿を現した。


「おぉ、超レア物っすね! 大当たりですよ!」


 ナインさんがテンションを上げる中。

 私のテンションは一気に急降下していた。


『生命』の最高神・アテナ直筆のサイン色紙。


 やっぱりゴミじゃねえか。


「ナインさん、これあげます。私には必要ないんで」

「え、でもそれ世界に一枚しかないレア物っすよ?」

「必要ないんで」

「そうっすか……じゃあ代わりにもう一回引いて良いっすよ」

「よし、次こそ当たりが出ますように!」


 勢い込んでダイヤルを回すと、今度は鉄っぽい色合いのカプセルが出てきた。


「ありゃ、外れっすね。大したものは入ってないですよ」

「いや、それ以外なら何でも嬉しいんで」


 さて、何が入ってるかな。女神関連はやめてほしいんだけど。

 おっと、これ、指輪か?


「あー、STR倍化の指輪っすね。大外れっす」

「え、なんか強そうなのに?」

「代わりに他ステータスが50下がるんすよ、それ」

「あーなるほど」


 確かに普通じゃ使えないなそれ。

 あれ、でも私が付けたらやばいことにならないか?

 ……インベントリに封印しとくか、うん。


「何にしてもファンタジーっぽいものが出て良かったです。ありがとうございます」

「喜んでもらえたなら良かったっす。んじゃ、エルを呼びましょうか」


 ん? エルンハルトさんは適当にぶらついてるって言ってなかったっけ。


「どうせアイツの事だから店の前で待ってるっすよ。エルー!」

「あぁ、終わったか。早かったな」


 あ、ほんとだ。呼ばれたらすぐに入ってきた。

 なるほど、こっちに気を遣わせないようにしてくれたのか。やっぱりイケメンだなー。

 

 ナインさんは紙袋をエルンハルトさんに手渡すと、こちらに顔を向けてきた。

 

「んじゃまたよろしく頼むっす。毎度ありー」

「はい、また来ますね」


 お互いに手を振りあうと、エルンハルトさんが少し驚いた顔をしていた。


「ナインと気が合ったのか。リリィは凄いな」

「あー。まぁ誤解されやすいでしょうね、あの人」


 見た目ロボだしな。カーネル・サン〇ースの。


「悪い奴ではないんだ。これからも仲良くしてやってくれ」

「はい。また今度来ようかと思ってます」


 話してみると楽しい人だったし。ネタぶっこんで来るのはやめてほしいけど。

 とりあえず収入の件は何とかなったし、今日はもう帰るか。

 なんかちょっと疲れたし、アメジストたん見て癒されよう。

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