街でデートしよう
ナインさん……もとい、ナインに連れられて大通りに戻ってきたあと、彼女は宣言通り色々な店を案内してくれた。
食料品店には見たことも無い食材が並んでいて、雑貨屋では日本で見たことも無い品がたくさんあって、本屋には驚くほど商品がなくて。
知らない街を散策するなんて初めてだったけど、とても楽しい時間を過ごすことが出来た。
良い意味で誤算だったのがナインの存在だ。
各場所ごとに見るべきものを教えてくれて、私が少しでも気になった事は丁寧に説明してくれた。
騒がしい彼女が隣に居ることで、私も自然と笑顔になっていた。
見た目がアレだったから分からなかったけど、案外付き合いやすい人なのかもしれない。
見た目はアレだけど。
「おっと、そろそろお昼ご飯の時間ですね。食べたい物とかあります?」
言われて気が付いたけど、確かにそろそろお昼時だ。
けど、食べたいものなー。
うーん、まぁ強いて言うなら。
「激辛料理かな」
「リリィさんって辛いの好きなんですか? それならオススメのお店がありますよ」
「んじゃ任せた」
この数時間でナインの事はかなり信用している。
こいつのオススメならハズレはないだろう。
さてさて、どんなお店に連れてってくれんのかな。
「しかしまぁ、なんと言うか。リリィさんって案外普通の女の子ですね」
「何よいきなり。そりゃただの一般人だから当たり前でしょ」
「エルから色々聞いたっすよ。最高神様とお知り合いなんですよね? しかもライランティリア様と交流があるとか、どんな化け物なんだって思ってましたね」
「あー。あいつ誤解されやすいからなー」
実際はド天然な奴なんだけど、悪評凄いもんな。
その辺の誤解も解いてやりたいところだ。
「最高神様をあいつ呼ばわりですか……さすリリですね」
「いや、良い奴だよ? 貞操的な意味では油断できないけど」
「そこは深く聞かないでおくっす。とにかく、リリィさんとこうやって話すまではヤベェ人って思ってましたね」
「いや周りの人の方がヤベェんだけど」
主にエリーゼとか。
「てかそれ、私が凄いんじゃなくて私の知り合いが凄いだけじゃん」
「そう来ますか。じゃあお昼はリリィさんの奢りって事で良いっすよね?」
「しれっと何言ってんだお前」
じゃあじゃねーよ。話の前後に脈絡無さすぎるだろ。
「……いやまぁ、案内してくれたお礼に奢るくらいは構わないけど」
「マジっすか!? 街で噂の高級店はすぐそこにあるっすよ!」
「あーはいはい。期待してるからね?」
「いやっほう! 任せてほしいっす!」
ぐっとガッツポーズを取ってるとこ悪いんだけど、お腹空いたから早く移動したいな。
ナインのオススメなら多分美味しいお店だろうし。
……うん? なんか向こうの方が騒がしいな。
「ひったくりだ! 誰かその男を捕まえてくれ!」
声のした方を見ると、手に女性物のカバンを持った男がこちらに走ってきていた。
てかまっすぐこっちに来てんな。
どれ、今まで試す機会も無かったけど、チートステータスで無双してみっか。
とか、思った瞬間。
「こんな昼間っからバカな奴も居たもんです……ねっと」
それはまさに瞬きをする間。
ナインは駆け寄って来た男の手を取ると、そのまま鮮やかに投げ飛ばしてしまった。
うわ、すご。流れるような動きだったな。
「ぐぇっ!?」
「はい、自警団が来るまで大人しくしてましょうね」
両腕を後ろに回して縄で縛ると、ナインは何事も無かったかのように戻ってきた。
「すみません、お待たせしました」
「いや、それは良いんだけど……ナインって強いんだね」
「腕にはそこそこ自信がありますね。何せパーフェクト美少女なんで」
「……ツッコミたいけど、今のところマジでパーフェクト美少女なんだよなぁ」
性格はちょっと変わってるけど。
「ちょ、素直に褒められると、その……照れるっす」
「自分から言い出したんでしょうが。でも、ありがとね」
「いえ、この程度は朝飯前っす。もう昼っすけどね」
「そだね。お腹も空いたし早く行こうか」
「えっ、ちょっ!?」
言いながらナインの腕を取ると、ぽんっと顔が赤くなった。
こういうとこ、可愛いなコイツ。嫌がってるようには見えないし、ここは好きにさせてもらおう。
「……リリィさん、楽しんでません?」
「そりゃ美少女とデートだもん。楽しいに決まってんじゃん」
「恥ずかしんで出来れば離してほしいっす……」
「やだよ勿体ない。ほら、早く早く!」
「うわっ!? 引っ張らないでください!」
強引に歩き出すと、ナインは顔を真っ赤にしながらもちゃんとエスコートしてくれた。
人が良いっていうか、流されやすいっていうか。
うーん。ナインといるとかなり楽しいな。
これで見た目がマトモならなぁ。今も目隠ししたままだし。
つーかコレ、どんな原理で見えてんだろ。
「……リリィさんって、なんか距離感おかしくないっすか?」
「そう? 別にこれくらい普通じゃない?」
「普通では無いと思うっす」
女同士なら良くある事だし。
あ、でもこの世界って同性婚が認められてるんだっけか。
あんまりこういうのやらない方が良いのかもしんないな。
「んー。ナインが嫌ならやめるけど、どする?」
「え? あー……その、別に嫌では無いですね」
「なら良いじゃん。早く行こうよ」
「……じゃあ、行きましょうか」
かなり恥ずかしそうだけど、本人から許可はもらってるから問題なし。
結局は目当てのお店に着くまで、緊張してるナインを楽しむことが出来た。
付き合ってみるとかなり面白いな。
もっと仲良くなりたいもんだ。
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