『終焉』スキル
異世界生活三日目の朝。
やはり早朝に目が覚めたので、ささっと身支度を整えて城内の食堂で朝ご飯を済ませた。
いやー、やっぱ美味いわ、あそこ。
おかげで朝から上機嫌だ。
ちなみに昨夜はガチ泣きするアテナを天界に送り返した後、お風呂に入ってすぐに寝た。
こっちの世界って基本的にやることないんだよなー。
何か趣味でも見つけた方が良いかもしれない。
てなわけで今日は街の散策をしてみようと思う。
ここがどんな場所かも知らないし、歩き回ってみよう。
丁度良い暇潰しにもなるし。
とかね。思ってた訳よ。
いやまぁ、
ちょっと危機管理能力が足りてなかったかもしれない。
つまりはまぁ、アレだ。
「どこだここ」
迷子なう。
いや、最初は大通りに向かって歩いてたんだけど、途中でめっちゃ可愛い猫を見つけてさ。
その子を追い掛けてたらいつの間にか路地裏に来ていた訳で。
……何歳だよ私。子どもか。
さておき、どうしよっかなーコレ。
お城も見えないから帰ることも出来ないし。
うーん……とりあえず、勘に任せて適当に歩くか。
最悪の場合は、
路地裏にはガレキやガラスの破片なんかが散乱していて、明らかに治安が悪いのが見て取れる。
当たり前だけど人はいない。
そもそも人が寄り付かないだろうし、ただでさえ日が昇った直後の早朝だ。
こんな時間にこんな場所に来るなんて相当暇してるか変わってる人かだと思う。
だと思うんだけど。路地の奥で手を振ってるカーネルサン〇ースはやはり奇行種なんだろうか。
「ナインさん、こんなとこで何してんですか?」
「日課の散歩っすよ。リリィさんこそ何してんです?」
「私は人生という道に迷いまして」
「迷子ですか」
くそう、断言しやがった。正解なのが腹立つな。
「何なら道案内しましょうか? 格安で引き受けるっすよ」
「うーん。ちなみにいくらです?」
「知り合い価格で銅貨1枚にしときます」
一万円かよ。ぼったくりだな。
「この街の有名スポット紹介も込みであたしとデートもできるお得なプランっすよ。お買い得です」
「えぇ。マイナス要素含まれてんじゃん」
「マイナスっ!? こんな美少女とデート出来るのにっ!?」
「いやだって、見た目それだし」
フライドチキンのおじさんロボとデートしてもなー。
「てゆかそれ脱がないんですか? 声が聞き取りにくいんですけど」
「ふははは! このナインちゃんが無料で外装を脱ぐ訳が無いでしょう! 中身の超絶プリティー美少女を見たければ白金貨でも持ってくるんですね!」
ふむ、白金貨ねぇ。
どうしよう。余裕で払えるし中身はすごく見てみたいけど、言われるままなのはなんかムカつくし。
……あ、そうだ。
「ナインさん、その外装って魔法で出来てるんですか?」
「正確には魔導具っすね。最新鋭のテクノロジーが集結された超高級品っす」
「ふむ……『
あらゆるものを終わらせるスキル。つまり、魔法の効果もきれるんじゃないだろうか。
そんな軽いノリで手をかざしてスキル名を発すると、『こうかはばつぐん』だった。
ガラスの割れるような音がして、その後。
カーネル〇ンダースロボはガラガラと崩れ落ち、中からキョトンとした顔の美少女が姿を現した。
「……へっ?」
腰まで伸びた茶色の髪に、朝日を反射して金色に見える瞳。
顔立ちはこの世界で出会った人達の中では一番美少女かもしれない。
細身ながらも女性的な身体は綺麗なラインをしていて、淡いピンク色のワンピースがよく似合っている。
なるほどなー。確かに中身は美少女だったわ。
これで疑いは晴れたわけだ。良き良き。
「なっ……にゃあああっ!?」
我に返ったナインさんは悲鳴を上げ、自分の顔を隠しながら座り込んだ。
「ななななっ!? 何したんですか!?」
「内緒です。て言うか本当に可愛いですね」
「いやあああ! 見ないで欲しいっす!」
「えー。そう言われると見たくなります」
うわぁ、首まで赤くなってる。めっちゃ可愛いな。
こっちに来て美形しかみてないけど、ナインさんはその中でもとびっきりだ。
そんな美少女が恥ずかしがってる姿はなんて言うか……とてつもなく破壊力がある。
「外装! 予備の外装はっ!?」
わたわたしているナインさんにそっと近付くと。
「そんなに慌てないでくださいよ」
彼女の両手をガッシリと掴んだ。
ふとした拍子にくちびるが触れてしまいそうな程近くに、ナインさんの赤くなった顔がある。
目を潤ませて今にも泣き出しそうな表情に、私の中の何かがゾクリと悦んだ。
あ、いかん。これクセになっちゃうやつだ。
パッと手を離すと、すぐさま予備の外装とやらを取り出して顔に取り付けて……て、おい。
それただの布の目隠しじゃないか?
前見えんのかそれ。
「ふぅ……酷い目に会いました」
ナインさんは落ち着いた様子で立ち上がると、こちらを向いて不服そうな顔をした。
見えるのかよ。すげぇな。
つーか顔が隠れてればそれでいいのか。
何でカーネルサンダー〇ロボ着てたんだよ。
「えっと、なんかゴメン」
「乙女の純情を弄ぶなんて外道っすね!」
「いや、ゴメンって」
「これは許されざる案件ですよ! こうなればうちの商品を全部買ってもらうしかないっすね! ぼったくり価格で売りつけてやるから覚悟してください!」
いらっ。
「……もっかい剥いでやろうか?」
「調子乗ってすみませんでしたぁ!」
無表情で手を伸ばすと綺麗な土下座を決められた。
この人、アテナと似た匂いがするなー。
「うぅ……でも辱めを受けたのは事実っすよ?」
「とりあえず街の案内、お願いできますか? お金払うんで」
「こちらへどうぞお嬢様! あたしの事はナインと呼び捨てにしてください!」
うわぁ。この手のひら返し、ある意味感心するわ。
チョロすぎるな、この人。
案内任せて大丈夫なんだろうか。
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