これは聞いてなかったんだけど


 アメジストたん達と楽しいひと時を過ごした後、そのまま部屋に戻って一言。


「アテナ、ライラ。今から風呂入るから。覗いたらコロス」


 しっかりと釘を刺したあと、脱衣所に直行。

 躊躇ためらいなく全裸になると、脱いだ服に『清潔』の魔法をかけて畳んでおいた。

 洗濯の必要がないのは便利だな、と思いつつ、いざ風呂場へ。


 いやー、湯船につかるなんていつぶりだろ。

 前世は時間なくてずっとシャワーだけで済ませてたからなー。

 シャンプーとかは無いけど、リチャードさんのお店で買ってもらった石鹸せっけんで代用しておこうか。

 と、ウキウキしながらドアを開けると。


 そこには、知らない女の子が全裸で立っていた。


 長い黒髪に、つり目がちで大きな黒真珠ような瞳。

 まるで子猫のような、とても愛らしい顔立ちをしている。

 肌は白く、首は細くて、肩幅は狭い。

 胸はあまり無いけれど、それが逆に女の子の愛らしさを引き出している。

 際どい部分は伸びた髪が隠しているけど、身体のラインが理想的で正に美術品のようだ。

 とてつもない美少女。

 それが私の目の前に、全裸で立っている。


「……あ、え?」


 何故自室の風呂場に、こんな子がいるんだろうか。

 驚きで固まること十数秒間。

 ずっと目を合わせ続けて、そしてようやく気が付いた。


 これ、鏡だ。


「アテナァァァ!」


 全身全霊を込めた雄叫び、再び。


「どうしましほわァァァ!? リリィさんの生まれたままの姿! これなんのご褒美ですか!?」

「うるせぇてめぇそこに座れや」

「あ、はい」


 とりあえず、異様に興奮している女神を正座させた。



 こちらの世界に転移する前にアテナから聞いた説明では。

 私は私のまま、年齢だけ若返ると聞かされていた。

 それから自分の姿を見る機会が無かったから気付かなかったけど、どうやらとんでもない美少女に生まれ変わっているようだ。

 何か自分で美少女とか言うのは恥ずかしいけど。


 で、この外見。元の私とは掛け離れたこの姿は、アテナの趣味だということが発覚。

「清楚で可憐で砂糖菓子のようで、それでいてちょっと目付きの鋭い女の子」を目指したんだとか。

「胸は小さくても良いから全体のラインが整ってる方がタイプなんです」とか供述された。

 つまり犯人はこいつだ。


「つまりお前は私を騙したわけだな?」

「いえ、その、どうせなら好みの女の子を見ていたいなって言うか……魔が差しました」

「ギルティ」

「いや待ってデコピンはヤメぎゃぁぁぁ!?」


 悪・即・斬。


 さておき。どうやら私は美少女に生まれ変わっていて、更には人に好かれる『愛』スキルを持っている、と。

 十分チートじゃねぇか。

 いやでも、驚きはしたけど実害は……あったわ。

 この世界でやたらとGL展開に巻き込まれるの、これが理由の一つかも。


「あーもー。なんか無駄に面倒事が増えてる気が……ん? なに?」


 腕を組んで悩んでいると、アテナがじっとこちらを見ていた。

 なんか言いたい事でもあんのか?


「いえその、私的には嬉しいんですけど……良いんですか?」

「は? 何が?」

「気付いてないみたいだから一応お伝えしますけど、リリィさん全裸ですよ?」

「あー。まぁ見られて困る訳じゃないから良いけど……変なことしたらへし折るぞ?」

「サーイェッサー!」


 正座で敬礼ってシュールだな、おい。


「あぁ、とても幸せな時間です……我が生涯に一片の悔い無し!」

「その辺の価値観はよく分かんないなー。私見てそんなに嬉しいの?」


 確かに外側は可愛いと思うけど、中身はただのオタ女子だぞ?

 ていうかほぼオッサンだからな?


「だって見た目完璧に好みのタイプですもん。灼眼のシャ〇ちゃんみたいで最高です。クギミヤボイスですし」

「おい私をロリ枠に当てはめるな」


 精神年齢二十八歳にそれはキツい。


「それに性格も好きですよ。優しいけどちょっとSっぽい所とか、強気なのに迫られたら弱い所とか」

「……ねぇ、アテナの言う好きってさー。ライクなの? ラブなの?」

「さぁ。何せ私は恋をした事が無いので」


 なるほど。こいつにとって全ての生き物は同価値だって言ってたし、比較対象が無いのか。

 神様ってのも大変なのかもなー。


「まぁリリィさんとえっちな事をしたいとは思ってますけどね」

「お前もか」


 神様ってろくな奴いねぇな。


「だって私は『生命』の女神ですし、命を作り出す行為に興味はありますよ」

「なるほ……いや待て、同性だと生まれないよね?」

「あ、互いに愛があれば作れますよ。そういう世界なんで」


 マジか。


「性行為によって魂を融合させて、それにより子を作り出すという原理なので、妊娠も出産も無いです。ついでに性別や種族は関係ないですし、ドラゴンと人のハーフとか居ますよ」

「へぇ、さすがファンタジーだな」

「なのでもちろん、私とリリィさんでも子どもは作れますよ。試してみませんか?」

「お前なー。こっちは三十年近く処女拗らせてんのよ?」

「それを言うなら私は何億年単位ですよ?」


 億って。いやまぁ、確かに神様だもんなぁこいつ。


「とにかく、今はその気は無いから。先は知らないけど」

「お、ちょっとデレましたね。いやぁツンデレロリ最高です」

「うるさい。嫌だけど現状に慣れつつあるのよ」


 何せ今のところ、出会った女性みんな百合だし。

 なお、ナインさんは除外する。あの人は性別すら分からないし。


「ちなみにですけど、仮にヤるとしたら誰が良いですか?」

「……うーん。多分、アテナだと思う」


 エリーゼとグロウレイザさんは怖いし、ライラはヤバそうだし。

 かと言ってエルンハルトさんは巻き込みたくないし、アメジストたんはサファイアさんとカップリング出来てるし。

 ジークはBL方面で活躍してほしいし、ナインさんはよく知らないし。

 消去法として残るのはアテナだけだ。


「あの、今の私って超好みの女の子に全裸で抱かれても良いって言われてる状況なんですけど、これって合法ですよね?」

「良いんじゃない? 二度と口効かないけど」

「それって酷くないですか!?」


 うーん。なんか申し訳ないし、とりあえず服着るか。

 だからそんな事で泣くな。女神だろお前。

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