アメジストたんとお食事デートだ
ハンバーグ。うん、確かに言われた通りハンバーグだけどさ。
私は目の前にある料理をハンバーグだと断言して良いんだろうか。
いやまぁ、異世界だし地球との違いがあるのは知ってたけどさ。
なんでこのハンバーグ、青いん?
「んんー! おいしー!」
幸せそうな顔のアメジストたんには悪いけど、これはちょっと抵抗があるな。
うーん。でも食べないのは申し訳ないし。
地味に困った。うぅむ。
「本日は特級の素材が手に入りましたので……リリィ様? お気に召しませんでしたか?」
「あれ、リリィちゃんハンバーグ苦手?」
揃って私を見つめる二人。どうでも良いけど傾げた首の角度まで同じなのは微笑ましい。
「あ、いや。大丈夫だと思う」
いいや、とりあえず食ってみるか。
頑張れ私の『勇気』スキル。
いざ、実食!
……あれ? 普通に美味いんだが。
でも何の肉だろ、これ。牛でも豚でも鶏でも無いし。
サファイアさんに目を向けると、嬉しそうに笑いかけてくれた。
「お分かりになられますか。リリィ様の予想通り、本日はブルーリザードではなく『ブルードラゴン』のもも肉を使用しております」
いや、私は分からないから聞きたかっただけなんだけど。
しかしドラゴンと来ましたか。さすがファンタジー。
なんだろ、似た味が思い浮かばないけど……強いて言うなら旨味の強い鶏肉か?
全体的にふんわりしてて、お肉が凄い柔らかいし、噛むと口の中で独特な旨みが広がる。
ハンバーグだからか、とてもジューシーだ。
臭みも無いし、酸味の効いたソースのおかげで脂もくどくない。
おかげでいくらでも食べられそうだ。
「あたし、これ好き! 始めて食べたけど!」
「存じております。アメジスト様の為にステーキではなく、敢えてハンバーグにしておりますので」
「そうなの? やっぱりサファイアってばあたしの事好きすぎー!」
「職務ですので」
「すーぐそうやって照れ隠しするー!」
イキってるアメジストたん、本当に可愛いなー。
じゃなくて。これってかなり高級食材なのでは?
「あぁ、御安心ください。リリィ様にお出しする料理に万が一があってはなりませんので、本日は私自ら食材調達を行っております」
「え、ドラゴンをですか?」
「ブルードラゴン程度なら問題御座いませんので」
何だろ、この世界のドラゴンって対して強くないのかな。
普通だったらラスボス的な位置付けだと思うんだけど。
「サファイアは、その。魔王軍でもかなり強いから」
「あ、そうなんですか。でも何でそんな人がメイドさんに?」
「名目上はアメジスト様の護衛ですが……まぁ、お守りですね。アメジスト様には任せられません」
「ねぇぇぇ! だから言い方ぁぁぁ!」
あ、納得。アメジストたん一人にするとトラブルに巻き込まれそうだしな。
「さすがに肉片も残っていなければ料理は不可能ですし」
そっちかよ。理由ひでぇな。
「なに、アメジストたんそんなに強いの?」
「歴代最強の魔族として名前が上がっていますね。中身は残念極まりないですが」
「サファイア!?」
そこはちょっと分かる気がするわ。
残念って程ではないけど、この子が戦ってる姿とか想像できないし。
「ちょっと! 最近はちゃんと手加減できるもん!」
「つい先日、古龍種の上位個体を消し飛ばしたのは誰でしたっけ」
「ふぐぅっ……いや、あれはその、ついウッカリって言うか……」
ついウッカリで消し飛ばしたのか。
てかドラゴンってそんな簡単に狩れるもんなのか?
やべぇ、ツッコミが追いつかない。
「ちなみに古龍の上位個体ともなれば一般兵が千人いても太刀打ち出来ない為、災害認定されております。魔王様かこの脳筋ポンコツ意外には討伐不可能ですね」
「ねぇぇぇ! なんでそんなに意地悪な言い方するの!?」
なんか可愛らしくポカポカ叩いてるけど、サファイアさんはガン無視だ。
て言うか涙目になってるからそろそろやめてあげてほしい。
「アメジスト様はこれでも魔王軍四天王の筆頭ですので。戦闘力だけなら最強に近いですよ」
「んーと、アメジストたんってそんなに強いの?」
「人間族の勇者パーティを一人で足止め出来ますね。一般兵の戦力を1とすると、アメジスト様は10億ほどでしょうか」
インフレやべぇな。
てか、そういやこの世界って勇者とかいるんだっけ。
やっぱり魔王討伐の旅とかしてるんだろうか。
「ねぇ、魔王軍はやっぱり人間と戦ってんの?」
「戦い、ですか? いえ、特にそのような事はありませんが」
「あ、そうなんだ」
キョトンとした顔で返された。
てっきり戦争でもしてると思ってたんだけど、違うのか。
勇者も魔王もいるのに平和な世界なんだな。
「つい1週間ほど前も勇者が遊びに来ていましたよ」
「あれま。遊びに来る程仲が良いんだ」
「そろそろまた遊びに来ると思うので、お会い出来る機会もあるかと」
「なるほど。ちょっと興味あります」
魔王と勇者とか、良いカップリングが作れそうだし。
……うへへ。良いですなぁ。
「ところでリリィ様、デザートはいかがですか?」
「お、ぜひぜひ」
「ではこちらをどうぞ。お口に合うと良いのですが」
ことんの目の前に置かれたのは、拳大の丸い果物が乗ったお皿だった。
でもこれまた色が……虹色に光ってんだけど、なんだろうこれ。
「天界で収穫したグロリアスフルーツです。皮ごとお召し上がりください」
言われるがままに口に運ぶと、シャリッと小気味の良い音がした。
桃みたいな味だな。いや、あれ? リンゴ? パイナップル? なんか味が変わっていってる気が。
「こちらは様々な果実の味を楽しめる最高級品の果実で、アメジスト様の好物でもあります」
いや、真面目にさ。サファイアさんってアメジストたんの事好きすぎじゃないか?
天界ってそんなに簡単には行けないって聞いた気がするんだけど、わざわざ入手してきたのか?
「んー! おいしー!」
「左様でございますか」
「サファイア、ありがとー!」
「職務ですので」
にっこり微笑んでるところを見ると、仕事だけが理由じゃないのは明白だ。
なるほど、良い関係だな。
「では食後の紅茶を用意致しますので、しばしお待ちください」
「あれ? てか今更ですけど、サファイアさんは一緒に食べないんですか?」
「本日はお客様をもてなすのが仕事ですから。私は後で頂きます」
「んー。じゃあ次は一緒に食べましょ。そっちの方が楽しそうだし」
「……畏まりました。では、そのように」
ん? すぐに笑顔に戻ったけど、一瞬呆気に取られた顔をしてたな。
地球と同じでメイドさんは一緒に食べないのが普通なのかも。
まぁ、そんなん知ったこっちゃ無いけど。
みんなで食べた方が美味しいに決まってる。し
「ぁ……リリィちゃん、また来てくれるの?」
「え、うん。友達だし」
「そ、そうだよね! 友達だもんね!」
ぱあぁっと明るくなるアメジストたんに癒される。
絶対また来よう。守りたい、この笑顔。
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