レッツお買い物


 改めてナイン魔導具店の中を見渡すと、やはり使い方の分からない物で埋め尽くされていた。

 グロウレイザさんのところで見かけた水晶やコンロ型の魔導具は分かるんだけど、デカい箱型の置き物とか謎に光っている剣とか意味が分からない。


「まずはこれっすね。誰もが欲しがる定番アイテム『マジックボックス』っす!」


 お、出たな、ファンタジーの定番アイテム。

 インベントリとはどう違うんだろう。


「これはレア物で、持ち主の魔力量に合わせて物を収納できます。重さも感じないから便利っすよ」


 ほう。つまり普通は持ち運べる量に制限がある、と。

 あっぶね、誰にもインベントリの話をしてなくて正解だったわ。


「うーん、似たような物を持ってるので次をお願いします」

「じゃあこれなんかどうっすか? 炎の魔石を使用した魔剣です。最硬度の耐久性と切れ味を両立させた優れものっすね」

「結構です」


 一般人に武器をすすめるんじゃない。買う訳ないでしょうが。


「むぐぐ……じゃ、じゃあこれはどうっすか!? 簡易障壁発生装置! 魔物の攻撃から不意のトラブルまで、何でも防いでくれるっす!」


 ……えっと。

 おーいアテナ、この世界で私が怪我する事ってあんの?


(ないですねーー。最強の古代龍の攻撃でも無傷で済みます)


 だよなぁ。ステータスがバグってるもんなぁ。

 なんか申し訳ないけど、必要ない物を買うのもなー。


「それもちょっと……そうだ、日常で使えそうな物は無いですか?」

「うーん……うちは特殊な魔導具をメインに取り扱ってるんすよね。魔力付加された服とかならありますけど」

「あ、服があるなら見せてほしいです」

「じゃあ持ってくるっす。しばしお待ちを!」


 らっきー。もう何着か欲しかったんだよね。

 さすがに三着だけじゃつらいものがあるし。

 あ、でも異世界ファンタジーの服って言ったら高級品じゃないっけ。

 あんまり持ってるのも不自然かな。


「お待たせしました。この辺りとかどうっすか」

「いや待て、鎧じゃねぇか」


 持ってきてくれた物がどう見ても革鎧にしか見えない件。


「これは便利ですよ! 耐水耐火対衝撃の魔法が付与されていて、自動修復機能もあるっす!」

「あの。私、旅に出る気も戦う気も無いんですが」

「……あ。そうか、リリィさんは一般人でしたね。うむむ……普通の服となると、この辺りはどうっすか?」


 ナインさんが広げてくれたのは、シンプルなデザインの中にちょっとだけ高級感がある服だった。

 街で見かけた服と系統が似てるし、これは普通にありかもしれない

 てかナインさんセンス良いな。本人はメカ・カーネ〇・サンダースだけど。


「こっちは『自動修復』の魔法が付与されてるっす。長く着られる優れものっすね」

「買います。種類はありますか?」


 即決だ。自動修復機能の付いた服とか便利すぎる。


「同じ機能がついた服なら三着ありますね」

「じゃあ全部お願いします」

「毎度ありです! ちなみに下着もあるっすよ」


 あ。やべ、すっかり忘れてたわ。

 今着てるやつしか持ってないじゃん。


「じゃあそれもお願いします。どんな奴ですか?」

「いろいろっすね。普段使いから勝負下着まで取り揃えてるっす」

「……普段使いの方を見せてください」


 いや勝負下着も気にはなるけど、今んとこ勝負を仕掛ける気は無いし。

 そっちはまた今度見せてもらおう。


「こっちは『自動修復』に加えて『光のライン』の魔法が付与されてるっす」

「へぇ。どんな魔法なんですか?」

「見えそうになったら自動的に謎の光が隠してくれます」

「まじですか」


 少年漫画とかでよく見かけるアレか。魔法って何でもありだな。


「あとは『虚飾豊胸』とかありますよ」


 難しい言葉使ってるけど、それってつまりパットだよな?

 型崩れ防止はしておきたいけど、無理に膨らませようとは思わないなー。

 

「うーん、そっちは必要ないですね。針金入りの矯正下着とかありますか?」

「……ほほう? 詳しく聞いてもいいっすか?」

「え、いや、下着に細いワイヤーを入れておいて、胸の形を整えるやつです」

「なるほど? うーん……そんなもん聞いたことねぇっすけど、まぁ作れそうではありますね」


 言っておいてなんだけど作れるのか。

 あれって結構技術力が必要だと思うんだけど。


「ていうかそれ、商業ギルドで特許取れますよ」


 特許? 矯正下着でか?

 あ、でも確かにこの世界に無いんなら特許取れるのか。

 ていうか特許って異世界にもあるんだな。


「あたしがサンプル作るんで一緒に特許取りません? 不労所得ゲット出来るっすよ!」

「んーと。よく分かんないんでお任せしますよ」

「は? いや、取り分の相談とか……」

「んー。エルンハルトさん、ナインさんって悪い人ですか?」


 黙って話を聞いてくれていたエルンハルトさんに聞くと、爽やかな笑顔を返してくれた。


「ナインは悪人ではないな。私の友人だ」

「ならナインさんの好きにやっちゃってくれて良いですよ」

「ぐっ……信頼が重いっすね。まぁ、リリィさんに損させないようにはしてみるっす」

「お願いします」


 ぶっちゃけ、多分私がお金に困ることは無いだろうしなー。

 エルンハルトさんの友達ならきっと大丈夫だし。


「じゃあとりあえず衣服を一揃いお願いします。ほかにおすすめとかってあります?」

「あとは小物とかオモチャっすね。こっちも見ていきます?」

「おぉ、お願いします」

「お待ちくださいねー」


 ナインさんはそう言いながら再び店の奥へ行ってしまった。

 異世界のオモチャか。オセロはあったけど他にも似たようなものがあるんだろうか。ちょっと楽しみだ。

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