魔導具店に来てみた


 エルンハルトさんの案内で辿り着いた店は、大通り沿いにしては小さめだった。

 窓越しに見える店内はよく分からない物で溢れかえっていて、どこに何があるか一見しただけじゃ把握出来ない程だ。

 て言うかぶっちゃけ、倉庫か何かだと思った。

 ドアの上に『ナイン魔導具店』と書かれた看板が吊り下げられてなかったら、お店と言われても信じなかったかもしれない。


 エルンハルトさんがお店のドアを開けると、チリンと小さく鈴の音が聞こえた。


「ナイン、いるか?」


 エルンハルトさんの問い掛けに、店のカウンターの奥から鉄の塊がにょきっと生えた。

 ……なんだあれ?


「エル、ヘルプミーっす」

「またか。だからあれ程整理整頓しろと言っているのに」


 そこから聞こえてきたのは機械の合成音声らしきもの。

 エルンハルトさんは大きな溜息を着きながら、周囲の物をどかしてその手を引っ張り上げる。

 すると、何かよくわからないものが出てきた。

 人の形はしている。けど、なんて言うか。全体的に金属製って言うかさ。


 どう見てもロボットだよなこれ。


 しかも妙に見覚えがあるって言うか……これデフォルメされたカーネル・サンダー〇さんじゃねぇか。

 フライドチキンのお店で、手を前に差し伸べて微笑んでるあの人だよな。

 なんで異世界に居るんだよアンタ。しかもロボット化して。


「うにゃー、助かったっす。三日も埋まってたから死を覚悟してたんすよ」

「三日もか。新記録じゃないか?」

「うんにゃ、自己最長は五日っすね」

「なぜ生きているんだお前は」


 エルンハルトさんは呆れた調子で普通に会話してるけど、違和感とか無いんだろうか。

 この世界から完全に浮いてんだけどコレ。


「リリィ、この馬鹿はナインだ。この魔導具店の店主をしている」


 なるほど。ここは魔導具店なのか。まずそこから理解してなかったわ。


「ナインっす!」

「えぇと……どうも、リリィ・クラフテッドです」


 手を差し出されたから握手してみたけど、やっぱり質感は金属だ。

 つーか関節が細かいな。どういう原理で動いてんだこれ。


「一応補足しておくが、こいつはゴーレムの類ではないぞ。この鎧の中に本体が入っているらしい。誰も見たことが無いがな」

「あたしの外装は魔王様でも剥がせないっすからね。乙女の柔肌は誰にも見せないっす」


 あ、女性なのか。性別を判断できる箇所が皆無だから分からなかったわ。


「本題に入るが、リリィは記憶をなくしていてな。この街で職を探しているんだが、どこか良い店を知らないか?」

「うーん。この人って見たところ人間っすよね? 魔法は使えるっすか?」


 あーうん。やっぱりそこ聞かれるよね。

 仕方ない、正直に答えよう。


「初級魔法と『梱包』の魔法を使えます」

「……『梱包』っすか? え、物をラッピングするあれ?」

「そうですね。何でも綺麗に包めるらしいです」

「役立たずじゃねぇっすか」


 そうだね。私もその通りだと思う。


「ナイン! いきなり失礼なことを言うな!」

「エルンハルトさん、大丈夫ですよ。事実なので」

「しかしリリィ……」

「自分でも役立たずな属性だと思ってるんで。むしろ戦闘用の属性じゃなくて良かったと思ってますし」


 下手したら軍に強制加入コースもあったかもしれないし。

 そうならなかったのは本当に良かった。

 日本人的な考え方が抜けていない私にとって、戦争なんて無理だもんな。

 スキル的には拳闘士とか冒険者が向いてるんだろうけど、そうなるとこの街を出る許可をもらわないといけないからなー。


「ふむ……? リリィさんはどんな仕事がしたいんです?」

「特にこだわりは無いです。そもそもどんな仕事があるかさえ分からないので」

「そうっすか。うーん……でもこの時期だと専門職以外はどこも人手が足りてるんすよねー」

「専門職ですか?」

「魔法薬や魔導具の作成とか魔物の解体とかっすね」


 なるほど。確かにそれは厳しそうだな。

 ふむ。これは真面目にマクドナ〇ド異世界支店をやるべきなんだろうか。


「ちなみに、飲食店を新しく開くってなると大変ですか?」

「飲食店っすか。それなら店を出すだけならギルドに金さえ払えば誰でも出来るっすよ」

「あーそっか。始めるのにもお金が必要ですよね」


 そりゃそうだ。物を揃えたり場所借りたりしなきゃならないもんなー。

 じゃあやっぱりアルバイトしてお金を貯めるところからか。

 世知辛いな、異世界。


 とか思っていると、脳内に直接声が聞こえてきた。


(リリィ。貴女のインベントリにプレゼントを収納しておきました。確認してください)


 おっと。この声はライラか? 何あんた、聞いてたの?


(たまたま聞こえていました。たまたまです。偶然です。常に監視なんてしていません)


 おいやめろ、今すぐにだ。女神じゃなくてただのストーカーじゃねぇか。


(わかりました。時折にしておきます)


 いやそもそも監視すんな……ってか、何? プレゼント? いきなりだな。

 てかインベントリって人前で見ても大丈夫なの?


(マジックボックスという名前で普及しているので問題ありません。意識するだけで中身が表示されたステータスプレートのような物が出てきます)


 おっけ。ちょっと見てみるわ。んーと。


 開け我が宝物庫! ゲート・オブ・バビ〇ン!


 ……あ、うん。普通にプレート出てきたな。

 なんで対応してんだよ。

 

 てかこれ、何だ? えーと、白金貨が、いち、じゅう、ひゃく……十万枚?

 それに『アテナからの手紙』と『ライランティアの手紙』が入ってるっぽい。

 とりあえず中身を確認してみるか。


『拝啓リリィ様

 今週は夜の倍マッ〇が五十円なのでお得ですよ!

 アテナより愛を込めて』


 よし、ゴミだな。

 せめてもう片方はまともであってくれ。


『リリィへ

 昨晩はとても愛らしい寝姿でしたね。あんなに可愛らしいおへそは初めて見ました。

 寝乱れた姿もとても良かったです。即座に記録用魔導具で保管しました。

 それとは何も関係無い話ですが、本日はお風呂に入ることをオススメします。

 また、服装に関しても様々な物を着ることを強く願います。

 その為の資金を送りますので使ってください。

 貴女のライラより、愛を込めて』


 こわぁぁぁ!?

 なんだこれ、ストーカー宣言じゃねぇか!?

 やばい、これは早急に何か対処しないと。

 あ、そうか。『梱包』魔法で私を包んじゃえば良いかもしんない。

 今夜はそれを試してみるか。


 ってか、資金ってこの白金貨ってやつだよね?

 お金の価値が全く分かんないんだけど、なんか名前的に嫌な予感しかしない。


「エルンハルトさん。お金の価値を教えてください」

「そうか、記憶が無いんだったな。

 この世界の通貨は1E硬貨、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨の6種類で、単位はEエンと呼称する。

 1E硬貨はそのまま1E、鉄貨が10E、銅貨が100E、銀貨が1000E、金貨が10000E、白金貨が100000Eとなっている。

 国民の一般的な一月の収入は2000から4000Eと言ったところか」


 うわ、ややこしいな。

 えーと、て事は前の世界と比べてみると、1Eは100円ぐらいで、それ以下の単位は存在しないって感じか?

 月に銀貨2~3枚、年で金貨4枚位あれば十分生活出来るって感じだな。


 いや待て。じゃあ何か、白金貨10000枚って十億円相当か?

 月二十万円から四十万円くらいが平均賃金の世界で、十億?

 うわぁ、そう来るか―。さすがにこっちは予想してなかったわ。


「……あの、エルンハルトさん」

「どうした? 何か分からないところがあったか?」

「いえ、その。非常に言いにくいのですが……お金の件、問題なくなりました」

「なに? どういう事だ?」

「えーとですね。一言でまとめると、ライラのおかげでお金持ちになりました」

「……あぁ、なるほど。そうか、そういう事もあるのか。さすが最高神様だな」


 すげぇ、納得されたわ。

 どんだけ崇拝されてんだ、女神たち。


「あの、お借りしていた分をお返ししたいんですけど」

「不要だ。昨日も言ったが、出会いの記念として受け取っておいてくれ。その方が私も嬉しい」


 なんだこの人、イケメンすぎないか?

 そういう事ならありがたくいただいておくとして、また別の機会に食事でも奢らせてもらおう。


「話が見えねぇんすけど、仕事の件は解決したって事っすか?」

「そうみたいです。ご迷惑をおかけしました」

「いや、それは構わねぇですよ。良かったっすね」


 おぉ、無駄に頭使わせちゃったのにさらっと流してくれた。

 ナインさん、良い人だな。見た目は不審者だけど。


「ていうか金があるならうちの店見ていきません? ぶっちゃけ今月やべぇんすよ」

「んー。エルンハルトさん、良いですか?」

「私は元々ここで買い物をするつもりだったからな。好きに見ていくと良い」

「じゃあそうします。道具の使い方を教えてくれると助かります」

「マジ助かるっす! ナインちゃんのスーパーセールストークを見せてやるっすよ!」

 

 ふむ、これは期待できそうだなー。

 ぶっちゃけ『魔導具』ってパワーワード聞いてから、一度見てみたいと思ってたし。

 いろいろと紹介してもらおうか。

 

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