チートの説明くらいちゃんとやろうか
「いったぁ……では改めて、スキルの説明をさせて頂きます」
「おい。そのホワイトボードどこから出した?」
何も無いところから出てきたんだけど。
あれか、女神パワーか?
「これはインベントリのスキルです。頭の中で願いながら触れると収納出来て、出したい場所を見ながら願うと出て来ます」
「ほう。どれどれ」
試しにアテナに手を当てて願ってみる。
……変化がないんだけど。
「あ、生き物は無理ですよ。て言うかナチュラルに私を監禁しようとしないでください」
「なるほど。そりゃ!」
目の前で揺れているデカい胸を掴みながら願うと、今度は望み通りに収納できた。
アテナの服を。
「ひょああああ!? なにするんですか!?」
慌てて体を隠そうとしてるけど、まったく隠せていない。
良い体してるじゃん。いやぁ、眼福だわ。
「テストよテスト。ほら、用済みだから返すわ」
「ひどい……これでも女神なのに……」
めそめそすんな。いいから早く着て説明しろ。
「うぅ、ひどい目に会いました……それでは、スキルの説明をしますね」
黒のマジックをキュッキュと鳴らしながらホワイトボードに何やら書き込んでいく。
「まずは『勇気』のスキル。これは力と速さのステータスが上がります。あと単純に勇気が出ます」
「やっぱりスキルだったのね。秘められた力が解放されたのかと思ったわ」
「やっだ、そんなもんある訳ないじゃないですかー。そういうのは十代前半で卒業してくださいよー」
「おらァ!」
「ぐはァッ!?」
デコピン。アテナの頭が後ろに吹っ飛んだ。
「次。早く」
「いえっさー! 次は『愛』のスキルです!」
泣きながら敬礼すんな。いいから説明しなさい。
「えーとですね。これは生き物に好かれやすくなります」
「……犬に襲われたんだけど?」
「あれは魔物だからスキルが効きにくいんですよ。まったく、次から気を付けてくださいね?」
謎の上から目線。イラついたのでデコピンの構えを取ると、アテナは美しいジャンピング土下座を決めた。
「……次。ウサギだっけ?」
「はい。これはウサギに好かれるスキルです」
「ん? 愛と被ってない?」
「いえ、尋常じゃないくらいウサギに好かれます」
「具体的には?」
「ウサギが即座に求愛行動を取りながら迫ってきます」
「呪いじゃねぇか」
なんてもん寄越してんだこいつ。
ウサギの可愛らしさが消し飛んだじゃん。
「一部のマニアックな人達からみたら最高のスキルなんですけどね」
「残念ながら私にそんな性癖は無い」
私自身は至ってノーマルだ。
男同士を見るのは好きだけど。
「んで、最後のスキルだけど……なんて言うか、何で〇クドナルド?」
「あ、これは凄いですよ。レベルにもよりますけど、マジでオススメです」
「ふーん。どんなスキルなの?」
「マクドナ〇ドのメニューを召喚できます。無料です」
「まさかのガチチート枠かよ」
中世ヨーロッパ風の世界でファストフード食べ放題か。
世界観ぶち壊しだな。
「今はまだレベルが『セカンドアシスタント』なのでハンバーガーセットだけですけど、レベルが上がると色んなメニューを呼び出せます」
「普通に凄いねこれ。ごめん、ちょっとバカにしてたわ」
「全マクドナ〇ド信者に謝れ! 謝ってください! 早く!」
「え、うん。なんかゴメン……」
うわ、美人がキレると怖いな。
てかどんだけマクドナ〇ド好きなんだコイツ。
「とにかくほら、試してみてくださいよ。出したいメニュー名を言えば出て来ます」
「んじゃ……『ハンバーガーセット』」
つぶやくと同時、見慣れた緑色のトレイと例のセットが現れた。
慌ててキャッチしたけど、どう見てもあのセットだ。
ハンバーガー、ポテト、ドリンクが揃ってるし、聞いた感じだとこれが無限に出てくるようだ。
これ、真面目に凄くないか?
「あ、使用済みのトレイは収納してくれたら後で回収します」
「回収できるのか……うん、とりあえず理解した」
「どうです!? 凄いでしょう!?」
「うん、これは凄いね。初めてアテナに感謝したわ」
「え、初めて……?」
首を
アンタ感謝されるような事何もしてないだろ。
「後は街の方角と距離が知りたいんだけど」
「えーと……あ、こっちですね。一時間くらい歩けばそこそこ大きな街があります」
一時間か。地味に遠いな。
まぁ徒歩圏内にあっただけでも良しとするか。
「あ、そうだ。アテナ、ちょっとおいで」
「はい? なんですか?」
迂闊に近付いてきたドジっ子女神にデコピン。
アテナの頭が勢いよく仰け反った。
「むぎゅッ!?」
「アンタ私を送り込む場所ミスったろ?」
「いやそんなことは……ごめんなさいミスりました! 認めるからデコピンのおかわりはやめてください!」
「ほんと頼むわよ……他には何もやらかして無いでしょうね?」
「そんなまさか……あっ」
おい。まだ何かあるのか。
「いやいや! ミスって訳じゃなくてですね!」
「はぁ……何よ?」
「心底呆れたようなため息!? いや、名前ですよ名前!」
「名前? あ、そうか。日本の名前だと違和感あるのか」
「お約束な東の島国は無いので、適当に名前を決めてください」
無いのか、東の島国。
米とか醤油はあるんだろうか。
「名前……名前ねぇ。私ネーミングセンス無いんだよね。アテナが付けてくれる?」
「じゃあ『リリィ・クラフテッド』と『石川門左衛門』のどっちが良いですか?」
だから二番目ェ!
「リリィでいいわ。私は今日からリリィね」
元の名前は二度と使うことは無いだろう。
元々嫌いな名前だったしちょうど良い。
リリィ・クラフテッド。
新しい名前で、新しい人生を送るとしよう。
さぁて、まずは街を目指すとしますか。
「さぁ行きましょう! いざファンタジーの世界へ!」
「え。アテナも来るの?」
「いえ、私は帰りますよ? お腹空きましたしマクド〇ルドでビッグなセットを食べます」
自由かアンタ。やりたい放題だな。
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