ご飯が美味しい!


 エルンハルトさんに次に案内されたのは城内の食堂だった。

 お昼時だからか兵士さんが沢山いて賑やかだ。

 どうやらここでお昼ご飯を食べるみたいだな。


 きょろきょろと食堂内を見渡していると、その一角。

 端の方に見知った顔を見つけた。


 ジーク? なんだ、あいつも兵士だったのか。

 つーかめっちゃ浮いてんじゃん。ぼっち飯かよ。

 よし、ここは一緒に飯食うか。


「リリィ、私が二人分持ってくるから席の確保を頼む」

「分かりました。お願いします」


 列に並んだエルンハルトさんを置いて、ジークの居るテーブルに向かう。

 何でここだけ空いてんだろ。こいつ嫌われてんのか?

 話した感じめっちゃ良い奴なんだけどなー。


「おっす。あんた友達いないの?」


 気楽な調子で話しかけると、周りがザワりと沸いた。

 周りの注目を集めてるのが分かる。

 けどまぁ、もう話しかけちゃったしなぁ。


「リリィか。用事は終わったのか?」


 顔を上げたジークは何となく嬉しそうだった。

 分かりやすい奴め。


「うん。グロウレイザさんを紹介してもらった」

「ほう。あいつと会ったのに正気なのか」

「それどういう意味よ。エルンハルトさんにも心配されたんだけど」


 向かい側に座るとさらに食堂内がざわついた。

 うーん。ちょっと周りの反応が面倒臭いな。


「あいつは『悪夢の淫魔』って二つ名をもっている、魔王軍幹部の一人だ」


 ほう、幹部とな。なるほど、やっぱり偉い人だったのか。

 何でそんなお偉い人をわざわざ指名するかな。

 エルンハルトさん何してくれてんだ。


「魔王軍最強の魔法使いで、特に『魅了』の魔法を好んで使うんだが……遊び感覚で男女問わずに魅了して、気絶するまでヤるような厄介な奴だ」


 エルンハルトさん何してくれてんだ!?


「え、こわ。魔王軍って変なの多くない?」

「なんだ、他にも誰かに会ったのか?」

「エリーゼさんにテストされたわね」

「『静寂の死神』にまで絡まれたのか。どんな運してるんだお前」


 なるほど、あの人も幹部なのか。

 やべぇな魔王軍幹部、ろくな奴がいねぇ。

 つーかこれがLUK-10の効果なのかな。


「ちなみに聞きたいんだけど、ジークも実は幹部だったとか言わないよね?」

「はぁ? 馬鹿なことを言うな。俺は違うぞ」


 あぁ良かった。ちょっと疑ってたんだよね。

 そんなお偉いさんにタメ口きいてたら不敬罪になるもんな。


「リリィ、待たせたな」


 お、エルンハルト戻ってきた。

 ご飯美味しそうだな。ちょっと期待できるかもしんない。

 いや、異世界ファンタジーの世界ってご飯美味しくないイメージがあるじゃん。


「ありがとうございます」

「……ジーク? こんな所で何を?」

「エルンハルトか。見てのとおり、飯を食っている」


 何であんたはドヤ顔してんだ。飯食ってるだけだろ。


「エルンハルトさん、食べましょうよ」

「そうだな。ほら、リリィの分だ」

 

 うわぉ、凄い量だな。

 唐揚げ、蒸したジャガイモ、焼き魚、サラダ、スープにパンか。

 食べきれるかなこれ。


「んじゃ、頂きます」


 手を合わせてまずは赤いスープを一口。

 おー、美味いなこれ。牛肉のシチューっぽい味だ。

 塊肉がごろっと入ってるし食べ応えもある。

 トマトの酸味が肉の旨味を引き立ててるな。

 この一品だけでも満足しちゃいそうだ。いや、勿体ないから全部食べるけど。


 次は焼き魚。見た事ない種類だけど、見た感じ青魚だ。

 フォークで身をほぐすとパリっとした感触、その直後に脂が染み出して来た。

 特有の香りが上ってきて、我慢できずに口に入れる。

 仄かな塩味とサバのような風味。

 十分に脂が乗ってて、噛むと口の中にじゅわぁって広がってくる。

 米! 米をよこせ! なんでパンしかないんだ!


 仕方なしにパンをちぎって食べてみると、これはこれで美味しかった。

 予想と違って柔らかい。ふんわりとまではいかないけど、簡単に噛むことができる。

 そして代わりと言わんばかりに強く香るのが小麦だ。

 自然な甘みが、他の料理を引き立てる役割をしっかり担っている。


 ここらで一旦サラダにフォークを伸ばす。

 葉野菜にドレッシング的な物がかかっていて、これもフォークを突き立てるとシャキッと新鮮な音がした。

 大きめなレタスをかじると、若干苦味を強く感じた。

 しかしその苦味もドレッシングが上手くカバーしていて、他の野菜も合わせてモリモリ食べることができる。

 サラダ一つでこれだ。凄いな魔王軍。


 ラスト。待ちに待った唐揚げだ。

 見て分かる程にカリカリサクサクで、揚げたての香りが心地よい。

 早速一口。途端、最初に熱さを感じた。

 ハフハフしながら噛み進めると、美味い。

 柔らかい鶏肉にニンニクを効かせた味付けで、やはり米が欲しくなる味だ。

 少し味が濃いめなのは兵士さんに合わせてあるからだろう。

 そこまで考えて作ってある、とても手間暇かけた一品だ。


 正直侮ってたわ。ファンタジー飯、めっちゃ美味い。

 何なら日本で普段食べてたご飯より美味しい。

 これからこのご飯が食べられるのか。少しテンション上がるな。


 なんて思いながら夢中で食べていると、不意に視線が集まっていることに気が付いた。


「え、なに?」

「お前美味そうに食うなぁ」


 なんかジークに関心したかのように言われた。

 美味そうに、じゃない! 美味いのよ!

 ジークも感謝しながら食え!


「リリィは食べることが好きなのか?」

「エルンハルトさんまで……ここのご飯が美味しいだけですよ」

「ほう。それなら後で料理長に伝えておこう。あいつも喜ぶだろうしな」

「なに、知り合いなの? じゃあ頼んだわ」


 本当なら自分で言いたいけど、流石にね。

 私は余所者だし、いきなり言われても困るだろうし。


「そうだリリィ、今晩は何か予定あるか?」

「特に無いけど。なに、デートの誘い?」

「阿呆か。リバーシの続きだ」


 そんな気はしてたけど即答すんなよ。

 なんか負けた気になるじゃん。


「あらやだ。夜にこんな可愛い女の子を連れ込もうだなんて、何するつもり、」

「なんだ、期待してるのか?」

「いやないわー」

「……本当に良い度胸してんなお前」


 おっと? なんだいその握り締めた拳は。

 まさか人前で手を上げるつもりかね?


「まぁどうしてもって言うなら相手してあげる」

「あぁ、夜になったら迎えに行く」

「おっけ。フルボッコにしてやんよ」

「フルボッコ……? よく分からんが、またな」

「またねー」


 首を傾げながら去っていくジークを見送って隣を見ると、エルンハルトさんがめっちゃ苦笑いしてた。

 えぇ、まぁ。やらかしたのは分かってますよ。

 周りの反応的に多分話しかけたらダメな奴だったんでしょうよ。

 だがそんなことは知らん。


 寂しそうに見えたから。

 私がジークに声をかけたのはそれが理由だ。

 周りの視線も気になったけど、彼の心が少しでも軽くなるなら。

 私が迷うことなんてあるはずも無い。

『勇気』スキル持ち、なめんな。


「リリィ、ありがとう」

「エルンハルトさんがお礼言うの、おかしくないですか?」

「ジークは友人だからな。気にかけてくれて嬉しいが、あまり無茶はしないでくれよ?」

「前向きに検討して善処します」


 反省はしているが後悔はしていない。


「えーと、この後は何か用事がありますか?」

「雑貨品の買い出しくらいだな。今日でなくても良いが、どうする?」

「せっかくなんで今日終わらせたいです」

「そうか。じゃあ一休みしたら行こうか」

「了解です」


 どうせしばらくしたら出ていくつもりだし、適当に揃えちゃおうか。

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