魔法教えてください


 まるで映画みたいに壮大なスケールの王城に入ると、中もやっぱり豪華だった。

 よく分からん壺とか絵とか鎧とか色々な物が通路に飾ってある。

 そんなきらびやかな道を抜けた先、中庭らしき場所にまるでアパートのような建物があった。

 窓の数的にたぶん五階建てだ。街で見たどの建物よりもデカイな。


「リリィ、ここが寮だ。一階に空き部屋があるからそこを使う事になる」


 おぉ、それはありがたいな。

 毎回階段を上るのは面倒だし。

 それに城の中なら防犯面も気にしなくて良さそうだし。


「じきに入寮の手続きが終わるだろう。後は魔法の方だが……一応、適任の方に頼んでみるつもりだ」

「適任ですか?」

「魔王軍の中で一番魔法を上手く扱い、そして魔王軍の中で一番暇している方がいる」


 うん? この言い方的に目上の方なのかな。


「あの、どんな方ですか?」

「何て言うか……まぁ会えば分かる。一応気を付けておけ」


 つまりマトモでは無いと。把握。


「分かりました。お願いします」

「この時間なら部屋にいるだろう。着いて来い」


 エルンハルトさんに連れられて寮の端の部屋へ移動する。

 さて、今度こそ男の人来い。そろそろ私に養分を寄越せ。


 エルンハルトさんはドアをノックすると、中に向かって声をかけた。


「グロウレイザ様、宜しいですか?」

「……良いよ」


 あ、残念。声的に女性だわ。


「居たか。リリィ、迂闊に近づくなよ?」


 エルンハルトさんが言いながらドアを開けると、何か凄いものが見えた。

 目に飛び込んできたのは超巨大なベッド。

 部屋の八割くらいの大きさで、カラフルなクッションがこれでもかと積まれている。

 その真ん中。たくさんのクッションに埋もれるように彼女は座って居た。


 第一印象。でけぇ。

 いや、背は普通なんだよ。

 真っ青でサラサラな髪をシーツの海に広げて、少し大きめなシャツをボタン全開で羽織っている。

 その間から見えるのは、私の頭くらいありそうなおっぱい。

 肌が真っ白でお腹もへこんでるからめっちゃエロい。

 際どい所がギリギリ見えてないのがさらにエロい。

 あと眠たげな仕草もひたすらにエロい。

 あ、ちょ、背伸びしたら見え……無いのか。なにゆえ。


「グロウレイザ様。お頼みしたいことがあります」


 エルンハルトさん、通常運転だな。

 まさか見慣れてんのか?

 この人っていつもこうなの?


「……なに?」

「彼女に魔法を教えてやって頂けませんか?」

「……人間? 拾ったの?」


 はい変人確定。普通は人を紹介して貰った時に拾ったのとは言わないだろ。

 まぁ間違いではないけどさ。


「彼女はリリィ。この街に移住を希望しています」

「リリィです。よろしくお願いします」

「……そう。リリィ、こっちにおいで」


 なんか呼ばれたのでベッドに近付いてみた。

 うん、何度見てもエロいな。思春期の男の子が喜びそうだわ。


「グロウレイザ様!」

「……ちょっと遊ぶだけ。ほら、おいで」


 あ、よく見ると羊みたいな角生えてる。ファンタジーだなー。

 目は紫色だし、宝石みたいで綺麗だ。

 ついおっぱいに目が行っちゃうけど。

 あ、て言うか。


「えっと、ベッドの上に乗ったら良いですか?」


 靴履いたままなんだけど、乗っていいんだろうか。

 こっちの文化がイマイチわかんないんだけど、その辺どうなんだろう。


「……リリィ? 大丈夫なのか?」

「は? 何がです?」


 なんだ? 何でいきなり心配されてんだ?

 グロウレイザさんも何か驚いてるっぽいけど。


「……エルンハルト。何を拾ってきたの?」

「それが、彼女には記憶が無いらしく……私には詳しいことは」

「……私の魅了が効かない人間? そんな者が存在するの?」


 魅了? あ、やべ。状態異常無効化スキルが仕事してんのか。

 どうしよ。ここは正直に言った方が……いや、エルンハルトさんにスキルは無いって言っちゃったもんな。

 なんか言い訳しないと。うーん。


「……わぁ! グロウレイザさま素敵! 抱いて!」

「…………」

「…………」


 やめろ。そんな目で私を見るな。

 すべった芸人ってこんな気持ちなんだろうな。


「……リリィ。私に抱いてほしいの?」

「いいえ。言ってみただけです」

「……どうしよう。この子面白い」


 面白がられた。いや、嫌われるよりは良いか。


「……エルンハルト。この子ちょうだい」

「彼女は奴隷では無いので私に所有権はありません」

「……じゃあリリィ。良い事してあげるから、こっちにおいで」


 やったぜ! えっちなお姉さんにえっちな誘惑された!

 だがてぇてぇは要らん! BLをよこせ!

 だいたい何で男が少ないんだよこの城!

 あと私を巻き込むな!


「素敵なお言葉ですがお断り致します。それで、魔法は教えて頂けるんですか?」

「……いいよ。その代わり、私とドロドロになるまで楽しいことしよ?」

「エルンハルトさんも一緒なら良いですよ」

「リリィ!?」

「冗談です」


 このキリッとしたイケメン風美女が乱れる所は見てみたいけど、自分を生贄にするつもりは無い。

 つーかもうここに用はないな。


「じゃあ行きましょうか。次のアテはあるんですか?」

「勿論あるが……リリィの方から断るのは予想外だったな」


 何でだよ、一応乙女だぞ私。断るに決まってんだろ。

 一瞬好奇心に負けそうになったのは事実だがな。

 あのデカいおっぱいは触ってみたいし。


「……待って、妥協する。一回ヤるだけでも良い」


 お、食い下がってきた。

 でもそれ、大して変わってないだろ。


「お断りします」

「……じゃあちょっと色々触らせてくれるだけでも」

「お断りします」

「……キスは?」

「お断りします」


 ハードルおかしいだろアンタ。初対面だぞ?

 挨拶代わりに要求するレベル越えてんだろ。

 つーか触るよりキスの方が妥協って、どこ触る気だよ。


「……分かった。じゃあ一日一時間ハグならどう?」

「あぁ、それくらいなら。よろしくお願いします」


 教えてもらう訳だし、そのくらいなら良いだろう。

 それ以上の事をされそうになったら『勇気』スキルの出番だ。


「……じゃあ明日からここに来て」

「ありがとうございます」


 よし、魔法の先生げっと。


「エルンハルトさん、そういう事になりました」

「グロウレイザ様が妥協する所なんて初めて見たぞ」


 苦笑するエルンハルトさんに猫を何重にも被ったニッコリ笑顔を返しておく。

 本当にお世話になってるなー。今度お礼しよう。

 

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