女神というもの
この世界に来て色々と驚いた事がある。
自分よりでかい犬、緑髪のイケメン風美女、大鎌を振り回す美少女。
前世ではフィクションでしか無かったものが存在する、そんな世界だ。
うん、それは受け入れた。
私は異世界に来た訳だから、また違うルールがあるんだろうなって思った訳だ。
魔法が当たり前にあって、科学が発展していない世界。
地球より色んな種族が居て、魔王なんてものがいる世界。
神が実在していて、稀にとは言え実際に会うことが出来る世界。
ここはそんな世界で、それが当たり前な世界なんだ。
ファンタジーに溢れた現実なんだ。
うん、それは受け入れたんだよ。
てな訳でさ。いい加減、現状も受け入れようか、私。
さすがにこれはおかしいだろ。
「リリィ! どうした!?」
「お姉様!?」
私の魂の叫びに駆け戻ってくれたジークとエリーゼ。
「リリィさん? どうしたんですか?」
異常を察知して再度降臨したアテナ。
その誰もが。
「リリィさん。この後はどうしたら良いのですか?」
私の目の前で正座しているライラを見ていない。
正確には多分、
なるほどな。昼に会った時に言ってたのはこういう事か。
「アテナ。女神ライラは知らないって言ってたよね?」
「はい、知らない女神ですが」
「じゃあさ、女神
「もちろん知ってますよ」
あー、だと思った。
「て事はさ、神様って普通は自分の名前を略さないのね?」
「そうですね。神族にとって名前は自分の存在を示すものです。その名前を変えると言うことは
「……だそうだけど?」
正座してこちらを不思議そうに見上げるライラに問い掛ける。
私の言葉を聞いても表情は変わらず、そしてやはり誰も彼女を認識していない。
「私は元より誰にも認識されませんので、名前に大した意味はありません」
「いや、私が認識してるんだけど」
「リリィは特別です。力を解放していない状態だと、この世界で貴女だけが私を見る事ができます」
「……なるほど」
よく分からんが、何となく理解した。
特別な時以外は誰もライラを認識出来ないのね。
それを何故か私は認識出来ると。
……いや、何でだよ。
今回ばかりはアテナも関係無さそうだし。
「あのー。リリィさん、大丈夫ですか?」
「事態は把握したわ。もう一つ聞きたいんだけど、ライランティリアって何の女神?」
「はぁ。『夜』の最高神ですけど……何でですか?」
おい。最初に名乗れよ最高神。
あ、そういやアテナも自分の役職を言わなかったな。
自由すぎだろお前ら。
「あーもーめんどくさい。ライラ、見えるようになって」
「分かりました」
その短い言葉と同時に。
窓やドアから見えていた風景が闇に溶け、虫や鳥の声も一切が消えた。
それはまるで、世界がよ夜に堕ちたかのようで。
そして次の瞬間、全員の目がライラに向けられた。
その後の反応は劇的だった。
「リリィ! 下がれ!」
「お姉様! 私の後ろに!」
瞬時に私とライラの間に割り込む二人。
酷く焦った様子で、既に剣と大鎌で武装している。
「あれ、ライランティリアさん。いつのまに来たんですか?」
のんびりした口調でアテナが言う。
けれどその表情は、彼女にしては硬くなっていて。
さりげなく私の傍に寄ってきているのは、たぶん守ろうとしてくれてるんだろう。
つまり、この場に居る誰もが私を守ろうとしてくれている訳だ。
しゃらくせぇ。
『勇気』スキル持ちをなめんな。
「女神ライランティリア。私はあんたの何だ?」
「最愛の人です、リリィ」
「あんたは私の敵になるか?」
「貴女の為なら世界を滅ぼしましょう」
「……だそうよ、みんな」
私の言葉にポカンとした顔が並ぶ。
「……おいリリィ。本当にこの方は『悪神』ライランティリア様か?」
「大昔に『一切の慈悲も無く世界を滅ぼそうとした』、『世界に等しく死を告げる者』ライランティリア様ですの?」
穏やかじゃねぇな、おい。
何やってんだよライラ。どんな反抗期だよ。
「ねぇちょっと、あんたの評判酷くない?」
「そのようですね。私にとってはどうでも良い事ですが」
「あー。あんたも薄愛主義って奴か」
「いいえ、アテナのような薄愛主義」
「ん? どう違うの?」
ライラはその名の通り、穏やかな夜を連想させる微笑みで。
優しく告げた。
「私は誰とも縁を結べませんから、誰も愛することが出来ないのです。リリィ、貴女を除いて」
その言葉は柔らかく、穏やかで、美しくて。
そして決して揺るがない、そんな悲しい宣言だった。
誰からも認識されない。それは、どんな感じなんだろうか。
まるで世界そのものに拒絶されているような、そんな印象を受ける言葉だ。
そして多分、それは事実に近いのだろう
でも、そんな事は私には関係ない。
だって私は、ライラを見る事が出来るんだから。
「よし。んじゃたまに呼ぶから暇だったら来てよ」
「……良いの、ですか?」
「良いのですよ。またお茶でもしよう」
私の言葉に、ライラは数秒ほど無言でじっと見詰めて来た。
「あぁ、大変ですリリィ。困りました」
「どしたー?」
「より貴女を愛しく思うようになりました」
お、おう。真正面から言われると照れるなー。
でも何か悪い気はしない。
純粋に慕ってくれているライラの好意は、私の心を和ませてくれる。
まるで近所の子どもに好かれているみたいな感覚だ。
「それでは夜の営みを行うことにしましょうか」
「……は?」
え、ちょ……なんか体が浮いてベッドに強制移動させられたんだが。
おい待て。私のほのぼのした感動を返せ。
「大丈夫です。経験はありませんが、私は『夜』の女神なので。知識は豊富です」
「いや、待っ……」
近い近い近い!
甘い吐息がかかるくらい顔が近い!
……あ、でも、こんな綺麗な女神が相手ならいかもしれない。
優しげな微笑み、蜜のように甘い声、私を労る柔らかな手付き。
胸元の際どい所に置かれた手に意識を向けながら、私はそっとまぶたを閉じて……
「そぉいっ!」
慌ててライラにデコピンを食らわせた。
あぶねぇ、受け入れかけたわ。美人すぎるだろこいつ。
「リリィ、痛いです」
「おま、許可なくそういう事をするんじゃない!」
「分かりました。では次は許可を求めます」
「次とか言うな!」
やべぇ、ライラってエリーゼより危険かもしんない。
こいつ、自分の為じゃなくて、純粋に私の為にエロい事をやろうとしやがった。
私を喜ばせたい、私を愛したい。ただそれだけの理由で。
ブラック企業てま長年培った危険察知能力に引っかからないのがマジで怖いんだけど。
「ほわぁ。ライランティリアさん、大胆ですねぇ」
「いや、アテナも見てないで止めろよ」
「私は『生命』の女神なので、新たな命が生まれる行為は大賛成です。何なら混ぜてください」
「では私も混ざりますの。三人でお姉様をメロメロにしてあげますの」
「……おらァ!」
ダブルデコピン(エリーゼには弱めに)。
二人揃って後ろ向きにひっくり返り、額を抑えて悶絶している。
だから、私をそっちに引き込もうとすんな。
GLするなら私以外とやってくれ。
「リリィ、ちょっと良いか」
「あ、ジーク。わざわざ来てくれたのにごめんね」
「いや、それは構わないんだが……多分これ、明日にでも軍から呼び出しがかかるぞ」
「……あ、そりゃそうだよね」
一応最高神だもんな、こいつら。
アテナはともかくライラはめっちゃ世界に影響出してるし、さすがに誤魔化すのは無理か。
「まぁ何とかなるでしょ、うん」
「お前……大丈夫なのか?」
「知らない。でも逃げる訳にも行かないじゃん」
そんな事したらみんなに迷惑かけちゃうし。
呼ばれちゃったら行くしか無いでしょ。
「それに何かあったら助けてくれるでしょ?」
「それはそうだが……」
「じゃあ大丈夫よ。何とかなるって」
実際はそんなに簡単な話じゃないだろうけどね。
それでも、あえて軽い調子で返したのは、心配をかけない為。
それと、私はまったく引く気が無いからだ。
魔王? 来るなら来い。
全力ダッシュで逃げ切ってやらぁ。
てな訳で。
「んじゃ改めて解散って事で。みんな気を付けて帰れよー」
パンパンと手を叩いて、この場を終わらせる事にした。
尚、ライラが帰ったあとは外の光景も元に戻ったので、そこは良しとしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます