イケメンと遊ぼう
「聞いているのか。お前は誰だ?」
はっ!? 両手を上げたポーズで固まってた!
ヤバい、取り繕わないと変な奴だと思われる!
ここはよそ行きスマイルをフル稼働だ!
「えっと、リリィ・クラフテッドといいます。エルンハルトさんにここで待つように言われました」
「エルンハルトが人間を? 珍しい事もあるものだ」
イケメンは不思議そうな顔をしながら私の向かい側の椅子に座った。
金髪に青い目のイケメンだ。
なんか偉そうな服を着てるけど、いわゆる貴族的な人かな。
「あの、お名前を聞いても良いですか?」
まずは牽制。名前を知るのは人付き合いの基本って小学校で習ったし。
「ほう? 俺に名前を聞くのか。面白い奴だな」
イケメンに笑われた。え、何で?
名前聞いただけなんだけど。
「名前か、そうだな……ジークとでも呼べ」
おい。偽名感丸出しじゃねーか。
「ジークさん。初めまして」
「なんだお前、まさか記憶喪失とでも言うのか?」
「……そのまさかです。名前しか覚えてなくて」
「ほぉ。外傷も無ければ魔法の痕跡も無いが……まぁ嘘ではなさそうだな」
ごめんなさい。ドヤ顔なところ申し訳無いけど嘘です。
どうでも良いけどイケメンって何してもイケメンだよね。
「エルンハルトを待っていると言ったな」
「はい。人間の街に竜で送ってくれるらしいです」
「……驚いたな。お前、余程気に入られたみたいだな」
「そうなんですか?」
「エルンハルトは堅物だからな。人間にはそこまでしてやるとは珍しい」
ふむ。何かよく分かんないけどラッキーだったのか。
後でちゃんとお礼を言っておこう。
「そうだ。お前ちょっと暇つぶしに付き合え」
ん? 何か出して来てテーブルの上に……おい待て。
これオセロじゃん。
「リバーシというゲームだ。白と黒に別れて交互に石を置き、挟まれた石は敵の色となる。最後に石が多かった方の勝ちだ」
「んーと。ルールは分かりました」
「では先行はお前からだ。やってみろ」
ふっ。悪いなジークさん。私は昔『オセロットクイーン』と呼ばれたほどにオセロが上手いんだよ。
相手なイケメンだからって容赦はしない。
全力で叩き潰してやろう!
あ、これフラグじゃないからね?
※
そして現在五連勝。宣言通りフルボッコにしてやった。
最初は余裕ぶってたジークさんも途中からマジな顔になって、負けた時はめちゃくちゃ悔しそうにしていた。
「お前、手加減とか知らないのか?」
ちなみに今、オセロ盤は一面真っ黒になっていてジークさんは石を置くことすら出来ない。
正に圧勝だ。
「いや、勝負事で手を抜いてはいけない気がするんで」
「本当に良い度胸だなお前……次こそは俺が勝つからな!」
「ふっ。お相手しましょう!」
パチリパチリと石を置いていく。
さっきよりマシになったとは言え、まだまだ。
この程度じゃ私に勝つのは不可能だ。
『オセロットクイーン』をナメるなよ。
「くそ……お前本気で強いな」
悔しげに睨んできても手加減はしないからね。
「そりゃどうも。て言うかジークさん、仕事とか大丈夫なんですか?」
そろそろ一時間経つんだけど。大丈夫かこの人。
「仕事は終わらせてきたからな。エルンハルトと無駄話でもしようかと思ったらこのザマだ」
「あ、そうなんだ。凄いですね」
「俺がサボったら周りが困るし、かと言って休まないと他の奴らも休めないからな」
おー、偉いなこの人。ジークさんみたいな人が上司だったらホワイトな職場なんだろうな。
てか言ってる事的にお偉いさんっぽいな。
やべ、かなり砕けた喋り方してたわ。
「そら、これでどうだ!」
「んじゃこっちに置きます」
「なんだと!? くっ……」
うーん。まぁ楽しいから何でもいいか。
それにもうすぐこの街から離れるんだし、問題無いでしょ。
とかやってると、ガチャリとドアが開いてエルンハルトさんが入って来た。
「あ、エルンハルトさん、おかえりなさい。ジークさんとオセロしてました」
あれ、エルンハルトさん顔色悪いな。何かあったか?
「……どういう状況だこれは」
「ようエルンハルト。俺はジークだ。敬称もいらん。良いな?」
「……はぁ。分かりました、ジーク」
ため息? なんだろ、やっぱジークさんってお偉いさんなのかな。
うーん。とりあえず空気を変えるか。
「エルンハルトさん、準備が出来たんですか?」
「あぁ、出来たのは出来たんだが……ジーク?」
「ふむ。この街に人間が来ていることを魔王様に知らせるかどうかだな」
げ。なんか厄介事の気配がするな。
そういやこの街って魔王の直轄地だっけ。
雰囲気的に魔王も人間って仲良く無さそうだしなー。
「あの。魔王様ってどんな人なんですか?」
テンプレだと実はジークさんが魔王でした! って展開もありそうだけど。
「そうだな……簡単に言えば冷酷な方だな。血も涙もないお方で、敵にも味方にも容赦しないようなお方だ」
「ジーク!?」
「事実だろう? 他に誰も聞いてはいないしな」
「それはそうですが……」
ふむふむ。ザ・魔王! って感じなのか。
なんか高笑いしてそうだな。勝手な印象だけど。
でもそれなら余計に会いたくないんだけど。
「えーと。そんな魔王様と会うのは怖いんですけど……何とかなりません?」
「そうだな……リリィ、お前しばらくこの街で働かないか?」
は? いや、何で?
「ただの街人と言う事にしておけば問題も無いだろう。なぁエルンハルト」
「……人間という事を隠せば大丈夫だと思いますが」
「決まりだ。それが一番問題が無い方法だしな」
うん? て事は、だ。
「エルンハルトさん、もしかしてかなり危ない事しようとしてました?」
「まぁ魔王様にバレたら良くて減給だろうな」
減給て。地味に現実的だな。
「そういう事なら、エルンハルトさんに迷惑かけたくないんで働きます」
「リリィ、良いのか? 人間の街の方が危険は少ないと思うぞ?」
「だってこんなに親切にしてもらいましたし。しばらくしたらこっそり抜け出します」
気配を殺すのは任せろ。残業から逃げるために必須のスキルだったからね。
まぁ逃げられなかったんだけどさ。
「よし、ではまずは住む所からだな。エルンハルト、軍の寮が空いていたな?」
「……はぁ。軍団長に話を通してきます」
うん、結局迷惑かけてるな私。
いつか恩返ししますね、エルンハルトさん。
「ではリリィ、続きといこうか! 今度こそは俺が勝つ!」
大人気ないなジークさん。
負けてやらない私も大人気ないけど。
まぁ良かろう。全力で叩き潰してくれる。
「リリィ、すぐに戻るからな。それまでジークの相手を頼む」
「よろしくお願いします。では再開しましょうか!」
他に出来ることも無いし、私はお偉いさんの相手をしておこう。
今後ともお世話になるかもしれないし。
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