魔法ってなんだっけ


 知っているだろうか。

 胸のでかい女性に正面から抱きしめられると、顔がおっぱいに包まれて窒息するという事を。

 私は知らなかった。それ故に、グロウレイザさんに殺されかけた訳だけど。

 

「……ごめん」

「大丈夫です。貴重な体験が出来たので」


 半裸の美女のおっぱいで死にかけるなんて普通ありえないし。

 いや、良い経験ができたわ。


 えぇと、そういう訳で。

 現在、思春期の男の子には目に毒なグロウレイザさんの部屋にお邪魔しております。


 相変わらず大きめなブラウスをボタン全開で着ているから胸がこぼれ落ちそうだ。

 て言うかよく見たら下はパンツしか履いてないのか。やべぇなこの人。

 顔だけ見たら青髪紫目のおっとりした美女なんだけどなー。


「あ、でもハグは後ろからお願いします」

「……ん。じゃあ、はい。こっち来て」

「お邪魔しまーす」


 改めてグロウレイザさんに背を預けてみると、細くて柔らかい手でふんわり抱きしめられた。

 ほっぺたとか首筋を触る手つきが何かエロいけど、そのくらいは我慢しよう。

 頭がフカフカで座り心地良いし。


「……それで、魔法だっけ? INTのステータスは?」

「(女神バフ無しだと)11です」

「……結構高いね。これならすぐに覚えられるかも」


 おぉ、ファンタジー世界を象徴する魔法を私にも使えるようになるのか。

 結構ワクワクするなー。どんな感じなんだろ。


「……まずは適正を見ないとね」

「適正ってなんですか?」

「……相性の良い属性。火とか水とか、人によって違うから」


 言いながらごそごそとクッションの下を探る。

 その度におっぱいがぐにょんぐにょん潰れるので私の頭がグラグラ揺れている。

 すげぇな。ここまで行くと兵器だわ。

 何食ったらこうなれるんだろ。


「……あった。この水晶を持ってみて」

「はーい」


 リンゴくらいの大きさの水晶を手渡された。

 魔法的な品物なのかなこれ。

 ……あ、なんか灰色になってきたな。

 さてさて。私は何属性なんだろ。


「……あれ、リリィは希少属性みたい。ちょっと待ってね」

「希少ですか?」

「……通常の系統から外れた属性のこと」


 なるほど、嫌な予感がするんだけど。

 チートとかいらないからな、マジで。

 頼むぞ女神たち。


「……あった。このプレートを持ってみて。属性が浮かび上がるから」

「はーい」


 今度は手のひら大の金属プレートを渡された。

 手に取ると、言われた通り文字が浮かび上がる。

 けど、なんだこれ。属性が出てくるって言ってたよな?


「……こんな属性聞いたことが無いけど、プレゼントを包むアレ?」

「でしょうね。『梱包』ですからね」


 手に持ったプレートには、やたら綺麗な字で『梱包』とだけ書かれていた。


 ……魔法かこれ。

 て言うかぶっちゃけ『生命』か『闇』だと思ってたんだけど。


「……一応、魔法百科事典には書かれてるみたい。ほら、ここ」


 グロウレイザさんが古びた本を取り出して、項目を指さした。

 そこには確かに『梱包』の文字が。

 えーと、なになに?


『万物を包み込み装飾する属性』


 責任者でてこい。私のワクワクを返せ。


 あ、でも仕事をするって考えたら便利かも。

 わざわざ魔法でやらなくても良い気はするけど。


「……とにかく、魔法を使う練習をしよう」

「そですね。どうしたら良いですか?」

「……体内にある魔力を意識するところから」

「えぇと、どうやってですか?」

「……私がリリィの体に魔力を流すから、それを意識してみて」


 ふむ自転車の乗り方を覚える時と似た感じか。

 割と親切設計だな、異世界。


「……じゃあ、やるよ?」

「お願いしまーす」


 ……お? なんか背中からじわじわ温かい物が流れてくるのを感じる。

 あーなるほど、これか。上手く言葉には出来ないけど、感覚的に分かるわ。

 んで、私の中に流れてるこれを使う訳ね。


「……分かった?」

「何となくですけど。これをどう使うんですか?」

「……明確な意志を持って体の外に放出する」


 ……なるほど? あれか、かめ〇め波みたいなイメージか。

 んじゃ、こう、魔力らしきものを集めて……

 とりあえずそこのクッションに使ってみよう。


「『梱包』!」


 うおっ⁉ まぶしっ⁉


 クッションは光に包まれた後、半透明の袋に入って可愛いリボンで装飾されていた。


「え、本当にこれだけ?」

「……これだけみたい」


 なるほど。まぁ使い道があるだけマシかな。

 元々何かと戦うつもりなんて無いし。


「あれ? て事は魔法講座は終わりですか?」

「……一応、誰でも使えるよう初級魔法があるよ」

「あ、じゃあついでにそれもお願いします」


 火とか水とか出せたら便利そうだし。


「……初級魔法は三つ。『身体強化』『清潔』『塩味』」

「いや待った。最後のやつ、なんですか?」

「……何でも塩味にできる魔法」


 なんでだよ。

 この世界、基本的にバグってないか?


「……『身体強化』はステータスのSTR、VIT、AGIを増加させる。『清潔』は汚れを簡単に落とせる」

「へぇ。便利ですね」


 て言うかまぁ、何気に『塩味』も便利ではあるよね。

 旅とかする時に役立ちそうだし。

 私は使わないだろうけど。


「んじゃ、一つずつお願いします。あとそろそろ一時間です」

「……延長で」

「んー。まぁ良いですけど、変なことしたら二度と来ませんからね?」

「……前向きに善処はする」


 それ高確率で守られない奴じゃないか?


 うーん。使い方だけ教えてもらって、後は自分で練習するかなー。


 ということで。私は無事に魔法を使えるようになった。

 次は就職活動だな。頑張ろう。

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