女神降臨


 まぁとりあえず戦果だけ述べよう。

 私対ジーク、5勝0敗。

 私対エリーゼさん、4勝1引き分け。

 はっはぁ! オセロットクイーンなめんな!


 ちなみに引き分けに関しては「私に勝てたら一つだけ何でも言う事聞いてあげる」という発言が引き起こした真剣勝負の結果である。

 かなり恐怖を感じたので二度とやりません。

 イキってごめんなさい。


 でまぁ今はジーク対エリーゼさんの試合を観戦中。

 今のところ戦績はジークが3勝、エリーゼさんは1勝だ。

 このイケメン、弱くは無いんだよね。私が強すぎるだけで(ドヤァ)


 そんなアホな事を考えていると、ジークが不意に顔を上げた。


「すまん、もうこんな時間か。結構居座ってしまったな」

「え、何で時間わかんの?」

「『体内時計』スキルだ。今は22時11分だろ?」


 壁に掛けていた時計を見ると言われた時間ピッタリだ。

 無駄に高性能だなこいつ。


「うーん……さすがにそろそろお開きですの。残念ながら明日も仕事がありますの」

「そうだな、帰るか。リリィ、手間を取らせたな」


 エリーゼさんが立ち上がり、次いでジークが席を立った。

 ふぅむ、並んでると絵になるな。

 どちらも超美形だし、見てる分は最高だわ。


「いんや、私も楽しかったよ。またやろうね」

「あぁ。しばらくは遠征で街を離れるから、帰ってきたら頼む」

「遠征? なに、戦争でもするの?」

「するかバカ、地方の査察だ。魔王様が直々に向かわれるから、その護衛にな」


 魔王、マメだな。そういうのって普通は部下に任せるもんじゃないの?

 エリーゼさんに目を向けると、何故か意地の悪そうな笑顔だった。


「ふふ。もしかしてジークったら、リリィお姉様に言ってないんですの?」

「何かタイミングを逃してな。こいつが気付くまで黙ってるつもりだったんだが」

 

 え、なんだよ二人して。実はジークが魔王とか、そんな流れか?


「いやな、俺は魔王様の近衛騎士をやってるんだよ」


 ニアミスか。

 つーかやっぱりお偉いさんかよこいつ。

 いや、近衛騎士って言われてもなんか偉そうってくらいしか分かんないけど。

 でもそうか、しばらく会えないのか。

 それはちょっと寂しいな。


「ふぅん……まー頑張って来てね。アテナにも言っとくわ」


 神頼みでもしておこうと、何気なしにそう言うと。


「……おい、今なんて言った?」

「……お姉様、それはさすがに不敬罪ですの」

 

 二人揃って真剣な顔をされた。

 なんだその反応。別におかしなことは……あ。

 やっべ。アテナって最高神だっけか。

 この世界の崇拝対象を呼び捨てしちゃった訳か。

 うわぁ、やらかしたわ。どうすっかなー。


 心中でどう言い訳するか悩んでいたところ。


(あーあ。リリィさんやっちゃいましたねぇ)


 いきなりそんな言葉が頭の中に聞こえてきた

 うわ、なんだ? この声、アテナか?


(はーい。直接脳内に……!? ってやつですね。ヤバそうなんで話しかけてみました)


 だからなんでそんなネタ知ってんだよお前。

 しかもナチュラルに人の心読むなよ。


(普段はやらないですよ。今回は緊急かなって思ったので繋げました)


 おー、えらい。アテナの評価が少し上がったわ。

 安心して、あんたはちゃんと知的生命体だから。


(そこに不安を持ったことなんて一度もありませんよ!?)


 それよりさ、これどうにかなんない?


(しかも流された……まぁ手が無いこともないですけど)


 お。んじゃ任せるわ。


(はーい。少し待ってくださいねー)


 これで良し。かなり不安はあるけど、とりあえずアテナを信じるか。


「あの、リリィお姉様。私は立場的な問題もあるので、さすがに見逃せないですの」

「え、そうなの?」


 ちょっと意外だ。ちゃんと仕事してんだな、この子。


「という訳で、口封じにジークを殺して私と逃げますの」

「おい。ナチュラルに俺を殺そうとするな」

「他に選択肢がありますの?」


 いや、大鎌構えんな。殺気を放つな。濁りきった目ぇしてんじゃねぇ。

 て言うかそんなレベルの話なのかこれ。

 ジークも凄い困った顔してるし。


「エリーゼさん、ちょっと待って」

「死体遺棄に関しては心配しなくて大丈夫ですの」

「いやだから待とうか。ほら、こっちおいで」


 両手を広げてから待つこと半秒。


「行きますの♡」

「はい捕まえたー」

「はっ!? しまったですの!」


 エリーゼさんチョロいわー。

 あ、ジークが呆然としてる。


 と、そんな間抜けなやり取りを繰り広げていると。


 室内なのに、どこからか白い光の羽が降ってきた。

 ひらりと舞うそれは次第に数を増していき、部屋中に溢れかえっていく。

 まるで世界が塗り潰されるような、世界が書き換えられていくような。

 そんな幻想的な光景の中で、閃烈な光が次第に収束し、人の形を成していく。


「これはまさか……神が降臨されるのか!?」

「こんな所にですの!?」


 二人が驚きの声を上げる中、光はゆっくりと消えていき。

 やがて。その神々しい姿を顕現させた。


 等身大ドナ〇ド人形、参上。


「アテナァァァァ!」

「すみません、悪ふざけしましたァ!」


 音も無く登場すると同時に滑り込み土下座する女神。

 最初から普通に出てこいよお前。

 私が無言で右手を伸ばすと、アテナは慌てて両手でデコを抑えた。


「あああごめんなさい! デコピンはやめてください!」

「うるせぇさっさとデコ出せ……うん?」


 気が付くと。

 ジークとエリーゼさんは跪き、こうべを垂れていた。


「最高神アテナ様、ご機嫌麗しゅう御座います。この度は如何様いかような理由で顕現して頂いたのでしょうか」


 うわ、ジークが超真面目な顔してる。

 エリーゼさんとか泣きそうになってるし。


 そしてその言葉に。


「あれ。誰が話しかけて良いと言いました?」


 アテナは温度を感じさせない声を返した。

 まるで路傍の石を見るような目で、ジークを見下ろして。


「ッ! 大変失礼しましたッ!」


 冷や汗を浮かべて慌てて叫ぶジークに、カタカタ震えて今にも崩れ落ちそうなエリーゼさん。


 そして。ブチ切れる寸前の私。


「おいこら、調子乗ってんじゃねぇぞ最高神」

「ヒィッ!? ごめんなさい、イキってごめんなさい!」

「ちょぉっと、こっちに来ようか?」

「いやあああ! やめて腕を掴まないでえええ! あああぁぁッ!?」


 うるせぇ。黙れ。


「あだァッ!?」

 

 うわ、その場で縦に半回転しやがった。

 どんどんリアクション芸が進化してくなこいつ。

 そんなアテナの芸人魂にちょっと感心していると、ジークが静かに語りかけてきた。


「リリィ様。宜しければ事情をお聞かせ願いたく思います」

「え、何いきなり、気持ち悪っ! あんたが私に敬語を使うな!」


 あとその真面目な態度はやめれ。

 いや、目の中にハート浮かべて狂信者みたいになってるエリーゼさんよりはマシだけど。

 この子はこの子で、ちょっと人前に出しちゃ行けない顔になってるんだが。


「……つーか、どうしろって言うのよコレ」


 事態の収拾が着かないんだけど。

 これ私が何とかしなきゃなんないのか?

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