おい、また早朝だぞ


 時間的には多分、朝の四時頃。

 社畜生活に慣れきった私の体は、いつも通りの時間に目が覚めた。

 うーん。まぁそのうち改善されるでしょ。

 とりあえず窓開けて換気でも……して?


「リリィ・クラフテッド様、おはようございます」


 何か、家の前に全身鎧の不審者が二人居るんだが。

 こんな時間に何してんだこの人たち。

 やべぇ、SEC〇M呼ばなきゃ。


「大臣様に命じられ、貴女様をお連れする為に待機しておりました。支度が済み次第ご同行願えますでしょうか」


 あ、はい。説明どうも。

 なるほど、国のお偉いさんが見張ってろって命令した訳ね。

 でも、こんな時間に居たって事は徹夜だよね、この人たち。

 しかも全身鎧なんてくっそ重そうな物着て、立ちっぱなしで。

 なるほどなるほど。


「よし。ちょっと大臣ぶん殴りに行くか」


 元社畜として、ブラック企業は私がこの手で潰す。

 魔王軍の働き方改革をしてやろうじゃないか。

 あぁ、きっとこの為のステータスのブラス補正を貰ってたんだな。

 ありがとう、女神たち。今度優しくしてやろう。

 レッツパーリナイッ!


「ちょっ、リリィ様!? よく分かりませんが落ち着いてください!」

「庇う事無いんですよ。貴方達の気持ちはよく分かりますから」

「何か誤解をされているものかと!」


 誤解? どゆことだ?


「大臣様は貴女様を城に招くように命じられましたが、この時間に待機していたのは我々の意思です!」

「大臣様は日頃から激務に追われており、少しでも助力になればと動いた次第です!」


 うーん。それ、ブラック企業がよくやる洗脳では?

 部下のやる気を煽って残業させる奴。

 だとしたら余計たちが悪いな。


「よし。ちょっと大臣ぶん殴りに行くか」

「話を聞いてください! お願いですから!」


 ……んー。まぁ、そこまで言うなら仕方ないか。

 とりあえず大臣サマとやらの話を聞きに行こう。



 部屋を出て僅か十分ほど。

 兵士さんの後ろをてくてく歩いて行くと、なんか広いホールに辿り着いた。

 これ、謁見の間ってやつか。

 左右にはずらりと兵士が並んでいて、その先には少し高くなった場所にでかい椅子。

 その玉座には誰も座っていない。て言うか、兵士さん以外誰もいない。


 ほう。人を呼び付けておいて居ないとは良い度胸だな。

 これは私への挑戦だと受け取るべきか?

 

「失礼します! リリィ・クラフテッド様をお連れしました!」


 私の前にいた兵士が大声を上げる。

 すると。


「ひゃいっ!? あの、えぇと、その……ありがとう、ございます、はい」


 兵士達の後ろから小さな返事が聞こえて、一人の女の子が姿を現した。

 大きめな三つ編みに結われた紫色の髪に、同色の大きな目。

 ふりっふりのメイド服にヘッドドレスを装備していて、何とも可愛らしい。

 小柄なのに胸がそこそこあるのもポイント高いな。

 でもなんか、めちゃくちゃ怯えてるって言うか……ガチでコミュ障な人の典型例というか。

 少し長めの前髪で目を隠そうとしてるし、キョロキョロしてるし、手元はモジモジしてるし。


「あっ……その、えっと……リリィさん、ですよ……ね? あの、来てくれて、ありがとうございます」


 おどおどしながら歩み寄って来て、はにかみ笑いしながら声をかけて来た。

 なんだこの可愛い生き物。

 顔も声もめっちゃ可愛いし、なんか守ってあげたいオーラがめっちゃ出てる。

 

 え、てか、まさか。


「貴女が大臣様?」

「ハッハッハッハッ……(呼吸音) ぁの、はぃ、私がその、だっ大臣です!」


 おう、目が合わないな。

 めっちゃキョロキョロしてるし。

 うーん……これはさすがに殴れんわ。


「こっ! あ、えぇと、こんな時間に……ぁりがとうござぃますぅ!」


 全力で頭を下げられた。

 いや声めっちゃ震えてるじゃん。


「えーと。とりあえず、名前聞いても良いですか?」

「はいっ! アメジスト・カンパニュラ・メディウム・アストレアでふっ……ですっ!」


 ……なんて?


「アメジスト……?」

「ハッハッハッハッ……(過呼吸気味) その、ぁ……アメジストで、良いので、はい」

「わかりました。私もリリィでいいです」

「ぁ……はい……リリィ、さん?」


 うわ、上目遣い可愛いな。抱きしめたい。

 じゃなくて。


 なるほどなー。この子が上司ならみんな頑張るわな。

 ごつい兵士の中に一人だけ可愛い女の子だもんなー。


「あ、ぇと、ごめんなさい。本題に……」

「はい。昨晩の件ですよね?」

「あっ……あの、そうなんです。アテナ様とライランティリア様の魔力がかにゅっ……観測、されたので」


 また噛んだな。可愛い。


「昨晩は私の部屋に来てましたね。何ならいま呼びます?」

「ひぇっ!? いいいえ! そんな恐れ多いこと!」


 うーん。この辺りの反応がよく分かんないんだよなー。

 あいつら、偉い神様って気がしないし。

 特にアテナ。


「んーと。それで、何か問題が?」

「ぇと、最高神様が降臨、されるのはですね。普通なら四年に一度の魔王祭だけで、その……はい」

「あ、そうなんですか」


 結構来てんだな。もっと頻度が少ないと思ってたわ。


「異常事態なので、その……原因を究明しないとですね。みんなが不安に……不安になっちゃうので」

「あー、なるほど」

「特に『夜』の最高神様が降臨されたのは、ですね。魔王国史上初なので……街には特急災害発生警告が、その……発令されています」


 それって多分、誰も気付いてなかっただけだと思うんだけど……なるほどなー。

 まぁライラは悪評が高いらしいし、不安にもなるわな。

 ジークにも悪神とか言われてたっけ。


 しかしこれ、正直に言っていいんだろうか。

 いやまぁ、言うしかないんだけど。


「んーと。アテナは私を助けに来てくれて、ライランティリアは叱るために私が呼びました」

「…………は?」


 あ、固まった。


「まぁ結局二人ともデコピンしましたけど」

「でっ……!? デコピン、ですか?」

「はい。バチンと」

「バチンと……」


 何を想像したのか、おデコを抑えて震えるアメジストさん。

 

「ぁ……その、リリィさんって、何者なんですか?」

「記憶喪失中の一般人です」

「え? ぁ、じ、実は勇者とか……」

「ただの一般人です」


 BL好きなオタ女子だけどな。

 そろそろ燃料寄越せよ異世界。

 もう百合はいらないからさ。


「最高神様にデコピン……あの、すみません、その、一般人……ですか?」

「ごく普通の一般人ですね」


 ステータスはバグってるけどな。


「ハッハッハッハッ……(過呼吸) そう、そうですか。それで、あの。そう、前例! 前例が無いので……詳しい話を、ですね。聞きたいなって……」

「構いませんよ」

「あっ! じゃ、じゃあ、奥に部屋を用意して、貰ったんで」

「じゃあ移動しましょうか」

「よろしくお願いします(超小声)」


 ふむ。まぁこの人は敵意とか無いだろうし。

 とりあえず行ってみるか。


ーーーー

【作者の声】

アメジストの元ネタわかる人はお友達になりましょう。

某マリンメイドです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る