おい、また早朝だぞ
時間的には多分、朝の四時頃。
社畜生活に慣れきった私の体は、いつも通りの時間に目が覚めた。
うーん。まぁそのうち改善されるでしょ。
とりあえず窓開けて換気でも……して?
「リリィ・クラフテッド様、おはようございます」
何か、家の前に全身鎧の不審者が二人居るんだが。
こんな時間に何してんだこの人たち。
やべぇ、SEC〇M呼ばなきゃ。
「大臣様に命じられ、貴女様をお連れする為に待機しておりました。支度が済み次第ご同行願えますでしょうか」
あ、はい。説明どうも。
なるほど、国のお偉いさんが見張ってろって命令した訳ね。
でも、こんな時間に居たって事は徹夜だよね、この人たち。
しかも全身鎧なんてくっそ重そうな物着て、立ちっぱなしで。
なるほどなるほど。
「よし。ちょっと大臣ぶん殴りに行くか」
元社畜として、ブラック企業は私がこの手で潰す。
魔王軍の働き方改革をしてやろうじゃないか。
あぁ、きっとこの為のステータスのブラス補正を貰ってたんだな。
ありがとう、女神たち。今度優しくしてやろう。
レッツパーリナイッ!
「ちょっ、リリィ様!? よく分かりませんが落ち着いてください!」
「庇う事無いんですよ。貴方達の気持ちはよく分かりますから」
「何か誤解をされているものかと!」
誤解? どゆことだ?
「大臣様は貴女様を城に招くように命じられましたが、この時間に待機していたのは我々の意思です!」
「大臣様は日頃から激務に追われており、少しでも助力になればと動いた次第です!」
うーん。それ、ブラック企業がよくやる洗脳では?
部下のやる気を煽って残業させる奴。
だとしたら余計たちが悪いな。
「よし。ちょっと大臣ぶん殴りに行くか」
「話を聞いてください! お願いですから!」
……んー。まぁ、そこまで言うなら仕方ないか。
とりあえず大臣サマとやらの話を聞きに行こう。
※
部屋を出て僅か十分ほど。
兵士さんの後ろをてくてく歩いて行くと、なんか広いホールに辿り着いた。
これ、謁見の間ってやつか。
左右にはずらりと兵士が並んでいて、その先には少し高くなった場所にでかい椅子。
その玉座には誰も座っていない。て言うか、兵士さん以外誰もいない。
ほう。人を呼び付けておいて居ないとは良い度胸だな。
これは私への挑戦だと受け取るべきか?
「失礼します! リリィ・クラフテッド様をお連れしました!」
私の前にいた兵士が大声を上げる。
すると。
「ひゃいっ!? あの、えぇと、その……ありがとう、ございます、はい」
兵士達の後ろから小さな返事が聞こえて、一人の女の子が姿を現した。
大きめな三つ編みに結われた紫色の髪に、同色の大きな目。
ふりっふりのメイド服にヘッドドレスを装備していて、何とも可愛らしい。
小柄なのに胸がそこそこあるのもポイント高いな。
でもなんか、めちゃくちゃ怯えてるって言うか……ガチでコミュ障な人の典型例というか。
少し長めの前髪で目を隠そうとしてるし、キョロキョロしてるし、手元はモジモジしてるし。
「あっ……その、えっと……リリィさん、ですよ……ね? あの、来てくれて、ありがとうございます」
おどおどしながら歩み寄って来て、はにかみ笑いしながら声をかけて来た。
なんだこの可愛い生き物。
顔も声もめっちゃ可愛いし、なんか守ってあげたいオーラがめっちゃ出てる。
え、てか、まさか。
「貴女が大臣様?」
「ハッハッハッハッ……(呼吸音) ぁの、はぃ、私がその、だっ大臣です!」
おう、目が合わないな。
めっちゃキョロキョロしてるし。
うーん……これはさすがに殴れんわ。
「こっ! あ、えぇと、こんな時間に……ぁりがとうござぃますぅ!」
全力で頭を下げられた。
いや声めっちゃ震えてるじゃん。
「えーと。とりあえず、名前聞いても良いですか?」
「はいっ! アメジスト・カンパニュラ・メディウム・アストレアでふっ……ですっ!」
……なんて?
「アメジスト……?」
「ハッハッハッハッ……(過呼吸気味) その、ぁ……アメジストで、良いので、はい」
「わかりました。私もリリィでいいです」
「ぁ……はい……リリィ、さん?」
うわ、上目遣い可愛いな。抱きしめたい。
じゃなくて。
なるほどなー。この子が上司ならみんな頑張るわな。
ごつい兵士の中に一人だけ可愛い女の子だもんなー。
「あ、ぇと、ごめんなさい。本題に……」
「はい。昨晩の件ですよね?」
「あっ……あの、そうなんです。アテナ様とライランティリア様の魔力がかにゅっ……観測、されたので」
また噛んだな。可愛い。
「昨晩は私の部屋に来てましたね。何ならいま呼びます?」
「ひぇっ!? いいいえ! そんな恐れ多いこと!」
うーん。この辺りの反応がよく分かんないんだよなー。
あいつら、偉い神様って気がしないし。
特にアテナ。
「んーと。それで、何か問題が?」
「ぇと、最高神様が降臨、されるのはですね。普通なら四年に一度の魔王祭だけで、その……はい」
「あ、そうなんですか」
結構来てんだな。もっと頻度が少ないと思ってたわ。
「異常事態なので、その……原因を究明しないとですね。みんなが不安に……不安になっちゃうので」
「あー、なるほど」
「特に『夜』の最高神様が降臨されたのは、ですね。魔王国史上初なので……街には特急災害発生警告が、その……発令されています」
それって多分、誰も気付いてなかっただけだと思うんだけど……なるほどなー。
まぁライラは悪評が高いらしいし、不安にもなるわな。
ジークにも悪神とか言われてたっけ。
しかしこれ、正直に言っていいんだろうか。
いやまぁ、言うしかないんだけど。
「んーと。アテナは私を助けに来てくれて、ライランティリアは叱るために私が呼びました」
「…………は?」
あ、固まった。
「まぁ結局二人ともデコピンしましたけど」
「でっ……!? デコピン、ですか?」
「はい。バチンと」
「バチンと……」
何を想像したのか、おデコを抑えて震えるアメジストさん。
「ぁ……その、リリィさんって、何者なんですか?」
「記憶喪失中の一般人です」
「え? ぁ、じ、実は勇者とか……」
「ただの一般人です」
BL好きなオタ女子だけどな。
そろそろ燃料寄越せよ異世界。
もう百合はいらないからさ。
「最高神様にデコピン……あの、すみません、その、一般人……ですか?」
「ごく普通の一般人ですね」
ステータスはバグってるけどな。
「ハッハッハッハッ……(過呼吸) そう、そうですか。それで、あの。そう、前例! 前例が無いので……詳しい話を、ですね。聞きたいなって……」
「構いませんよ」
「あっ! じゃ、じゃあ、奥に部屋を用意して、貰ったんで」
「じゃあ移動しましょうか」
「よろしくお願いします(超小声)」
ふむ。まぁこの人は敵意とか無いだろうし。
とりあえず行ってみるか。
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【作者の声】
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某マリンメイドです。
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