冴えない陰キャぼっちな俺が教室の片隅で突っ伏寝(寝たフリ)に励んでいると、同じクラスの清楚系巨乳ギャルが俺のお耳をペロリンチョしようとして来た。──起きる? 起きない? もちろん起きない!
えっと、あの……。人間遊びが大好きなだけですよね?(後編-中ノ参)
えっと、あの……。人間遊びが大好きなだけですよね?(後編-中ノ参)
『ブラチラ』
健全な男子高校生ならば一度は耳にしたであろう、この言葉。
それは『日常に潜む、奇跡』と、一部ではまことしやかに囁かれている、頂の景色にして、絶景──。
本来であれば絶対に見ることの叶わない、秘密の場所。
女の子同士ならつゆ知らず、男で許されるともなれば彼氏にのみ与えられる特等席。
そして今、彼氏でもなんでもない男である俺の目前で、
幾重もの偶然が絶妙に絡み合い、奇跡を起こしていた──。
特等席で、軽井沢さんの秘めたるパステルカラーを眺める男。
それが本日の俺、友橋渡だ!
☆ ☆
とはいえ果たして、見えているからといって見ていいものなのだろうか。
俺は今置かれている不確かな状況を冷静に分析してみることにした。
題して『非科学的パステルカラーのチラリズム発生条件について』
※但し、軽井沢さんの水玉模様に限定する。
研究を進めていくにつれ、大きく分けて三つの要素の集合体であることがわかった。
ひとつ。軽井沢さんの体勢が前屈みになっている。
ふたつ。俺もまた、前屈みになっている。
みっつ。解放されたワイシャツの第二ボタン。
前屈みと言えど、傾斜角度は僅かに15度。
会釈程度の傾斜である。これではまず、ブラチラの扉が開かれることはない。
第二ボタンに関しても同じだ。
校則違反も甚だしく開いてはいるが、リボンが掛けられている為、大切な部分はしっかりとガードされている。
ありがちな、ギャルJKの夏の装いと言えるだろう。
いずれも、それ単体ではチラリズム発生には至らない。
この程度のことでチラチラしてしまうのであれば、世の中はもっと不可避なブラチラであふれかえっていることだろう。
しかし、前屈み(軽井沢さん)と前屈み(俺)が僅かな傾斜15度で上下に重なると、その角度はもはや15度にあらず。
更には、しゃがむような体勢で俺の頭が軽井沢さんの胸元で固定されているともなれば──。
視界の直線上にはウィークポイント(弱点)が発生する。
リボンの紐が作り出す首筋からの隙間と、第二ボタン開放によるワイシャツと胸元との隙間が重なったとき、ウィークポイントはその真たる姿を露わにする。
『ワームホール』
その先にあるのは、日常から
パステルカラー×水玉模様が織り成す、ビッグバン!
──ブラチラ誕生の瞬間である。
とはいえ僅かな隙間であり、意図して覗き込んではならない。
故意に覗けば、たちまち御用改めの刑に処されるほどの切ない隙間だ。
それは心の隙間でもあり、健全な男子高校生とはその隙間と日々戦うファイターでもある。
しかし今の俺は、一切の動作を伴うことなく『ワームホール』に視界がジャストフィット。
レーザービームの如く、真っ直ぐと水玉模様に突き刺さる!
一切を望まずして、たまたま。たまたま見えてしまっているに過ぎない。
つまり、俺はなにも悪くない!
悪くないんだ!
以上が調査結果であり、パステルカラーが見えてしまう現状において、友橋渡が一切悪くないことの証明である。
☆ ☆ ☆
……うん。
大切な思考リソースを自分を正当化するために割いてしまった。……最後のほう願望入ってるし。
望まずとも見えてしまうのだから仕方がない。……とな。
……違うだろ。そうじゃない。
今この場面においては仕方がないとかそんな倫理的な話をしても、それこそ仕方がない。
ブラチラとは言えど、相手は邪神様だ。
万が一にも見えていることに気がつけば、逆鱗に触れてしまう。
──とりわけ生死を彷徨う一大事。
“さっきからどこ見てんの? あーしが気づかないのをいいことに、ずっと見てたわけだ? は? 舐めてんの? 水玉模様にしてやろうか?”
……か、考えるだけで悍ましい。
かと言って「見えてますよ」なんてもっと言えない。
確かにパステルカラーの輝きは目を見張るものがあるが、命には変えられない。
と、なれば──。
俺が取るべき行動はただひとつ。
見えていることを悟らせない!
それだけに注力してこの場を乗り切るんだ!
女子とは
つまり今の状態を維持できれば、俺の視線が悟られることはまずありえない。
加えてボタンが外れていたり、めくれていたりするわけでもない。前髪工事が終われば、何事もなかったかのようにブラチラタイムも終了する。
だから意識せず、普段通りにしていればいい。
時間が確実に解決してくれる。それも五分やそこいらのショートタイムだ!
──ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
ここまでわかっているのに、俺の中に眠りし一匹のオスがうねりをあげる。
今か今かと飛び出さん勢いだ。
──ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
頼むから落ち着いてくれ、俺の鼓動。
ドキドキしている場合じゃないんだよ。冷静に、とにかく冷静に……。
──ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
くぅっ。相手はあの邪神様だぞ!
治まれよ! 俺の鼓動! 死ぬぞ? 死んじまうぞ?
死んだらケンジに会えなくなっちまうんだぞ!
──ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
ケンジに会いたい気持ちを持ってしても、ドキドキは治まってくれない。
無理もなかった。
俺にとって軽井沢さんとは恐れるべき存在であり、一匹のオスとしての対象ではなかった。少なくとも『ワームホール』を発見するまでは。
ここまでずっと頑なに思考を逸らしてきた。
あたかもパステルカラーの水玉模様が見えるだけとしてきた。
でも、現実は違う。
どうしたってそこには、膨らみらしからぬものがあり、差瀬山さんほど大きいわけではないが、今まで怖くて意識すらもして来なかった未知の脅威物がある。
邪神様の胸元に実る、推定『D』の輝き──。
──ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
しかも普段のイメージからは程遠い、パステルカラーの水玉模様に包まれているともなれば、その破壊力は清楚系Fカップ様を遥かに凌ぐ。
埋められるはずのない2カップの差をいとも容易く埋めてしまう。
軽井沢さんと言ったら黒とか豹柄とか、レースだったり。大人びた攻撃的な濃色系を着けていそうなものだ。
それがどうしてこんなにも可愛いらしいんだ。
これではまるで、バケット片手にお花を摘む草原の美少女じゃないか……!
今まで勝手に抱いていた、狂気的なイメージに綻びが生じていた。
ゆえに、恐怖心よりもドキドキが勝る。
──ドクンッ。ドクンッ。ドクンッ。
今すぐにでも目を閉じてしまいたい。
現実から目を背けるのに最も有効な手段は、見ないことだ。
それは俺が日々、教室の片隅で実戦していること。……突っ伏寝の醍醐味でもある。
でも今は、Dを見続けなければならない。現実から目を背けることは死に直結する。
ここは電車内。と、なれば……揺れるんだ。
俺の顔面とDとの距離、僅かに10cm。
いつなんどき、Dに顔面を押しつぶされても何ら不思議ではない状況。
そうなったら最後。あらゆる意味で終わる。
だからいつでも左右に逃げる準備が必要不可欠なんだ。
先ほどは不意なことで、手提げ袋を守るのに気を取られすってんころりんしてしまったが、足腰には自信がある。
突っ伏寝るために鍛え上げた俺の足腰は、電車の揺れ程度で恐れを成すものではない!
……の、だが。
そのためには片時もDから目を放してはならない。
適切な距離を守り続けるために、パステルカラーに包まれしDの輝きをずっと、ずっとずっと見つめ続ける必要がある。
もはや牢獄に等しき、無限の時間。
この戦いの最たるは、一匹のオスモードへの誘発を阻止することにある。
ガタンゴトン~。ガタンゴトン~。
それにしてもこのD、揺れよる……。
Dに片足を突っ込んでいるわけではなく、甘んじてDに居る。そんな雰囲気がするのは、気のせいだろうか。
電車の揺れに合わさるようにDが揺れ、俺の心も合わさるように揺れているようだった。
……D。ひょっとして君は、もうじきEになってしまうのか……?
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