冴えない陰キャぼっちな俺が教室の片隅で突っ伏寝(寝たフリ)に励んでいると、同じクラスの清楚系巨乳ギャルが俺のお耳をペロリンチョしようとして来た。──起きる? 起きない? もちろん起きない!
第7話 ブォンブォン! ほら、早く乗れよ? 俺っちとツーリングデート行こうぜ~☆
第7話 ブォンブォン! ほら、早く乗れよ? 俺っちとツーリングデート行こうぜ~☆
……そんなわけないじゃん。
突っ伏寝しながらぜんぶ聞いてたじゃん。
これは賭けで、言わば罰ゲームみたいなもの。
わかっていたはずなのに、あやうく純情を弄ばれてしまうところだった。
ギャルとは挨拶ひとつで惚れられるリスクを十分に理解している生物だ。
それを逆手に取るような真似をして……。
「話が逸れちゃってごめんね~。で、バイク乗ってるんだっけ? デート連れてってあげてよー」
仕切り直すように再度の問い掛け。
軽井沢さんの言い方には悪意しか見えない。差瀬山さんも言いくるめられて良しとしている。
この後の展開にはおおよその察しがついた。
乗ってないと答えれば「まじかぁ~」と何やらありげに惜しそうな雰囲気を出してくるに違いない。
そして差瀬山さんはホッとして軽井沢さんをダブルデートに連れ出す。
──すべてが予定調和に終わる。
俺の突っ伏寝ライフをブッ壊しておきながら、何事もなかったかのようにイイ男とやらとデートに出掛け、ひと夏のアバンチュールに想いを馳せるってか。
こっちは数多の男たちから、おかずに馳せられるってのに……。
──ピコンッ。
ここで差瀬山さんのスマホが鳴った。
「彼氏からメッセージ来たぁ♡ 眠いだろうけど学校頑張ってだって~! あー! しかも今日迎えに来てくれるって! ちょうどいいから紹介するよ!」
「いやいや。どうせ今回もすぐ別れるだろうしセフレみたいなの紹介されても、ね?」
「はぁー? 今回は運命の彼なんだから! それにダブルデート行くことにもなるんだし!」
「あ~。そっか。そういえばそうだった。じゃあ帰りがけに少しだけならいいよー」
「言ったね! じゃあ紹介する予定の友達も連れて来てもーらお!」
「まー、お手柔らかにねー」
……ふざけやがって。もう既に俺がバイクに乗っていない前提で話してやがる。
ていうか差瀬山さん彼氏居るじゃん。俺との誤解なんて容易に解けるじゃん。
……それなのに、この女。
そもそも彼氏居るのに、俺とデートとかしていいの? 貞操観念はどこに置き去りにした?
そんなの決まってる。初めから行くつもりなんてないんだよ。
お昼休みのちょっとした暇つぶし。
……ふっざけんな!
俺はお前らのおもちゃじゃない!
未だ平穏な突っ伏寝ライフが守られていたのなら、おとなしくしていたけどな。俺にはもう、守りたいものなんてないんだよ。
……決めた。復讐だ。あぁ、やってやるよ!
お前らは肝心なことを見落としている。
それは俺が一流の突っ伏寝リストだってこと!
突っ伏寝してると見せかけて、寝たフリだったんだよ! 話は全部筒抜けなんだ!
このアドバンテージを最大限に活かす。それでこそ、突っ伏寝十年選手、友橋渡!
夜な夜なおかずにされて、平穏な突っ伏寝ライフを奪われようとも、俺の心はいつだって突っ伏寝とともにある!
見せてやるよ。突っ伏寝を司る者のチカラってやつを……!
お前らはジョーカーを引いた。
このまま予定調和で終わると思うなよ!!
ひと夏のアバンチュールなんてさせてたまるかよ!!
☆
「えっとあの……バイクですか? 今は
……うん。
どんなに息巻いても、これが俺の精一杯。
一軍女子様相手にバレる嘘をつく勇気はない。
この場合「バイク乗ってるぜ!」と言って「いや~差瀬山さんとデートとか無理っス!タイプじゃないんで!悪いね!」くらい言えれば一泡吹かせられるが……、後のことを考えると、とてもじゃないが怖くてできない。
免許証見せてとか、バイクの写真見せてなんて言われたら打つ手がないし。
だから免許取る取る詐欺をして、バイクに乗る予定ありを演じる。
誰も本当に乗るとは言ってないってやつ。
万が一にも、差瀬山さんが俺とデートするとは到底思えないし。
今は
これがちっぽけな俺の、最大限の復讐劇──。
さぁ、どうする?
食い付いてくれよ?
この作戦の鍵は人間遊びが大好きな軽井沢さん、あんたなのだから!
「ん~? まだってことは乗る予定あるとか?」
さすが軽井沢さん。察しが良いことで!
「はい……! 夏休み中には、と。前々から計画してまして。バイクに乗る予定はあるんですけど、今は
とにかく“まだ”を強調してアピール!
「まじ?! まじで言ってる?!」
食い付き良好! 微速前進! いけっ、俺!
「はい。本気と書いてまじってやつです!」
「あはっ! まじな感じだ! カッコイーじゃん! 突っ伏寝くんやぁーるぅー!」
にこにこと肘で突いてきた。
こんなにも嬉しそうにする軽井沢さんは初めて見る。
結果的に軽井沢さんを喜ばせる展開になってしまうのは仕方ない。
ひと夏のアバンチュールを阻止して差瀬山さんに恐怖を植え付けられるのであれば大勝利だ。
あまり多くを望み過ぎると己の破滅を呼び込むからな。
それにまぁ大丈夫。差瀬山さんは俺とデートなんて絶対にしない。キモいと二度も言われたし。彼氏だっているわけだし。
そんな思惑通り、Fカップ様は
「えっ。嘘でしょ? 冗談だよね? 嘘だって言って! お願いだから!! キャラ違うじゃん?! バイクとか乗らなさそうじゃん?! 自転車でよくない?! なんでバイク乗るとか言い出しちゃってんの? もっと自分を理解して?!」
ゆっさゆっさと俺の両肩を揺らした来た。極大の焦りと動揺が見て取れる。
心の中で特大ガッツポーズ!
この顔が見たかったんだよ。よくも俺をキモいと言ってくれたな! そんな男とのツーリングデートをプレゼントだ!
とはいえ、差瀬山さんの言っていることは正論過ぎてぐぅの音もでない。
だからここは信憑性を高めるためにも、それらしいことを言っておく。
「えっと……。子供の頃からバイクヒーロー“帝王”に憧れていたので。俺にとってバイクとはマイソウルハートです! 似つかないかもしれませんが、この夏、念願のバイク乗りになるんです!」
とっさに出た嘘は、原点回帰とも言える幼少期の憧れ。
日曜朝のTV番組。バイクヒーローシリーズ。その中でも俺は“帝王”が好きだった。
「いやまじうけるし! ガチな人じゃん!」
軽井沢さんは俺を珍獣でも見るように笑っていた。またもや好印象を受けたようで作戦の成功を確信する。
「えっ、本当にむりなんだけど? むりだよ? むりむり! 絶対ムリ! ありえない。鳥肌が止まらない。むりむりむりむりむり! ムリッ!」
そして差瀬山さんの無理連呼。
初めからわかっていたさ。俺がバイクに乗っていたとしても、イイ男の片鱗すら醸し出せないってこと。
「どーんまい! 賭けは賭けっしょ? ってことで、ツーリングデートのお誘いしなよ?」
「あっ、お腹痛くなってきたかも。お手洗い!」
そう言い残すとFカップ様は軽井沢さんの制止を振り払いスタスタスタスタと教室から出ていってしまった。
と、まあこんな感じだ。
たとえ俺がバイクに乗っていようとも、差瀬山さんとデートする未来は絶対に訪れない。
ははっ。してやったり!
賭け自体は軽井沢さんの勝ちだから、ダブルデートの話も
俺をおもちゃにするからこうなるんだよ!
ざまぁみろ!!
心の中で喜びのガッツポーズ百回を行っていると──。
「じゃあ追加してもらっていい? バイク乗るようになったらまずはわたしに連絡してー」
およよ? 軽井沢さんがスマホ画面を差し出してきた。その中に写るのは友達追加のQRコード。
……えっ?!
「どした? べつに悪い話じゃないっしょ? ワンチャンあると思うし」
「いや、早くしろし。なにボケッとしてんの?」
「は、ははい! 今すぐに!」
えっ、ええっ。え?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます