第8話 ふぅ。ホッとするぜぇ!
「じゃあ連絡してね~。忘れんなよ~?」
初めて家族以外の人と連絡先を交換してしまった。それもクラス内カーストのトップに君臨するギャル。
なんだかちょっぴり感動してしまう。今まで誰とも連絡先を交換してこなかったのは、今日この日に繋がっていたのか!
って、ないない。全然違うから。
どう考えてもこの展開はまずい。
差瀬山さんとツーリングデートに出かけるか否かを問わずにバイクの免許を取らなければいけない流れだ。
……いや。適当に夏休み半ばに「免許取りましたー」って連絡すればいいのか。
どうせ差瀬山さんはデートには来ないだろうし、仮に約束までこぎつけてもドタキャンされるのが関の山だ。
バレない嘘なら嘘とはならない。
嘘とはバレて初めて成立するもの!
……だめだ。あまりにも危険過ぎる。バレた時のリスクを考えると、眠れない夜を過ごすハメになる。そんな怯えるような生活はまっぴら御免だ。
ここは勇気を振り絞るんだ!
今ならまだ、間に合う!
「あ、あの……? 差瀬山さんはすごい嫌がってるように見えたんですけど……。とてもじゃないけど、デートに出掛けられるような雰囲気では……」
「あ~。いいのいいの。突っ伏寝くんはそのへん気にしなくていいから。ツーリングデート楽しみにしててよ~」
なにがいいって言うんだよ。キモいと言われてむりむり連呼してたんだぞ……
「で、でも俺のことをキモいとも言ってましたし……。今だってここには居なくてどっか行っちゃってますし……」
「は? なにがなんでも絶対に行くように仕向けるってわたしが言ってんだけど? 信じらんないの?」
ひ、ひぃ……!
「い、いえ! そんなことは!! め、滅相もございません!!」
「まぁ、首に縄付けてでも絶対に連れてくからさ~。そのつもりでいてよ~」
な、なに言ってんだよ。あんたたち友達じゃないのかよ……。
いや、軽井沢さんは彼氏と別れて傷心中。にも関わらず毎度惚気てくる差瀬山さんにジェラシーを感じてる?
ひょっとしてこの二人、不仲?
考えもしなかった可能性に戦慄が走る──。
「それにあれ、なんだっけ? 吊り橋効果だっけ? バイクで山のほう連れてってさ、道に迷ったフリとかすれば割とガチでワンチャンあると思うし。まぁ頑張りなよ~」
おいおい。なにを馬鹿なこと言ってるんだよ。そんなの逮捕されちゃうから! 人道踏み外してるから!
そんなこと絶対しないから!
「は、はい。バイク乗るようになったら必ず連絡いたします」
とはいえ、目の前の軽井沢さんが怖い。とりあえず話を合わせて事なきを得る。
「じゃあよろしくね~」
「は、はい……!」
そう言うと軽井沢さんは差瀬山さんを探しに行くように教室を後にした。
──詰んだ。終わった。
だからやめとけった言ったんだよ! 一軍女子様相手に“免許取る取る詐欺”なんて通用するわけないだろ! なんで俺の言うことを聞かなかった!
誰も言ってない。全俺が満場一致で復讐に燃えていた。
俺は馬鹿だ。救いようのない馬鹿だ。
一軍女子様に楯突いて無事に済むはずなかった。
吐いてしまった嘘の代償はあまりにも大き過ぎた。
それでも、嘘を嘘で終わらせず、誠のものにできる現状にホッとする自分が居た。
これを不幸中の幸いだと思ってしまうのだから、俺はどうしょうもなくちっぽけな人間だ。
夏休み突入まで、今日を入れてあと三日。
立ち止まってる暇は、ない。
☆ ☆ ☆
さっそくその日の学校帰り──。
俺は重い足取りで教習所の門を叩いた。
「た、高ぁッ!」
受付のロビーでパンフレットを手にした俺は思わず声を大にしてしまう。
おそらく二人乗りをするようなバイクの免許は普通二輪免許といわれるもの。
その教習費用は諸々合わせると二十万弱。
なんの冗談だよ……。夢なら覚めてよ……。
そうは思うも、ここでもホッとする自分が居た。
なにかあった時のためにと残しておいた、ほとんど手付かずのお年玉貯金がある。
十年分のお年玉。
俺が生きてきた物理的な証。
眠れない夜は札束を眺めると不思議と安心して眠れた。
大切な、大切な俺のお年玉貯金。
──その後、受付で入所に関する手続きの話を聞いた。
必要なものは三点だけ。
お金と住民票と、親の承諾書──。
────────────────
あとがき
最後は駆け足になってしまいましたが、これで粗方のセッティングは完了です。ここまでが長くなってしまい申し訳ないです。
この先もお付き合いくださると嬉しいですm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます