第5話 今日のおかずはなんだろなー!
「おっぱい大きくて可愛いからって人の寝床を襲って許されると思ってるのか? こんなん完全に事案だからな? 痴漢されたって言ったら退学もんだぞ? 人の耳を弄びやがって! 生活指導の先生に突き出してやる!」
なーんて。言えるわけない。ちょっとだけ妄想するので精一杯。……ふぅ。スッキリした!
現実はこっち。
「………………………」
謝ってだめなら下を向いて
感情さえ殺せば、大抵のことは穏便に済む。
突っ伏寝十年選手の感情コントロールは伊達じゃない。
若干、気まずい空気が流れる中、
お腹を抱えて笑っていた軽井沢さんがむせながら口を開いた。
「はぁー! 笑った笑った! つーかべつにさ、突っ伏寝くんが謝る必要はないっしょ? ただちょっと、いやだいぶ? 耳が弱かっただけなんだよね?」
あ、あれ? 軽井沢さん……?
まさかの意外な人物からの助け舟ならぬ擁護展開に驚くも、それならば! と、全力で肯定の意を示す──。
「は、はい。そうだったみたいです……。自分でも驚いちゃいました……。新たな発見と言いますかなんというか……」
「うっわ。まじいらない情報! まじうけるっ! やばいお腹いたい! “ひぃやぁぁあ”って椅子から転がり落ちるの思い出しちゃったまじ辛い!」
再度、お腹を抱えて笑いだした。
……知ってた。わかってた。
オタクに優しいギャルなんて幻想だ。
助け舟を出してくれたと期待した十秒前の自分をぶん殴りたい……。
「ほんとむり。思い出すだけでキモい」
そして差瀬山さんから本日二度目のキモいをいただいてしまった。
状況は更なる悪化の一途を辿るかと思ったが、笑い転げる軽井沢さんが呼吸を整えると再度口を開いた。
「さすがに本人を前にしてキモいはだめっしょ。仮にもデートするかもしれない相手なわけだし。断られたらどうするの? デート行けなくなっちゃうよ?」
「なっ、ななっ?!」
目を見開き驚きをあらわにするFカップ様。
まさかの展開に俺も驚きを隠せなかった。
助け舟ではないと断言できるけど、幸か不幸か軽井沢さんは何ひとつブレていなかった。今もなお、差瀬山さんをからかうことを継続していた。
それを聞いてかクラスメイトたちのざわざわ声にも変化が──。
「(デートってなに? あの二人まさか付き合ってるの? 嘘だろ……?)」
「(ひょっとして痴話喧嘩とか……?)」
「(てっきり、差瀬山さんに耳を擦り付けて事案発生したのかと思ってたけど……)」
「(量産型以下のどこにでも居そうな冴えないあの男が差瀬山さんのおっぱいを揉みまくってるのかよ……。信じられねえ)」
「(妄想が捗りますねぇ! 今晩はおかずに事欠きませんよ! おかわりし放題! BOXティッシュ構えー! ヨーソロー!)」
「(た、確かに! 冴えないあの男にめちゃくちゃにされてると思うとご飯三杯いけるな……! よ、ヨーソロー!)」
とんでもない誤解を招いていた──!
いやいや。これはまずいでしょ。
差瀬山さんが黙っちゃいない。今に怒り出すぞ! そう思ったのも束の間、軽井沢さんが更なる悲劇を生み出す。
──このギャル、止まることを知らない!
眉間にしわを寄せ「チッ」と舌打ちをすると──。
「つーか、見せもんじゃないんだけど? なに勝手に盛り上がってんの? 喧嘩売ってる?」
それは、トップカーストに君臨する気の強いギャルにしか成しえない技。
ひと睨みでクラスメイトたちを黙らせてしまった。それどころか──。
「(こ、購買にパン買いに行こうぜ)」
「(……そうだな。食い足りないと思ってたところだ)」
「(そういえば先生に用事頼まれてるの忘れてた!)」
「(手伝わせて! 一緒に行こ? ていうか連れてって!)」
そそくさと大半のクラスメイトたちが恐れをなすように教室から出て行ってしまったではないか!
……あ、あれ? ちょっと待って。これって……とてつもなくまずいんじゃないの……? 肝心な部分が放置されてない?
軽井沢さんがひと睨みする前のざわざわした教室内の話し声を思い出してみる──。
“量産型以下のどこにでも居そうな冴えないあの男が差瀬山さんのおっぱいを揉みまくってるのか!”
“妄想が捗りますねぇ! 今晩はおかずに事欠きませんよ! おかわりし放題! BOXティッシュ構えー! ヨーソロー!”
“ヨーソロー!” “ヨーソロー!” “ヨーソロー!”
あっ──。
このままじゃ俺、今晩のおかずにされちゃう!
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