冴えない陰キャぼっちな俺が教室の片隅で突っ伏寝(寝たフリ)に励んでいると、同じクラスの清楚系巨乳ギャルが俺のお耳をペロリンチョしようとして来た。──起きる? 起きない? もちろん起きない!
えっと、あの……。人間遊びが大好きなだけですよね?(後編-序)
えっと、あの……。人間遊びが大好きなだけですよね?(後編-序)
落ち着け、友橋渡。
現在の状況を冷静に分析するんだ。
軽井沢さんは明日から夏休みのためか、持ち帰る物を入念にチェックしている。
もう既にスクールバッグはパンパンで、手提げ袋も片手いっぱいって感じだった。
置き体操着やジャージの類。
あとはお菓子であったりだとか、コスメ系の細かな物がたくさん。
ギャルとはいったい学校に何をしに来ているのだろうか? と、考えさせられるような荷物だ。
ここから導き出される答えは──。
相手のメリットを考えれば自ずと答えは見えてくるってものだ。
その荷物、俺が持つんですよね?
ええわかってますとも! そのために帰りのお共に誘ってくださったんですよね!
知ってる!
王道パシリパターンその1ってやつだな!
幸いにも俺の荷物は軽い。
授業を受けて突っ伏寝をする。ただそれだけが繰り返される高校生活だからな。
それに授業もお昼もない終業式の短縮登校日となれば、バッグの中はスカスカもスカスカ。空っぽみたいなものだ。まるで俺の高校生活を現しているように!
……うん。最後のは少しおかしかったな。
気を取り直して──。
ならば先手を打つ!
「持て」と言われるのと「持つよ」と言うのとでは、結果は同じであれど意味は多分に異なってくる。
持たされるのか自らの意思で持つのか。それはパシリかそうじゃないかに相当するのだから!
「ふぅ……」
軽井沢さんが大きく息を吐き出し、額の汗を袖で拭った。どうやら、夏休み前の整理は終わったようだ。
「またせちゃってごめんねー」
「い、いえ! なんのこれしき! お構いなく!」
よし。時は満ちた!
切り出すなら、今!
俺はパシリにはならない! 自らの意思で、荷物を持つんだ!
「あっとえっと……。持つよ?」
「突然どした? 悪いからいいよ~」
なるほど。建前ってやつだな。軽井沢さんならもっとストレートに言ってくるかと思ったけど。ならばその茶番に付き合うまで!
「あっ、でも重そうだから。俺、身軽だし!」
空っぽのカバンを振ってみせた。
「あー……。じゃあ手提げ袋だけお願いしよっかな?」
疑問形とはしらじらしいな。
なんだか軽井沢さんっぽくないぞ。
しかし結果は思った通りだ。俺が荷物を持つ。なにも変わらないさ。
だがしかし、パシリではない。
これは俺の意志だ。だから笑顔で返事をする。
「はい! よろこんで!」
「あははっ。なにそれ? そんな嬉しそうにしながら人の荷物持ちたがる人とか初めてなんだけど? 突っ伏寝くんってやっぱ変だわ。うけるっ」
「あっ、えっと。重そうだったから。それを俺が持てるのなら笑顔もこぼれちゃうかな、なんて」
「……ふぅん」
確かにさっきまで笑っていたのに、突然食い入るように見てきた。
あ、あれ……。ミスったか?
作戦の抜かりを感じずにはいられない。しかし、軽井沢さんの荷物は持った。結果オーライとしようじゃないか!
「まぁいっか。持ってくれるなら助かるし。ありがとね~!」
ほら、この通り!
しかし教室から出ようとすると、クラスメイトから突き刺さるような奇異な視線を向けられた。
こればかりは仕方がない、か。
俺と軽井沢さんが二人で居て、あまつさえ並んで歩いているともなればちょっとしたホラーだ。
天変地異が今すぐ起きても不思議ではない、不確かな光景──。
……単なる荷物持ちなだけですけどね?
それは廊下に出ても変わらない。
首に縄でも着けて前を歩いてくれるのなら、奇異な目で見られることもなかったのに。
今って縄が着いてないだけで、大差ない状況だし。
「つーか大丈夫? 重くない?」
「なんのこれしき!」
「たのもしーじゃん!」
「お誉めに預かり感謝の至り!」
「さっきから微妙に言葉のチョイスおかしくね? いちいちうけるんだけど?」
「あっ、あははぁ……」
軽井沢さん相手にタメ口を平然と使う度胸も根性もない結果……。
と、そこで軽井沢さんは階段脇にある自販機の前で立ち止まった。
「突っ伏寝くんストップ。ちょい待って」
これはまさか……。
王道パシリパターンその2ってやつだな!
ジュースを買わされるくらいは想像の範疇だ。
ならば、自ら奢りに出る!
俺は財布でもなければ金づるでもない! ただちょっとだけ、人にジュースを奢るのが好きなだけさ!
大急ぎで財布を出そうとするも、予想外の事態に直面する。
軽井沢さんの荷物が邪魔でカバンを開けられない。床に置けば済む話ではあるが、学校の廊下などという汚い場所に置くのは恐れ多い。それこそ死に直結するやもしれない。
軽井沢さんの手提げ袋を抱きかかえるようにして、自分のカバンをガサゴソすれば取り出せないこともないけど。
一軍女子様のしいてはS級ギャル様の手提げ袋に抱き着くほど愚かではない。
これこそ死に直結するやもしれない。
困ったな……。
とりあえず奢る意思だけ伝えておこうかな。
それだけで王道パシリパターンその2は回避できる。
しかし意外なことに軽井沢さんは自らの財布を取り出すと、自販機にお金を入れた?!
いったいなにが起こっているのか、理解が及ばないでいると驚くべき言葉が飛んできた!
「好きなの押していいよ~」
なん……だ……と?
末恐ろしくなった。このジュース一本は利息がついて、後に百万円を請求されるってやつではなかろうか。
とはいえ断れば軽井沢さんの逆鱗に触れる!
「お、お言葉に甘えて!」
だからここは自販機最安値のミネラルウォーター! つまりは単なる水をプッシュ!
ポチッと。
「あはっ。なんかそんな気したし。見るからに水とか好きそうだよね~。うける~」
言いながら軽井沢さんはパックのいちごみるくを買った。
そして、自販機前でほっと一息。
あ、あれ。いったいなにが、起こっているのだろう……?
あっ、このお水冷たくて美味しい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます