第13話 おパンツミステリー
家に帰ると深夜の一時をまわっていた。
まるで夢の世界から帰ってきたような、ほんわかした気分──。
……ケンジ。
ケンジの笑顔が頭の中から離れない。
ケンジ……ケンジ……ケンジ……。ケンジケンジケンジケンジケンジ!
「えへ、えへへ」
玄関先でついついニヤけてしまうのは、仕方のないこと。
「え。お兄ちゃん……。ど、どうしたの?」
ひぃやぁ! か、香澄?!
なんでまだ起きてるの。一時だよ? 良い子は寝てる時間!
「しかも泥だらけじゃん……。言ってくれればお風呂くらい沸かしておいたのに。どうする? 今から沸かす? それともシャワー?」
「も、もう遅いから、シャワーでいいかな」
「じゃあ早く浴びて来ちゃいなよ。着替えとタオルは持ってきてあげるから」
「お、おう。ありがとう。は、入ってきます」
え。なんか妙に優しくて怖いんだけど。
ひょっとしてこれ、妹料とか請求されちゃう流れ……?
いやいや。家族なんだしいくらなんでもそれはないだろ。
「ねえ、早く入ってきちゃいなよ? なにトロトロしてんの? 帰りが遅いってママも心配してたんだから。さっさと入ってさっさと寝なよ」
そう言うとお風呂の方角を指差した。
その辛辣な表情を見て安心する。
──良かった! いつも通りの香澄だ!
一応母さんには帰りが遅くなるってメッセージ送ったんだけど。明日しっかり謝っておこう。
よしっ。そうと決まれば大急ぎでお風呂場へGOしてシャワーを浴びる!
ケンジと再会した証とも言える、泥だらけになった体を入念に洗っていると、香澄の声がした。
「洗濯機の上に着替えとか置いとくからねー?」
「あ、ありがとう!」
「うん。じゃ、わたしはもう寝るから。おやすみー」
「お、おやすみ!」
あ、あれぇ……。やっぱり妙に優しくて怖いんだけど。
おやすみって最後に言われたのはいつだっけ。
眠りに就く挨拶だなんて、やっぱりこれ妹料を請求されちゃう流れ?
いやいや。そんなことしたら母さんが黙っちゃいない。
でも、香澄にお小遣いをせびられたら、たぶん俺、あげちゃうな。
辛辣な態度で俺を煙たがっているとはいえ、子供の頃の「おにぃちゃん♡おにぃちゃん♡」って後ろをついてまわってきた記憶が今も鮮明に残ってる。
俺にとって香澄は可愛い可愛い妹なんだよ。
そんなことを考えながらお風呂から上がると、ちょっとしたミステリーが起こっていた。
着替えと称して、洗濯機の上に置かれている服の中に、俺のパンツが当たり前のように置いてあるんだ。
それは新品とかじゃなくて、俺がコインランドリーで洗ってきたであろうパンツ。
パンツに関しては使用済みも洗濯済みもぜんぶベッドの下で管理している。
それは俺しか知らない、ベッド下の秘密。
あれ。あれれ?
なんだかこれ以上、深く考えてはいけないことのような気がしたので、俺は考えるのをやめた。
しかし──。
第二のミステリーが起こってしまう。
いや、既に起こっていた!
シャワーを浴びる寸前に脱ぎ捨てたパンツが見つからないんだ。
脱衣所で脱いだパンツは自分の部屋に持ち帰る。これは鉄の掟であり、破れば香澄にひどく怒られる。だから必死に探した。
でも、ない!
どんなに探しても出てこない!
俺のパンツが、消えちゃった!
────────────────────
あとがき
今後の更新は0時7分に固定しようかなと思います。
(おそらく決まった時間のほうが読みやすいかなと思い……!)
とりあえず次話は予約投稿済みです。
書き溜めはないので投稿できない日もありますが、ここ一週間は珍しく毎日一話くらい書けているのでもう少しの間は続けられると思います。
引き続きお付き合いくださいますと幸いです(੭ ›ω‹ )੭
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