冴えない陰キャぼっちな俺が教室の片隅で突っ伏寝(寝たフリ)に励んでいると、同じクラスの清楚系巨乳ギャルが俺のお耳をペロリンチョしようとして来た。──起きる? 起きない? もちろん起きない!
第15話 お兄ちゃん! 恋人岬に連れてって!(前編)
第15話 お兄ちゃん! 恋人岬に連れてって!(前編)
案の定──。
母さんは俺を気遣い、極大の心配をしてきた。
それを俺はシュッシュとのらりくらり交わす──。
「でも突然バイクだなんて。お友達って悪い子だったりしないわよね? お母さん心配だわ」
「えっと……友達の影響とかではなくて、バイクヒーロー“帝王”が好きだからです! いつか乗ってみたいなと子供の頃からずっと思ってたんです!」
「あら、そうだったの? でも渡ちゃんがバイクヒーローのTV番組を見ている記憶がないわ……。どういうことかしら……」
「そ、それはですね好きなのはシリーズの中でも“帝王”だけなので! 他のシリーズは見ませんよ! 帝王は俺が幼稚園に行ってた頃に終わっちゃいましたから!」
「そういうものなのかしら……。ぜんぶおなじに見えるのは気のせいかしら……」
それらしいことを言ってかわしてはいるが新妻エプロン姿の母さんを直視できず、視線はずっと斜め45度。
これでは信憑性に欠けてしまう……。
でもこの方向で押し通すしかない!
多少強引だとしても、推して参る!
「そういうものなんです! 俺にとってバイクヒーローとは“帝王”ただひとりで、マイソウルハートです! ほかは有象無象の二番煎じも甚だしい! 俺の心はいつだって、帝王とともにありました!」
「……そ、そうなのね。う、うん。なんだかよくわからないけど……わかったわ。しつこく聞いちゃってごめんなさいね。じゃあ渡ちゃん♡ これ、少ないけど足しにして。ちなみにパパにはナイショよ?♡」
そう言うと封筒を手渡された。
ようやっと納得してくれたかと思いホッとするも束の間、次のターンへと突入してしまった。
……話の流れ的に中身はほぼ確実にお金。
「い、いただけないですよ! お年玉貯金があるので大丈夫ですから! 心配には及びません!」
「そうだとしても受け取って。バイクって維持費も掛かるって聞くし、毎月のお小遣いとお年玉だけじゃきっと足らなくなるわよ? それにね、渡ちゃんが進んでなにかをやりたいって言うのは初めてじゃない? だから、お母さん応援したいの! ふぁいと♡って!」
か、母さん……。違うんだ。違うんだよ……。
バイクなんてこれっぽっちも好きじゃないんだ。隣の席のギャルが……軽井沢さんが怖くて……。
……言えない。言えるわけがない。
これは俺が吐いてしまった嘘への代償。自業自得の自己責任。
免許取る取る詐欺の波紋は、今こうして母さんにも広がってしまった。
ひとつの嘘が連鎖的に他の人をも巻き込み、肥大化していく──。
そしてこのタイミングで、
バイクを買うってことが、これっぽっちも頭の中になかったんだ。
免許を取って終わりじゃないじゃん!
とはいえ、俺の場合はレンタルで十分だったりもする。差瀬山さんとデートに行く日だけあればいいんだから。
しかし母さんにバレた今では、つじつまが合わない。
免許は取るけどバイクはいらないし乗らないってんじゃ、明らかにおかしい。
激安の中古バイクでもなんでもいいから買って、家の庭先に置き、定期的に愛でる姿を見せなければ母さんを不安にさせてしまう、のか。
くぅっ……。おのれ親父……! なんてことをしてくれたんだ!
親父さえ黙っていてくれれば!
とは思うも、親父に非はない。免許を取ると決めた経緯は如何に親父と言えど説明はできないのだから。
隣の席のギャルが怖くて、バイクの免許を取るなんて誰にも言えないよ……。
これから先、バイク好きを演じるしかないのか……。
ていうか激安中古とは言え、買えるのだろうか。教習費用払ったらスカンピンになっちゃうんだし……。
「どうしたの渡ちゃん?♡ 受け取ってくれなきゃお母さん怒っちゃうからね!」
可愛らしくも新妻エプロン姿でプンプンと怒る姿に胸がきゅんとなる。
……もうこれ以上は間が持たないよ、母さん。
激安中古バイクを買う必要が出てきた今、喉から手が出るほどにお金が欲しい……。
それに母さんの気持ちを考えると、受け取らないわけにはいかない。
このお金には母さんの息子に対する気持ちが特別に特段に込められているのだから。
その気持ちを踏みにじることなんて、できない。
受け取ってなにか別のかたちで返す。……って言っても、俺に何ができるのか。母さんは見返りを求めているわけじゃない。
返せない。俺は母さんに、なにも返せない……。
母さん、ごめん……。
受け取るしかない状況にも関わらず、既のところで受け取れずに居ると──。
「うわぁ……。お年玉貯金とか見るからにしてそうだし……。ていうか、ママの気持ちなんだからグダグダ言ってないで受取りなよ?」
うおっ。か、香澄?! いつから居たんだよ……!
「そういうこと! はい渡ちゃんこれね♡ ご飯できてるから二人とも早く食べちゃいなさいよ~!」
母さんはこれみよがしに俺の手に封筒を掴ませると、そのまま逃げるように「じゃあお洗濯してこようかしら」とリビングから出て行ってしまった。
なんてこった。……いや、受け取る他に選択肢はなかった。こればかりは仕方がない。
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