冴えない陰キャぼっちな俺が教室の片隅で突っ伏寝(寝たフリ)に励んでいると、同じクラスの清楚系巨乳ギャルが俺のお耳をペロリンチョしようとして来た。──起きる? 起きない? もちろん起きない!
えっと、あの……。人間遊びが大好きなだけですよね?(後編-中ノ睦)
えっと、あの……。人間遊びが大好きなだけですよね?(後編-中ノ睦)
不確定要素を多分に含みながらも『敏感度10倍スカート覗き見事件』の容疑者候補には上がっていないようだった。
そもそも事件として取り扱われていないのだから、当然と言えば当然なのだが……。
油断は禁物だ。危機的状況であることに変わりはない。
軽井沢さんが気づいていないだけで、事件は確実に起こっているのだから。
いつなんどき思い出して「お前、パンツ見たろ?」と、言われても何ら不思議ではない状況だ。
とはいえこの手の事件は現行犯逮捕が肝だと聞いたことがある。
ならば、逃げおおせてみせるまで!
俺はこんなところでは終われない!
☆ ☆
「突っ伏寝くんさ、足腰とか体感鍛えたら? さすがに簡単に転び過ぎだしいつか大怪我するよ? しかもバイク乗るんでしょ。まじで心配しかしないんだけど?」
「ご、ごめん……。家帰ったらさっそくスクワットでもやってみようかな! 軽井沢さんを心配させるようなヤワな男は卒業するから! 絶対に!」
「……そこまで息込まれると少し困るけど。……まっ、突っ伏寝くんがやる気あるなら鍛え方とか教えてあげよっか? これでも中学までは真面目に陸上やってたからね~」
「め、迷惑でないのであれば、ぜひに!」
……え。S級ギャルの軽井沢さんが陸上やってただって? それも真面目に?
えっとあの、どこのおとぎ話の世界ですか?
って、驚いている場合ではない……! ちょっとこの話の流れはまずいぞ。
本来の俺はあの程度の揺れで転ぶような軟弱者ではない。突っ伏寝十年選手の鍛え上げた足腰を侮ってもらっては困る。
しかし今は侮ってもらわないと困る。
蜘蛛の糸を掴むような細い生存ルートが確立しているのは、俺が転び癖のある軟弱者だと誤解されている点が大きく関与している。
軽井沢さんはまさかにも、俺がわざと転んだとは思っていないはずだからだ。
もし、「じゃあなんで転んだの?」と疑問を抱かれてしまえば、たちまちデッドエンドを迎えてしまう。
“あぁね。スカートの中を覗くためにわざと転んだんだ? お前、今晩の水玉模様決定な?”
……お、恐ろしい。
このまま筋肉の話を続けるのは危険だ。
軟弱者ではないと気づかれるリスクと隣り合わせじゃないか!
ともあれ、もう既に夏休み。
この局面さえ乗り切ればやりようはいくらでもある。
今日からトレーニングをやめて、筋肉を落としたり、
たくさん食べて体脂肪率をあげたり。
どうせ次に会うのは二学期が始まってからだろう。
と、なれば。夏休み中に筋トレ頑張りましたってことにもできる。
まずいのは今、この瞬間だけ。
ならばこれ以上、話を広げないようにせねば!
と、思った矢先に──。
「じゃあちょっと触っていい? 鍛えるって言ってもさ、いきなり頑張りすぎると危険だから」
さすが元陸上部。筋肉に触れれば大体のことがわかるのかな。すごい!
って……。ちょっと待ってよ。
どうしてこうもいきなりデッドエンドへ向かおうとするんだよ……。一難去ってまた一難どころじゃないだろ。さっきからずっと、ずっとずっと……なんなんだよ、まじで……。
運命ってやつは俺を殺したがっているのか?
だとしても、抗い続ける!
俺はまた、ケンジと泥団子を作るんだ!
ここは全力で拒否する! 絶対に筋肉には触れさせない!
「ど、どうぞ! 軟弱者ですが、なにとぞよしなに!」
「なんだしそれ! ほんといちいち面白いよね〜」
く……そ……ったれめぇぇえ!
身体の随所に至るまでイエスマン精神が染み付いてやがる……。
もう終わりだよ。
俺こそが敏感度10倍スカート覗き見事件の犯人だ。否定の余地はない。たとえ事故とはいえ、見てしまった事実は揺るがない。
ケンジ、ごめん……。もう一緒に、泥団子作れそうにないや……。
しかし──。
すべてを諦めたその時、神の御慈悲は舞い降りる。
~~次は市役所前~、市役所前~。お降りの際はお忘れ物などございませんよう〜~
「あ~……。もうそんなか。突っ伏寝くんと話してると時間経つの早いなー」
なんだろう。話の風向きが変わったような……。
「お、俺も軽井沢さんと居ると時間経つの早くて困っちゃうなー、なんて! も、もうそんなか! あははぁ……!」
「……あぁ。うん。……でさ、髪の毛やってあげる時間なくなっちゃったなーって。わたし、降りる駅つぎなんだよねー。今から急いでやっても途中で終わっちゃうだろうし」
なるほど。軽井沢さんの最寄り駅って市役所前駅だったんだ。
だったらもう筋肉談義に花を咲かせている時間なんてないな!
住民票を取るために寄ろうと思ってたけど、ここは全力でスルーだ。
同じ駅で降りてしまったら今度こそ筋肉談義に花を咲かせてしまう。
よし。風向きは完全に変わった。ならばこの風に全力で乗るまで!
「お、お構いなく! 軽井沢さんのお手を煩わせてまで、どうこうしたい前髪ではないので!」
「べつに嫌だったら最初からやらないけど? まー、中途半端につけちゃったヘアピン取ろっか。もう一回こっちに頭向けてくれる? なんかごめんね」
「いやいや! そんな! これくらい自分で取れ……──」
ま、待てよ。ひょっとして、これって……。
ドクンドクンと鼓動は再度、波を打ち始める。期待をしてしまう自分が悍ましくなるも、ここにはどうしても抑えられない衝動があった。
「結構きつめに付けちゃったし、適当に取るとたぶん痛いよ?」
「そ、そうなんだ。じゃ、じゃあやっぱり、お言葉に甘えてお願いしようかな」
「いいよー。じゃあはい。頭下げて、こっちに向けて?」
「ど、どうも……!」
そうして──。
期待に応えるように『ワームホール』は再度、その姿を現す。
甘美な香りが鼻を包み込み、視界には絶景が広がる。
もう二度と、会えないと思っていた。
たった一度の、奇跡だと思っていた。
──ただいま! D!
もはや言い逃れはできない。自らの意思でDを求め、避けられたにも関わらず、色褪せた水玉模様を拝みに行ってしまう俺の心は──。
立派に『敏感度10倍スカート覗き見事件』の犯人だった。
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