第2話:バフデバフ?

*元の1話を分割いたしました。

内容は一切変更しておりません。

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 ひとりになると途端に不安になるもんだなぁ。

 だけど四天王を全員倒すまでに間に、城の中にいた魔物はほとんど倒した……はず。


 大丈夫。大丈夫だぞ俺。

 道も覚えているし、最短コースで走り抜けてしまえばすぐだ。

 帰還の宝珠で一足先に王都へと戻って、汚れた体をゆっくり洗い流そう。

 アレスたちが帰って来るのを、紅茶でも飲みながら待っていよう。


 そんなことを考えていた。

 目の前にアレが現れるまでは。


「ほぉ。貴様か。デロリアの呪いを喰らった人間は」

「な……んで……魔王デスギリアがここに……」


 最悪だ。


 最悪な奴が目の前に現れた。


 五十年前に復活し、世界を混乱の渦に巻き込んだ元凶──魔王デスギリアがなぜここに!?


 アレスたちは?

 みんなは無事なのか?


 まさか──


「デロリアが命と引き換えに、余にとって最も脅威となる人間の力を封じたのだ。余はそれに応えてやらねばなるまい」

「お前にとって、最も脅威となる?」


 何を言っているんだこいつは。

 そんなの、勇者アレスに決まっているだろう。

 俺なんてただの支援職バッファーだ。

 それも呪いのせいで妨害職デバッファーになってしまったけれど。


「くくく。何も分かっていないようだ。まぁいい。知らぬまま死ぬがいい」

「くっ。一か八か……"揺らめく焔よ舞え! フレイムブラスト"」


 現存する魔法は、神聖魔法も含めて全て使える。

 使えるけれど、使いこなせているかどうかは別の話。

 フレイムブラストは炎属性でも最上位に位置する魔法だけど、俺が使うと焚火が風で渦巻いている程度しか出せない。


 けど、目くらましぐらいにはなるかも。その間に逃げれば──


「え?」

「……なんだ、この心地よい冷気は」


 魔王の足元には焚火ではなく、ちらちらと白い雪のようなものが舞っている。


 効果が……反転……え?


 攻撃魔法の属性効果が反転しているのか!?

 はぁぁー!?


「ははははははははっ。貴様の情報は既に余の下にも届いておる。バフスキルは一級品どころか、超ド級のようだが、攻撃魔法はゴミクズらしいな」

「ゴ、ゴミクズ言うな! 分かっているんだよ、そんなことっ」


 効果が反転っていうから、てっきりバフスキルがデバフになるんだと思っていたっ。

 よもやよもやの展開だぞ。どうする?

 どうやってここから逃げる?


 速度増加のバフを自分に掛ければ、十中八九、鈍化になるだろう。

 肉体強化は肉体弱化。魔力増加は魔力低下。

 自分をさらに弱体化させる結果にしかならないだろぉ。


「あ……もしかして?」

「む? まだ何かやろうというのか? よかろう、見せてみろ。あがいてあがいて、そして無駄だと知って絶望するがいい!」


 出来るか?

 相手は魔王だぞ。

 魔法の抵抗値なんてバカでかいだろう。


 でも──


「"韋駄天のごとき速さとなれ──スピードアップ"」


 俺は、人生で初めて魔物相手に支援魔法を唱えた。

 そう。これは効果が反転していようと、支援魔法なんだ。

 支援を抵抗するなんて、普通は聞かない。聞いたことがない。


「ぬ? なにをし──はぁ!?」


 何をしようとしているのか全く分からない。分からないほど、魔王の動きが鈍くなった。

 ゆぅー……っくりと、奴の腕が動く。

 ただ口調は変わらない。


「くっ。余を怒らせたな! 今すぐ消し去ってくれるわっ」

「"汝の魔力を解放せん! パワー・マジック"」


 魔力を何倍にも高めるバフだ。

 

 魔王の口から発せられたのは、蝋燭の火ほどの火球。それがひょろひょろ~っと飛んで来たけど、途中で吹いた風によって消えてしまった。


「んなっ!?」

「あ、あれ? いける……かも? "その肉体を強化し、鋼のごとき強さとなれ! フルメタル・ボディ"」


 一定時間、物理攻撃に対する防御力を飛躍的に上昇させるバフスキル。

 いったいどのくらい奴の防御力を下げられたんだろう?


「あ、でも俺、武器持ってないんだ──」

「ラルウゥゥゥゥゥッ、無事かあぁぁぁぁぁっ!!」


 武器を持っていない。そう呟きかけた時、勇者アレスが雄たけびと共に現れた。


 

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