第4話:辺境でテント

 王都から徒歩で一カ月ちょい掛け、ようやく目的地にたどり着いた。

 

 エセラノ草原。

 フォーセリトン王国領ではあるけれど、草原の南には東西に延びる巨大な山脈がある。

 だからなのか、この草原で暮らす人はいない。

 何故なら、草原の北側は魔王領だからだ。


 山脈で王国とは分断され、魔王領は目と鼻の先。

 誰が好き好んでこんな場所に住もうというのか。


 俺だよ!


 俺にとって最高の立地条件じゃないか。

 今の俺は、魔王すら弱体化させてしまうような、余にも恐ろしいデバッファーだ。

 しかも元々がバッファーだっただけに、とにかく人を支援したがる。

 うっかりバフって超絶弱体化させてしまったら、握手するだけで掌を骨折させてしまう。


 人さえいなければ、バフらずに済む。


 この広大な土地で、人間は俺ひとり。

 なぁに、話し相手ならいるから寂しくもないさ。


「クイ、出ておいで」


 足元に向かってそう声を掛けると、俺の影の中からにゅるっとが出て来た。

 鼻から尻尾の先までせいぜい120センチほどの、動物に例えるならコアリクイに似たモンスターだ。


「ラル兄ぃ、やっと着いたんけ?」

「あぁ、着いたよ」


 獣使いのテイムスキルの練習中に、唯一テイムできたのがこのクイだ。

 見た目も可愛いし、リリアンやマリアンナにはよく可愛がられていた。

 小さいなりだけど、そこはモンスターだ。

 長い舌には毒があるし、爪で引っ掻かれれば痛いじゃ済まない。

 こんなんでも下級モンスターだからなぁ。


「ラル兄ぃ……」

「ん? なんだいクイ」


 クイは小さな体を持ち上げ、器用に後ろ足だけで立ち上がる。

 コアリクイの威嚇のポーズに似ているけど、特に威嚇しないときでもクイはこうして立ち上がって歩くことも。それがまた、女性には大人気だったけども。


「ラル兄ぃ、ここなんもない」

「草原とか森とか、いろいろあるだろ? ほら、あっちには川もあるし」

「そうやなくて、町とか、村とか、畑とか」


 そんなものある訳ないだろう。この辺りには人は誰も住んでいないのだから。


「人間、家に住んでいるって聞いた。ラル兄ぃたちは旅していたから、テント暮らしやったけど」

「うん、ここでも暫くはテント暮らしだな」

「暫く? 暫くの後は?」


 俺は背負っていた鞄を卸し、その口を開く。

 そこから取り出したのは一枚の板材。


「ここに家を建てるんだよ!」


 その為の木材も鞄の中にバッチリ入っているし、素人でも建てられる家の図面を王都の大工に書いて貰ってある!


「明るいうちに近くを見て回ろう。どこに家を建てるのかも考えなきゃな」

「オレ、探す!」


 そう言ってクイは立ち上がり、ぽてぽてと歩き出した。

 そのスピードは立ち歩きを覚えた乳幼児並だ。正直、遅い。遅すぎる。


「クイ、俺の肩に乗って探してくれないか? そしたらもっと遠くが見えるようになって、良い場所も見つかるかもしれない。お前が頼みだぞ」

「おっ。任せろぉー!」


 さぁ抱っこしろと言わんばかりに、クイはバンザイポーズでぽてぽてとこちらにやって来る。

 抱きかかえて肩に乗せれば、俺の頭を器用に掴んで立ち上がった。


「それじゃあ探しに行きますかね」

「おぉー!」


 出来れば川からあまり離れたくはない。水の確保がしやすいから。

 だからと言って近すぎてもダメだ。

 水飲み場には獣やモンスターもやってくるからね。


「森はー?」


 草原の北には大きな森が広がっている。その奥にはまた山脈があるが、南のそれに比べれば大きくはない。

 俺たちはこの草原に一度来たことがある。勇者アレスとその仲間たちと共にだ。

 まぁその時は森を避けて草原を突っ切り、川を渡って荒野を進んだのだけれど。

 そうやって俺たちは魔王領に入ったんだ。それも一年半前の話だけどね。


「あの森は深淵の森と言ってね。モンスターがいっぱい生息しているんだ」

「オレやっつけるぞー!」


 お前よりめちゃんこ強いモンスターばっかりなんだけどなぁ。

 ま、強いモンスターっていうのは、それに比例してなのか太陽を嫌う。

 だから森から出てくることはそう滅多にあるもんじゃない。


 とはいえ、あまり近づきたくもないのも事実なわけで。


「川から離れすぎず近すぎず、それでいて森からも離れている場所がいい」

「注文難しいなりなぁ」

「まぁよろしく頼むよ」


 クイを肩車して歩くこと小一時間。


「ラル兄ぃ。あっこどう?」

「ん? あっこって……あぁ、あの大岩と何本か木が生えているところか?」

「そうそう」


 確かにだだっ広い草原で、ぽつーんっと一軒家よりはマシかもしれない。

 現場まで到着し、クイはさっそく木の上へ。

 俺は岩の上によじ登り、高い場所から辺りを見渡した。


 浮遊魔法を使いたいところだけど、『浮く』の反転が『沈む』だと恐ろしい目に会いそうだ。

 なんで『沈む』魔法はなかったのかなぁ。


「うん、良さそうだな。川までは歩いて十五分ぐらいだろうし、森までは一時間といったところか」

「オレ偉い?」

「あぁ、偉い偉い。じゃあさっそく──」

「家造る!?」


 テントを張ろう!



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