第39話:トロッコっぽいなにか

 六日後、蜥蜴人の集落にダンダさんを迎えに行った。

 蜥蜴人の集落から一番近い川岸には、集落に向かって伸びるものがあった。先日来た時にはなかった物だ。

 

「なんだろう、これは?」

「竹だな。中の節をくり抜いた竹の中に棒を通したみたいだが」


 そう。竹を1メートルほどの長さで揃え、中に棒を通したものを木材で固定しているようだ。

 それがずぅーっと集落まで続いていた。

 何に使うのだろうと触ってみると、丈がくるくる回って……じっと見ていたら目が回りそう。


 集落にたどり着くと、ダンダさんとシーさんが荷物をまとめて待っていた。


「どうじゃ。これで木を川に流しやすくなっただろう」

「え? いや、あれですよね? 何に使うんです」

「伐採した木を運ぶために決まっておるだろう。どれ、使い方を見せてやるかの。村長さんよ」


 呼ばれたグンザさんが頷き、それから仲間に合図を送った。

 ダンダさんが作ったという何かは村の中にも通っていて、更に奥の森へと続いている。

 その何かの上を、大きな木が移動していた。


「トロッコの改良版みたいなもんじゃ」

「トロッコ……ですか。本では読んだことがありますが、トロッコをそもそも見たことがないもので」

「あぁ、まぁそうじゃろうな。鉱山ぐらいでしか見んからのぉ」


 モンスターの巣窟となった廃坑になら入ったことはあるけれど、それほど大きな鉱山でもなかったし、トロッコは使われていなかった。


 そう言われてみると、本に描かれてあった線路に似てなくもない。

 ただその上を走るのはトロッコではなく、木だけど。


 竹の上に木を載せる。そして押してやれば竹が回転し、簡単に前へ進むことができる。

 線路代わりの竹がずーっと川まで続いているんだ。確かにこれなら力はそう必要ないし、時間も掛からないだろう。



「試しに一本流してキャンプに戻ろうと思ってな。あの分岐点でちゃんとマリンロー側に向かうのか確認しておかんとならんしの」

「あっ。そ、そうでした。あぁ、考えてもいなかったな、あの分岐点のこと」

「はっはっは。まぁ恐らくマリンローの方に流れるじゃろうがな」


 まぁキャンプ側に向かうと流れに逆らうことになるし、何よりカーブが結構きつい。

 どう考えても下流に向かうのが当然なので、マリンローの方に流れていくだろう。


「それじゃあ、荷物を俺の袋に入れましょう」

「わしの荷物はないぞ」

「ラルさん、そろそろ冷え込みが厳しくなってくるので、これを持って行きたいんです」


 そう言ってシーさんは、暖かそうな毛皮をいくつも運んで来た。

 冬用の毛皮のコートや、床に敷くものだ。


「そういえば、草原のほうでは雪が降るようですが……アーゼさんとシーさんは大丈夫ですか?」

「暖を取れば大丈夫だ。まぁ寒さには弱いので、雪が降れば今までのようには体は動かなくなるだろうが」


 雪が降り始める前に、なんとか一軒出来ればいいのだけれど。






「よし、マリンローの方に流れていきましたね」

「うむ。まぁ心配はしておらんかったが、念のためじゃの」


 下流に向かって流れていく木を見守り、キャンプへと戻った。

 時間的にはまだそう遅くはないのだが、太陽が沈むのが早くなってきている。

 辺りはもうすっかり暗い──のだけども。


「うむ。基礎は出来ておるな。よし、では骨組みを立ててしまうかの」

「え、今からですか? もうすっかり暗くなってますよ?」


 何より、蜥蜴人の集落から戻って来たばかりじゃないか。

 ただ筏に乗っていただけとはいえ、疲れていない訳じゃない。


「今からに決まっておろう。それにわしは見えとるが?」


 ……ドワーフと一緒にしないで頂きたい。

 彼らドワーフは洞窟を掘って暮らす種族だ。だから獣人以上に夜目が利く。

 そしてドワーフや獣人には若干劣るけれど、魔族も蜥蜴人もそれなりに見えると言う。


 つまりここで夜目の利かないのは、人間である俺だけ。

 俺だけ役立たずだ。


「ラル兄ぃ、オレがラル兄ぃの目になってやるけん元気だせ!」

「……そういやお前も夜目が利くんだったよな」

「オレ、モンスターだから当たり前や」


 そうだった。ただのお笑いアリクイじゃなかったんだ。


「ラル元気だせ! ボクらがラルの分まで頑張るからっ」

「そうよラル。安心して」

「……ごめん。役立たずの人間でほんとごめん」

「何を言っておるんじゃ。松明を立てればいいだけじゃろう」


 そうでした。


 松明を用意する間に、ダンダさんはのみを使って木材に凹凸を作っていく。

 辺りが明るくなると、木材を運んでダンダさんの指示通りに立てたりはめたりして組み立てていった。


 途中で夕食を食べ、作業を再開し、瞼が重くなる頃には一軒分の骨組みが完成した。


「早いもんですね」

「効率よく作業をすればこんなもんじゃ。まぁここから先はちっと手間がかかるがの」

「ふわぁぁ、ボク眠いよぉ」

「俺もだ。今日はもう?」

「うむ。あとは明日にしよう。さぁてと、休むかのぉ」


 本職が付いていたらこんなに早く作業が進むもんだな。

 これなら年を越す頃には一軒建つかもしれない。

 雪が降るならその頃だろうな。なんとか屋根のある家で冬を越したいもんだ。


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