第28話:島へ

 祭りの当日だけ、島に上陸することができる。その日だけが島の周辺で漁が許されているのだとか。


「島に上陸してスレイプニールをテイムしたのか」

「祭りは二カ月前に終わっております。その時に……ということか」

「そうでしょうね」


 今、島の周辺の潮が穏やかになっているだろう。

 だけど仲間以外の船が近づけば、きっとスレイプニールの力を使って潮の流れを変えてくるはず。

 なら──


 船着き場に停泊している船を見上げる。

 海賊船とリデン所属の船だ。


 問題は……


「船って、どうやって動かせばいいんですかね?」


 本はたくさん読んだ。

 残念なことに、船の操舵方法を解説した本は──読まなかった!






「まもなく海難島が見えてきます」

「分かりました。それじゃ、よろしく頼むよ」


 ウーロウさんと、他二十人ほどの魚人族が船を操作してくれている。

 彼らは泳ぎが得意だから、一見すると船の操作なんて必要ないだろうと思ったらそうでもないらしく。

 さすがに海流に逆らって泳いだりはできないし、人間が丸一日歩き続けるのが困難なのと同じで彼らも丸一日泳ぐのは体力的に無理なんだとか。

 だから操舵もするし、むしろ得意なんだって。


 そして俺が「頼むよ」と言った相手は──


「……ちっ」


 捕虜にした海賊十人を乗船させている。

 甲板の上に海賊以外の者ばかりでは、乗っ取ったこともすぐにバレてしまうだろう。

 そうなったらスレイプニールの結界に弾かれて、常陸できなくなると思う。

 それで乗船させたんだけど。


「あ、そういう態度? うん、いいよ。それならそれでいいよ。"リラクゼーション"」

「うぎっ……う……うぅ……気持ちワリぃ……わ、分かった。分かったから、勘弁して……く……うぉえぇー」

「うわっ。吐くなら船の外で吐いてくれよ。うわぁ、汚いなぁ」


 手招きして海賊を呼ぶと、吐しゃ物を掃除させた。


「別に何かしろって訳じゃないんだ。ただ甲板に立って姿を見せていればいいから」

「そ、そうしたら見逃してくれるっていうのか?」

「そういう訳にはいかないよ。ただ協力してくれたってことは、ちゃーんと報告しておくから」


 ただどこの誰に報告するとは言っていない。

 そもそもどこに報告すればいいんだろうね。

 マリンローは独立地帯だし、あの町で一番偉いのは町長さんだ。

 町長さんは彼らが乗船する場面も見ているし、今さら報告する必要もない。海賊たちをどう裁くかは、町長次第だ。


 島に近づいて来たら、海賊たちにはスピード・アップのバフを付与。

 船乗りには手旗信号なんてものがあって、言葉とは別の手段で連絡を取り合うことができる。

 海賊にもあるのかどうかは分からないけれど、もしあったとしても動きが超スローモーションならなにも伝えられないだろう。


 そうして何事もなく、海賊船は島へと接近した。


 急ごしらえされた船着き場があって、しかし一隻かせいぜい二隻が停泊できる程度しかない。

 この船ともう一隻のリデンの船がマリンローに残っていたのは、一度に何隻も戻ってきたところで島に上陸できないからだろう。


 ここまで特に潮の流れは変わることなく順調に進み、そして──


「意外とあっさり入れたの」

「そうですね。あ、ダンダさん。俺の前に立たないでくださいね。バフは目視した相手に付与されるんで」

「分かっとるわい。わしとてまだ死にたくないわ」


 重傷を負っていたはずなのに、数時間休んだだけで完全復活してるよこのドワーフ。

 ふふ、さすがドワーフだ。


 桟橋にはピシっとした装備の男たちは十数人いた。

 リデンの兵士だろう。


 わくわくする。またバフれる。


「も、もういいかな?」


 船を漕いでいた魚人族のみなさんは、まだ甲板に上がって来ていない。

 ここにはキャンプから同行しているアーゼさん、ティー、リキュリアとダンダさん、そして数人の魚人族だ。

 俺を入れても十人もいない。


 いないけど──


「準備OKよ」

「問題ない」

「ボクも!」

「オレも!」


 あ、クイを入れたら九人と一匹か。


「よし、それじゃあ──おぉーい、みなさーん! 今からバフりまぁ~っす!!」


 そう声を掛けると、リデン兵が驚いた顔で一斉にこちらを見た。


「"韋駄天のごとき速さとなれ──スピードアップ"、"その肉体を強化し、鋼のごとき強さとなれ! フルメタル・ボディ"、"肉体は武器となり、敵を打ち倒す戦神の加護を与えん。バトル・ボディ"、"リラクゼーション"、"あらゆる属性への抵抗を高める力となれ──レジスト・エレメントアップ"!!」


 ふふふ。奮発したぞ♪


 魚人族には水属性魔法を使える人も結構いる。ウーロウさんも使えるといい、今回参加した魚人族の半数は魔法を使えた。


「"アクアスプラッシャー"!」

「"アクアスプラッシャー"!」


 ウーロウさんともうひとりがさっそく魔法を放った。


 急に動きが鈍って慌てふためく──といっても、口だけで体は全然慌てられていないリデン兵は、次々に悲鳴を上げながら水弾によって吹き飛ばされていった。


「えぇー!? なんでや! なんでオレの分残してくれんの!?」

「え、あ……す、すまない」

「ちゃんとみんなの活躍場面も残してくれんと、困るんやで!」

「ほんと、すまない。ほんと……」


 クイ……なんでお前はドヤ顔なんだ?


 だけど二人の水魔法使いの活躍で、他のメンバーは何もしないまま桟橋の制圧が済んだ。

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