第30話:王様お願い☆彡

 スレイプニールが従属から解放されたことで、残ったリデン兵の戦意は失われた。

 戦々恐々で逃げ出すが、ここは島だ。

 桟橋には俺たちが乗って来た船の他にもう一隻あったが、船の周辺には水棲モンスターがわんさか群れていた。


 もちろん、そうさせたのはスレイプニールだ。

 まぁ自業自得だ。


「スレイプニールよ。子供を盾に取られたと言っていましたが、その子はどこに?」

『……ここにはいない。南西の方角で気配を感じるが……』


 南西か。リデンの方角だな。


「恐らくリデンという人間の町でしょう」

『そうか。ではその町の人間どもを皆殺しにしてくれよう』

「い、いやお待ちください! 町の住民にはなんの罪もありません!」


 誰が悪くて誰がそうじゃないのか。

 人外であるスレイプニールには理解できないだろう。


 リデン兵には同情しない。彼らだってスレイプニールを怒らせるとどうなるかぐらい分かってて作戦に参加したのだろうから。

 だけど町に暮らす住民たちは関係ないはずだ。


「そこで暮らす人々は、きっと何も知らないはずです! 悪いのはリデンの領主。そしてあなたを敵と認識する者たちです!」

『ではその者らとそうでない者らを、どう区別するつもりだ? ひとりずつ問いただして殺せばよいのか?』

「……俺に考えがあります。ただその前に……」


 ウーロウさんを呼んで、マリンローは今後リデンとの関係をどうするのか尋ねた。


「同盟はもちろん破棄でしょう。そして我々もリデンには報復をすると思います」

「やはりそうですか。しかしリデンを襲撃すれば、ドリドラ国が黙っていないかもしれない」


 だからといって魚人族の恨みが晴らされる訳じゃない。襲撃時に命を落とした魚人族も、そう少なくもなかったのだから。


「リデンを襲撃したあと、ドリドラに攻め入れられては意味がありません。少し、時間をいただけませんか?」


 まずはマリンローへ戻ろう。

 スレイプニールには、必ず子を救い出すからと一旦落ち着いて貰うことにした。

 もし救えなかった場合は、俺の命を捧げると約束して。


 連れ去られた魚人族を救い出し、乗って来た船ともう一隻に乗り込んでマリンローへと向かう。

 ただ全員が乗れる訳ではないので、体力のある魚人族は泳ぐことになった。

 彼らが安全に泳げるよう、スレイプニールが水棲モンスターを寄せ付けないようにしてくれたのが有難い。


 生き残ったリデン兵や海賊たちはそのまま島に放置。

 生きて島から脱出することは出来ない。

 島は大きくはないが、陸上のモンスターも生息しているという。しかもCランクやBランクの、決して弱くはないモンスターが。






「確かに……感情に任せてリデンを攻めれば、ドリドラ国からの報復もありましょうな。しかし……だからといってこのまま同盟を続けるなど──」

「もちろんです。ですから二日だけ待っていただけませんか?」


 マリンローに戻って来た俺は、町長にリデンへの復讐を待つように頼んだ。それはスレイプニールにも同様にだ。

 

「分かりました……勇者殿を信じて待ちましょう」

『勇者とな? まさかそなた、あの魔王デスギリアを倒した人間であったか!?』


 町長の言葉を聞いて、スレイプニールが身を乗り出し、船着き場へと上がって来た。


「ち、違います! 俺は勇者アレスのパーティーに所属していたバッファーですっ」

『ほぉ、ほぉ。なるほどなるほど。しかしバッファーというが、港へ戻ってくるまでに魚人たちに掛けていた魔法はデバフであろう? なんともおかしな状況のようであったが』



 おかしな──とは、魔法はデバフなのに、効果がバフであることを感じっていたのだろう。

 さすがスレイプニールだ。魔力の流れて察していたとは。


 ながながと説明していたら時間もないので、簡潔に、呪われたとだけ説明して、俺は空間収納袋からリングを取り出して──王都へと飛んだ。






「──ということがございまして」


 王都に到着した俺は、脇目も振らずにお城へと向かった。

 国王への謁見を申し入れればすぐに通され、こうしてマリンローの現状を報告することが出来た。


「なるほどのう。スレイプニールの子を捕まえ、どうしようというのかの?」

「陛下。かの魔獣の生き胆を喰らえば、寿命は三百年伸びる……というような、そういう噂もございまして」


 陛下の近くに控える、宮廷魔術師のスレイブン師がそう話す。

 俺に魔術を教えてくれた人のひとりだ。


「どうせそのような噂、眉唾ものであろう」

「御意。真意を確かめようにも、スレイプニールは強力な魔獣故」

「真意がどうであろうと、魔獣の怒りを買って民の命が脅かされるのであれば国王としては失格であろう。王だけでなく、領主だろうとなんだろうと、人の上に立つ者全て同じこそが言えよう」

「まとこに。それでラル──ラルトエンよ。お前は陛下にどうして欲しいのだ?」


 普段なら俺のことをラル──と愛称で呼ぶ師も、一応公務中であるので正式名で俺を呼んだ。

 その師に会釈をし、俺は陛下に向かってこう訴えた。


「ドリドラ国王へ真意を確かめて頂きたいのです。今回のことが国として起こしたことなのか、それともリデンの領主が勝手にやったことなのか。もしドリドラ王の命令によるものであったなら……」

「その時はスレイプニールがドリドラ王都を滅ぼすであろうな。王都は海岸から近いしの」

「まぁ予想なんですけど、少なからずドリドラ王も関与しているとは思うんですよ。そうでもなければ、臣下か同盟都市を攻めて黙っているはずがありませんからね」


 深く関わっていないにしても、リデン領主の愚行を見逃してやっている訳だ。何かしらの対価を求めているだろう。

 たとえば、スレイプニールの生き胆とか。


「マリンローの魚人族とスレイプニールが報復するために町を襲撃します。なんとか市民を巻き込まずに済むよう、手を打ちます。ですので──」

「リデン領主とそれに従う私兵らを討ち取ることを黙認するよう、ドリドラ王に進言しろということか?」

「お願いできますでしょうか?」


 フォーセリトン王は片目を閉じ、それから囁くように俺に向かった言った。


「マリンローはドリント国と同盟を解除するであろう?」

「そりゃあまぁ。裏切りを受けてまで同盟を結ぶ必要性が、魚人族にはありませんしね」

「そこでだ!」


 陛下は目を輝かせてこう言った。


「我がフォーセリトン王国と新たに同盟を結ぶというのは?」


 その橋渡しを、俺にやれ──ということらしい。


 ま、俺としては意義は無いし、マリンローとはいい隣人でいたいと思っている。

 何かと便利そうだしな。


「町長さんには俺の方からお願いしておきますよ、陛下」

「ヨシ! ヨシ!! スレイブン、さっそく伝達の珠を持って来るのだ」

「かしこまりました」


 御年五〇を過ぎた陛下だけど、時々こうして少年のような言動をとる。

 そこが国民からも親しまれる要因なんだろう。俺も嫌いじゃない。

 

 さて、ドリドラ国王はどう返事を返してくるかな?

 

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