第11話:凸凹師弟

「がうっ!」

「なんや!?」


 お昼まで、ティティスと拠点周辺の散策をし、戻って来てから食事の用意をしているとクイが起きて影から出てきた。

 お互い初対面なのもあって睨み合っている。


「ストップストップ! ティティス、こいつは俺の従魔なんだ」

「じゅうま?」


 首を傾げるティティスは、テイミング魔法のことは知らないようだ。


「モンスターを魔法で……うぅん、なんて説明すればいいのかなぁ」

「魔法でラル兄ぃの子分になったんや!」


 とクイが割って入る。

 まぁ間違ってはいない……よな。


「おぉ、そんな魔法もあるのか。ラルはいろんな魔法を使えて、凄いな!」

「えっへん!」

「いや、なんでクイがドヤ顔なんだよ。まぁとにかくそういう訳なんで、クイとは仲良くしてやってくれよ」

「ん、分かったぞ」


 ティティスについてかいつまんでクイに説明してやると、こちらも「新しい子分やな!」と、何故か先輩面に。

 ティティスも特に何も言わないし、まぁいいか。


 昼食のあとは家造りの下準備に取り掛かった。


 まずは家を建てる場所の雑草を毟る作業だ。


「膠灰を地面に流し込んで基礎を造る。その為にもこの草が邪魔でね」


 膠灰は燃やして粉末状にした貝や土、けい石と呼ばれるキラキラした砂のようなもの、それから灰や水を混ぜて作られる特殊な素材だ。

 混ぜた時にはどろどろなのに、時間が経つとカチコチに固まる素材で、建築材によく使われる。

 水と混ぜる前段階のものをたくさん持って来た。


 地面を整地し、そこに膠灰を流し込んで全体的に広げたい。

 雑草自体も邪魔だけど、根っこがね。


「クイと一緒に、昨日の朝から紐で線を引いているから、その内側の雑草は引き抜きたいんだ」

「草むしりだな。簡単簡単」


 そう言って腕まくりをするティティスに対し、クイが待ったを掛ける。


「ちょーっと待ったっす! オレがかるーく掘り起こすけん、ティティスやんはそこから雑草を選別して捨てるんや」

「選別?」

「まぁまぁ、見てるんや」


 クイは地面に爪を突き立てる。そして目にも止まらぬ早業で、土を掘り返した。

 だいたい15センチほどの深さで掘り返しているだろうか。畑を耕しているようなものだ。

 そうして掘り返された土から草を摘まんで持ち上げれば、根っこまで綺麗に取れる。


「おぉ、クイは凄いな!」

「ふふふん。そこに気づくとは、お主も見どころがあるようやな」


 なんの見どころだよ、まったく。


 雑草の選別が終わると、掘り起こした土を踏み固める。

 ただ足で踏み固めれば平らにならないので、一枚の大きな板を敷いて、その上でぐいぐいと体重を掛けた。


「よしっと。これで比較的平らになったかな。あとは膠灰を流し込んで、水平器を使ってまっ平になるよう調節するんだ。それは明日にしよう」

「もう終わりか!? ボクはまだまだ働けるぞ!」

「オレもオレも!」

「ははは。二人とも元気だなぁ。けど膠灰を流し込む作業は、最後まで一気にやっていかなきゃならないんだ」


 暗くなるから今日はここまで。残りは明日! ──というのが出来ない。

 だから朝から始めた方がいい。


 そう。時期に暗くなる。

 そうなる前に焚火の準備や夕食の支度も済ませてしまいたい。

 昨日のうちに蜥蜴人が捕って来てくれた魚の燻製が残っているので、狩りに出る必要がないのは幸いだ。


 空間収納袋からナンを焼く材料を取り出し、器の中で水と混ぜ合わせて捏ね始めると──


「ボクに任せて! ボク、母さんの手伝いでいつもやってたから得意っ」

「そ、そうかい?」

「うん、任せて」


 そういうのでティティスに任せてみたけれど、大丈夫なのかなぁ。

 こう……ボーイッシュな子が家事が得意という印象が……ない。


 心配で燻製魚を焚火で炙っている間もチラチラと彼女を見ていると、意外なほどに手際がいい。

 家事の手伝いをしていたっていうのは、あながち嘘ではなさそうだ。

 これなら安心して任せられる。


 彼女がナンを捏ねて焼く間に、こっちは燻製魚を炙ってスープの用意もする。


 うぅん。人数が増えた分、これからは野菜の消費量も増えるなぁ。

 家を建てながら野菜の自家栽培も始めるべきかな。






「ふぅ、ご馳走様。俺が作ったナンはぱさぱさになるんだけど、ティティスのはもっちりしていて美味しかったよ。何が違うんだろうなぁ」

「こ、捏ね方とか水の量。あ、あとボクのことは、ティーって呼んでいい。ティティスって、呼びにくいでしょ?」

「ん? そうでもないけど。でもその方がいいなら、ティーって呼ばせて貰うよ」


 そう言うと、彼女は笑みを浮かべた。

 すると今度はすっくと立ちあがって、使った食器の後片付けを始める。


「あ、それは俺が──」

「いい! ボクがやるんだっ。ボクが役に立つってところ、ラルにしっかり見て貰う!」

「しっかりって……ティーが来てくれて、俺は十分助かってるよ」


 女の子と二人っきりだということで、最初はどうなるかと不安ではあったけど。よく考えたらクイがいたんだった。

 今日は草むしりをしただけで終わらせたけれど、道具を使う必要のある作業になれば彼女の有難みはいっそう増すだろう。

 数日後にはアーゼと奥さんも駆けつけてくれるというし、予定よりも家の建設は早く終わるかもしれない。


 人を避けるために辺境の地に来たけれど、隣人が出来るのは歓迎するべきことだな。


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