第24話 そして彼女が動き出す
「いっつつ……」
「すいません、先輩。手加減し損ねました」
「いや、大丈夫。無言で無防備な姿の小鳥遊を撮ってしまった俺が悪いんだし、わざわざ君が謝る事はないよ」
真っ赤になった左頬を抑えながら、数馬は千尋に非はない事を伝える。全面的に自分に非がある、と言いたげな言葉も添えて。
普段は生意気で数馬に理不尽な事を言う事が多い千尋だったが、今回ばかりはそう言う事は無く、むしろ先輩である数馬を擁護する。
「先輩が謝るというより、元からそんなに藤宮先輩には怒ってないですよ。元はと言えば、部長が全部悪いんですし」
「そう言ってもらえると、助かるんだけど……だったらどうして俺はビンタされたんだ? 俺に怒ってるわけではないんだろ?」
擁護された安堵感と、怒鳴られながらビンタされた時の罪悪感。それらが今の数馬の中に渦巻いていた。
だが、当事者である千尋からしてみれば当たり前なのだ。
「それとこれとは話が違います。私はそんなにちょろくないですから! むしろ私の写真をビンタ一発で撮れた事に感謝してください!!」
自分の恥ずかしいところを写真に収められた。そうなれば反射的に手を出してしまうのは。
そんな事を彼女の言動から感じ取り、納得することができたのか
「あ、はい……」
そう言って、数馬は疲労感を少しでも和らげる為、壁際に座りこむのだった。
そんな疲れきった数馬が床に座り込むのを確認すると、千尋は事の発端であるミリアの方に体を向けた。
「そういう事なんで、そろそろ終わりにしません? 私は先輩の満足行く結果になるよう、最低限体を貼りましたよね? 藤宮先輩のカメラにその証拠が収められてます」
「うん、そうだね〜。二人とも頑張ったね〜。ちゃんと見てたわ」
「だったら、もう帰っていいですよね?」
「どうして? まだ終わってないのに」
「終わってないって……どういう───」
「私の番がまだ、残ってるじゃない」
困惑する千尋に、全く悪びれる事なく『次は自分の番だ』と言い切るミリア。
そんな困り者なミリアを千尋は慌てて止めにかかる。
「いやいや、部長! もう勘弁してくださいよ!! 先輩、もうヘロヘロなんですよ!? ビン
タしちゃった私がいうのもなんですが」
「だから、倒れちゃっても復活できるようにこうやって栄養剤持って来てるわよ」
「うわ……真顔で言ってるよこの人……しかも、結構いいやつ……」
普段の言動を省みて申し訳なさそうにする千尋に反して、自由気ままに我が道を行くミリア。
ミリアのカバンから出てきた立派な包装がされた栄養ドリンクに、流石の千尋もドン引きしていた。
栄養ドリンクを惜しげも無くカバンから取り出した事ではない。
高そうな栄養ドリンクだったからでもない。
数馬がヘロヘロになる事を見越して栄養ドリンクを持ってきていたことにドン引きしているのだ。
だが、ミリアはそれでも我が道を行く。
「はい。それじゃあ、再開するわよ、チビ助くん。もう一踏ん張り〜」
そう言って、数馬に栄養ドリンクを口に含ませる。
「もう少しだけ頑張ったら、解放してあげるから、ね?」
との言葉を添えて。
「わかり、ましたよ……もう少しだけですからね?」
「流石チビ助くん! 話が分かるわね!」
栄養ドリンクを飲んで、多少楽になったのだろう。数馬のしんどそうだった表情が少しだが和らぐ。
それと同時に、ミリアは楽しそうな表情をする。
そんな二人のやりとりを見ていた千尋が一言、二言。
「無茶だけはしないで下さいね、藤宮先輩」
と。
「心配してくれてありがとな、小鳥遊。まぁ、本当にキツくなったらやめるから大丈夫だよ」
「ならいいんですが……」
頼りない声の数馬に不安しかない様子の千尋。
が、だからといってスク水が脱げかけている千尋に何かできるわけでもなく
「それじゃあ、始めましょうか。お願いね、チビ助くん」
そう言って、ミリアの撮影準備が始まった。
のだが、そのミリアの準備は千尋、そして数馬の想像を絶するものであった。
それもその筈だ。
「「んな……っっ!?」」
ミリアの「はいどーぞ」の声と同時に彼女がとった行動は、疲れ切っている数馬を更に煽るような格好───ブルマ姿で大股開きをすることだったのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます