第35話 自問自答と謝罪
────私が部長に対して、藤宮先輩への牽制を怠ったのはいつからだろう。
『別に異性に恋しないとは言ってないわよ?』
ミリアから告げられた言葉を思い出しながら、千尋は自問自答する。
異性
そんな数馬に恋をしているとミリアが告げているようなものなのだから、焦らないはずがなかった。
千尋とて、普段は生意気な態度をとっている千尋とて、数馬の折れない優しさに恋をしたのだから。
今まで千尋がミリアへの牽制を怠っていたのは、彼女が同性愛者であることを知っていたから。千尋の初心な唇と舌で、彼女が同性愛者である事を思い知らされたからだ。
しかし、ミリアは一度足りとも「異性が恋愛対象では無い」とは言っていない。
つまりは千尋の完全なる早とちりなのではあるが、それ故に彼女は急激に焦りを見せ始める。
言ってしまえば、千尋は油断していたのだ。
言葉にはしないが自分からデートに誘うほどの人物が、数馬に恋心を抱いていないとは言い難い。
ここまでは、千尋が想定していた所だ。
だが、普段は人を揶揄う事に神経を注ぐ部活の先輩が、実は数馬を異性として見ていたとなると話が変わってくる。
同じ女性でも、プロポーション格差があるミリアが数馬に実は猛アタックしていたとしたらどうなるのだろう。
少なくとも、生意気で厳しい態度ばかりとっている自分に勝ち目は無いと千尋は悟ってしまったのだろう。彼女の顔は青ざめていく。
────あぁ、自分はなんて時間を過ごしていたのだろう。
と。
「おーい、小悪魔ちゃん? 大丈夫〜?」
「えっ……あっ、ごめんなさい……」
耳元で囁かれたミリアの声で千尋は急激に現実世界、ミリアの部屋に意識を戻される。
冷や汗をかきながら、困惑の表情を浮かべる千尋を、ミリアはただただ落ち着いだ表情で見つめて語りかける。
「ううん、大丈夫よ。でも、急にボーッとし出してビックリしちゃったわ。一体どうしたの?」
「……りたいです」
「ん?」
前半の掠れた千尋の言葉に、ミリアは耳を近づけ聞き直す体制になる。
そんなミリアの反応に、千尋はめげる事なく
「今すぐ、藤宮先輩に謝りたいです」
と、再度言葉を告げる。
今の、千尋が思い浮かぶ最善策を。
それがどんな意味があるのか。どんな意味を持つのか、ミリアは何となく分かっていた。
分かっていてもなお、彼女は聞かずにはいられなかった。
「それはどうしてか、聞いてもいい?」
千尋に向けられたミリアの目は一香の時と同様真剣なもので、しかしそれでも
「……藤宮先輩が好きだからに、決まってるじゃ無いですか!」
顔を赤らめて告げる後輩の様子に、愉悦を覚えてるようにも見られた。
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