第26話 夕日差し込む部室棟、再度響き渡るシャッター音
「それじゃあ、宮内先輩。撮りますからね……?」
「……うん、いつでもいいよ。準備は出来てるわ」
夕日が差し込み始めてそれなりの時間が経った写真部の部室にはただならぬ緊張感が漂っていた。
カメラを構えて浅い呼吸をする男子生徒が、ブルマという男の劣情を煽る服装で無防備にポーズを決める女子生徒の元ににじり寄っているのだから、そうなって然るべきだろう。
だが、この雰囲気の主導者は男子生徒の方では無い。
ブルマをはいている女子生徒の方なのだ。
そんな彼女の性格をよく知るもう一人の女子生徒がポツリと忠言。
「やっぱ延長とか、言わないですよね? 部長ならやりかねないんですけど……」
と。
「そんな事しないわよ。全く、信用ないんだから」
「部長にこういった事で信用ないのは自業自得です」
「まぁ、そうよね。でも、本当にもう終わらせるつもりなのよ? 飴だって用意してるんだから」
後輩である千尋からの終わりの無い警戒心に、流石のミリアも少々げんなりしていた。
が、ミリア本人が千尋に警戒されている理由を知らないはずもなく、特段反撃するという事はない。
むしろ、警戒される事に悦びを感じる事もあるくらいなのだから。
そんなミリアがゴソゴソとカバンの中から、四枚綴りの紙を渡す。
途端、千尋の表情は一変。
紙を受け取った時は絶賛警戒中だった小悪魔ちゃんが、みるみる内に可愛らしい女の子の表情へと様変わり。
「このチケットはまさか……! 天国への許可証の!!?」
そう言って、千尋はチケットが本物かどうかを確かめる。
天国。それは人それぞれ解釈は異なるだろう。
安らかになれる場所を天国だという人もいれば、夢が叶う場所を天国だという人もいるだろう。
十人十色。みんな違ってみんないい。
しかし、やはり女子にとって、天国と呼ぶに相応わしい共通のものがある。
それすなわち───スイーツである。
「そう言う事だから、ね? 本当にもう少しだけだから」
ミリアの呼びかけで、正気に戻ったのか、千尋は一つ二つほど咳払いした後、数馬に激励を飛ばす。
「部長がそこまでの誠意を示してるのなら、もう私は何も言いません。藤宮先輩、頑張って下さい!! もう一踏ん張りです!!!」
と。
「さっきから頑張ろうとしてるんだけどなぁ……」
「まぁまぁ、そう言わないの。可愛いじゃない、健気に心配してくれるなんて。滅多にないわよ〜、小悪魔ちゃんがこんなに心配してくれるなんて」
「さっきから普通に聞こえてるんですが。というか、早く帰りたいので、急いで下さい」
「だってさ。よろしくね、チビ助くん」
「……よろしくされました」
あっという間に買収された後輩に「仕方ないなぁ」と心の中で呟きながら、再びカメラを構える数馬。
その一つ下の後輩の動きに合わせるように、再びポーズを決めるブルマ姿のミリア。
そんな二人の先輩を前に、何事も無いようにただただ祈るスク水姿の千尋。
夕日が差し込む、部室棟。その中で再び鳴り響き始めるシャッター音。
蒸すような暑さと陽が落ち始めの涼しさが混在する空間に、ただただ無我夢中でレンズ越しで男女が見つめ合う。
時に女子生徒は自慢の胸を強調し、さらに時が経てばブルマ特有の無防備なお尻にレンズを注目させたり。
自分の良さを存分に生かそうとする反面、少しずつ服をはだけさせ過激な方へと向かっていく。
汗ばみ、銀髪美女の鎖骨に溜まった水溜り。光を反射させるそれは、彼女の魅力をより一層引き立てる。
魅力的。あまりにも魅力的な女性がすぐそばにいるというのに、レンズ越しでしか眺める事が出来ない数馬。
(俺がこうやって、レンズを構えている間は……見ていられる……もっと、もっと……もっと見たい……先輩の姿をもっと見ていたい……!)
ムクムクと大きくなっていく欲望。頭の中で、胸の内で、体全体で、数馬の欲望が膨らんでいく。
しかしそれは、レンズ越しでミリアを眺めている時だけ。
レンズから目を離せば、たちまち気が抜け、欲望に溢れてる自分に失望する。
いたたまれなくなった数馬は、一目散に部室を出て、そのまま帰路へとつくのだった。
そんな彼のカメラの中には、普段の学園生活では見ることの出来ない、美少女たちのあどけない姿がしっかりと保存されていた。
これらの写真を自宅で見返して、ベッドの上で悶々とするのは時間の問題だ。
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