第7話 いざ参らん、新世界へ

「すまん、一香……もう、限界だ……」

「ちょ、早いって数馬! もう少し我慢できないの……?」

「これ以上我慢なんて出来るか……っ! いいよな、一香!?」


 昼休みになるや否や、周りを気にする事なく息を荒げながら美少女な幼馴染の元に詰め寄る数馬。

 堪らず、頬を赤らめながら数馬に変わって周りを気にする一香だが、不幸にも二人は注目の的になっていた。


「あの野郎、いくら幼馴染だからって長柄さんに馴れ馴れし過ぎだろ……ぶっ殺してやろうかな」

「あの一香ちゃんが頬を赤らめるなんて……ラブの予感がするわ!」

「幼馴染持ち、死すべし……死すべし……死すべし……」


 数馬の場所を考えない無配慮さに苛立ちを隠せない者。普段は明るくあっけらかんとしてる一香の貴重な表情にラブパゥワーを察知した者。そして個人的な怨念をひたすらに飛ばす者。

 その他、様々な言葉が飛び交う空間に、当事者である一香は耐えられなくなったのか、真剣な眼差しで見つめてくる数馬の腕を掴むと───

「あー、もう……! 分かった、分かったから……っっ!とりあえず教室から出るわよ!」

 そのまま廊下へと飛び出した。

「お、おい、一香? どうしたんだよ、そんなに急いで」

「どうしたもこうしたも、数馬のせいでしょ!?」

「そうなのか」

「そうなの!」

 自分の置かれていた状況をイマイチ飲み込めていないのか、どこか他人事のような反応をする数馬に僅かばかりの怒りを感じながら、一香は彼の要望に答えるべく人気のない場所を目指していた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 人気の無い場所といっても、意外と範囲は限られていくもので最終的には定番の場所へと辿り着く。

 即ち、校舎裏である。


 おもむろにポケットの中からデジカメを取り出しては、準備を整え始める幼馴染に、クラスのマドンナが問い質す。

「それで? 今日はどんなのがご所望なの? バックアングルでのうなじ? それともローアングルでの胸?」

 と。

 あまりにもストレートな質問に、流石の数馬も驚いていた。

「なんでそんな詳細に……しかも頸と胸って……」

「え、数馬なら好きかなぁって思ったんだけど……違った?」

「いやその通りなんだけども、こうも的確だと怖いんだが」

 主に、ズバリと好みを当てる一香の勘に。


 数馬の驚いた表情に思わず胸を張り

「そりゃ、数馬の考えてる事なんてお見通しよ!」

 と豪語する始末。


 が、すぐさま冷静になったのだろう。

「って、言っても数馬が千尋ちゃんやミリア先輩によく視線を向けている所を口にしただけなんだけどね」

 こう言って慌てて発言を訂正する一香。

「あはは……」と笑いながら誤魔化す彼女にどこか哀愁感が漂っていた。


 千尋のような髪を括り上げて頸を見せるような長い髪型でなければ、ミリアのような目立つ風貌やクッキリとしたところが無い見た目に、一香自身がコンプレックスを抱いているようだった。

 側からして見れば、二人に劣る事なく一香も美少女なのだが、自分に自信を感じていないところがある意味彼女の魅力なのかもしれない。


 そんな彼女の『視線を向けてる場所分かってるからね』発言に数馬はと言うと───

「俺そんなに見てないぞ!? それに二人は特に気にしてる様子は無いし、たまたま見ていた所を一香の目に映っただけだろ!!?」

 驚いていた。

『今日はどうする? 頸? それともおっぱい?』発言よりも明らかに驚き具合のレベルが段違いである。

 きっと数馬の中ではバレていないと思って、続けていたのだろう。

 そんな魂胆が見え隠れしている数馬に対して、一香は至って冷静だった。


 むしろ、どこか気を楽にしているようにも見える。

「まぁそういう事にしとくけど、ほどほどにね? あの二人からは特に注意されないだろうけど、意外と男子からの視線って分かりやすいんだから」

「そういうもんなのか……」

「そういうもんなの。これを気に少しは視線の気配りを覚えなさいね。今みたいに、さり気なく私のお腹を見る時も、ね」

「す、すまん……」

「全く、仕方ないなぁ数馬は」

 ため息混じりに説明しながらも、下腹部に注いでくる数馬の熱い視線に一香は気恥ずかしさを感じたのか、最後の言葉は少しだけ力が弱かった。



「それで、えっと……一香さん、そろそろ」

「そうせがまなくてもちゃんと分かってるから。……まったく、中学の時はこんな事無かったのになぁ……」

「まぁ、高校に入って色々あったんだよ」

「色々、ねぇ……」

 撮影を急かす数馬に、グチグチと文句言いたげな様子で準備を進める一香。

 異様な雰囲気に包まれるも、朝同様にどちらも深くは踏み込もうとはしない。

 いや、踏み込めないのだ。


 幼馴染という、心地良い関係性が壊れてしまう事を恐れて、踏み込むまでに至れないのだ。

 そして、今回もまた踏み込む機会を逃したまま、撮影の舞台が整ってしまうのであった。

「これで、いいんだよね……? 手っ取り早く撮っちゃってよね……?」

「あぁ、分かってる」


 カメラを構えた男子生徒の視線の先にはブラウスの下段のボタンを二、三個外した状態で経つ美しい女子生徒。

 そして、その女子生徒がボタンを外され自由になった部分の布を持ち上げると、そこには、新世界整ったお腹が広がっていた。



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