第17話 幼馴染の汗は惑わしの水
「お、お手柔らかにお願いします……」
「お、おう。任せろ……」
手拭いや水を満たした洗面器などを持って部屋に戻るや否や、かしこまった口調で自分の様子を伺う幼馴染に、やや表情が固くなる数馬。
体調が悪い事で、弱々しい様子の一香に、未だ慣れないようだ。
とはいえ、看病をすると決めた以上引き下がれなくなっているのもまた事実だった。
「と、とりあえず背中こっちに向けてくれ。ゆっくり制服脱がせるから」
「う、うん……。これでいい?」
「あぁ、大丈夫だ……」
一香の汗ばんだ背中を見るや、再び固まる数馬。
しかし、それは先ほどの、体調の悪い様子の一香を見慣れていないが故の固さとは違う。
目のやり場に困っているから固まっているのだ。
しばしの沈黙。
それは数馬にとって落ち着く為の猶予時間。
汗でグッショリとなったブラウス越しに透けて見える水色の下着。
普段の爽やかな一香のイメージそのままの色だと言うのに、妙に色っぽかった。
汗を吸い込んで、色が濃くなっているからか。
直接ではなく、透けて見えている事による思春期特有のフィルター越しだからか。
それとも、その両方か。もしくはそれ以外にも原因があるのか。
日常的に、彼女のおへそに性的な視線を向けている彼が、透けブラ程度でたじろいでいるのはなかなかに面白かった。
が、当人らは至って真面目であった。
「えっと、数馬……? 脱がしてくれるんじゃ……」
「流石に前のボタンを開けてもらえないと何も出来ないって」
「え、数馬が開けてくれるんじゃないの……?」
異性である数馬に胸元のボタンを外すように素面で言うのだから。
「……へ?俺が……ボタンを!?」
あまりにも衝撃的すぎる一香の発言に、数馬は今まで以上に驚きに声を出す。
しかし、それ以上に一香の方が驚いていた。
「え……あっ! ち、違うの! これはその〜、そう!! 数馬を試しただけなの!! いつも、何考えてるか分からない数馬が私の弱みに付け込んで襲って来ないか試したの!!!」
「おっ、おう……そうだった、のか……」
まくしたてるように発言を取り消そうとする一香に、どんな反応をしていいか分からない様子の数馬。
そんな数馬を押し込めるように
「そうだったのよ!」
と更に言葉で圧力をかける一香。
おおよそ、体調が悪い事で上手く思考が纏まっていないのだろう。
それを上手く察しとった数馬は
「だよな、ははは。ビックリしたよ。突然、宮内先輩みたく色仕掛けをしてきたのかと思って身構えてた。うん、一香はそんな奴じゃないもんな!」
と言って、一香の失言をどうにか無かった事にしようと工夫する。
だが、工夫の仕方に少しばかり難があった。
「ミリア、先輩みたく……ねぇ……」
ミリアの名前に自然と反応し、口にする一香。
意味ありげに、怨念がましく。
「一香? どうした?」
比較的鈍感である数馬であったが、今回ばかりは何か違和感を覚えたらしく、あやすように声をかける。
しかし、一香は何事も無かったかのように振る舞い
「ううん、なんでもない。……ボタン、外しちゃうね」
そう言って、数馬に再び背を向けた。
それに伴い、数馬も一香から少しばかり目を離す。
「おう。今のうちに着替え用意しとくわ。……シャツ類は上から二段目のタンスでいいんだよな?」
「うん、大丈夫」
そう、簡単なやりとりだけをして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます