第16話 美味しそうに頬張る君と、火照る君
「はふまのほうりひはひははへほ、おいひい!!」
可愛らしさなんてどこかに捨て置いた部屋で一人の剣道少女が踠き悶えていた。
美味しそうな出来立てのお粥が入った土鍋を抱えながら。
「飲み込んでから喋れ。火傷するぞ」
「……数馬の料理久々だけど、美味しいね!いやぁ、びっくりびっくり」
「一瞬で飲み込んだ……火傷が怖く無いのかよ……」
数馬の注意を聞くように、口に含んでいた熱々のお粥を一気に飲み込んだ一香。
常人ではまず熱くて悶絶するような事をしでかしたと言うのに、一香はまるで何事も無かったかのように振舞う。
そんな幼馴染に数馬はただただ戦慄する。
『コイツ、ヤベェ……っ!』
と。
しかし、当の本人である一香は数馬の心配を他所にケロっとしている。
それどころか
「火傷なんかより、部長の
と笑い飛ばす始末。
そんな彼女に、数馬は呆れるばかり。
「何も大丈夫な部分が見当たらないんだが。と言うか───」
更にはとある疑問が彼の脳裏に浮かび上がり、口にする。
「剣道部の部長ってそんなにヤバい人なのか? 俺、一度も会った事ないんだけど……」
と。
数馬の思わぬ質問に、お粥が入っていた鍋をベッド横の台に置きながら苦笑する一香。
「あぁ……あの部長はちょっとワケアリなのよ」
「ワケアリとは」
言い辛そうにする一香の表情に、数馬はさらに詰めようとする。
だが、一香にとってそれは都合悪かったのだろう。
「もー! 今は部長の話なんていいでしょ!? お姫様をもっと構って労ってよ!!」
「まだそれ終わって無かったのかよ!」
「いつ私が終わっていいって言ったの?」
「そもそも始まりの挨拶すら無かったけどな!?」
「そう屁理屈言わないの!」
「へいへい」
こんなやりとりをして、どうにかして誤魔化そうとした。
それを言葉を通して感じ取ったのだろうか、数馬はこれ以上何も言う事は無かった。
「んで、何すりゃいいの?」
「えへへ……服脱がせてよ」
「んな……っ!」
話題を変えるには持ってこいとはいえ、あまりにも回答に困る頼み事に流石の数馬はたじろぐ。
しかし、一香は本気だった。
「お粥食べたら一気に汗が吹き出て来ちゃって、気持ち悪いんだ……」
「そりゃ、鍋いっぱいにあったのを一気に食ったらな……」
「そう言うのいいから、はーやーくー! あーつーいー!!」
(あーもうやめろ! チラチラと下着が見えそうなんだって……!)
パタパタと第二ボタンまで開けたブラウスを仰いで何とかして涼しくなろうとする一香に、数馬は目のやり場に困る。
一香のお腹やおへそは何度も見慣れていると言うのに、下着に対する耐性はまるで無かった数馬。
健全な青少年なら下着よりもお腹やおへそに視線を向けたいはずなのだが、彼はそうではなかった。
それとも、幼馴染である一香だから性的視線の対象が変わっているのだろうか。
その実情は本人のみぞ知ることではあるが、少なくとも幼馴染の頼み事を断る理由には弱かった。
「あー、もう分かったよ! 手伝うだけだからな!?」
「えへへ、数馬優しい〜」
「やめろ、そう言うんじゃない!」
「はいはい、分かりましたよ〜」
赤面を振り払うように顔を横に激しくブンブンと振る数馬に、ブラウスを半分脱ぎながらニヘッと力無く笑う一香。
熱く火照った一香の体の鼓動が数馬に乗り移ったように、彼の体も自然と火照っていく。
妙に色気立って見える幼馴染の背中に、我慢のできなくなった数馬は勢いよく立ち上がる。
「……用意するから、ちょっと待ってろ」
そう言って、一香の部屋を再び出る数馬。
彼が手拭いなどを用意して戻ってくるのに、10分ほどかかったそうな……。
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