第28話 ネガティブな考えと、男のケジメ
異性の幼馴染からのデートのお誘い。それは幼馴染に夢焦がれる男子にとって、ご褒美以外の何者でも無い。
その幼馴染が、学年を代表するほどの美少女であるならば、尚更だ。即答で、デートに乗るだろう。
だが、この少年は違った。
「え、デートって……一香と?」
ただただ、困惑。
表情からは「え、どうして……?」といった感情が読み取れる。
しかし、数馬のこの反応は一香にとって織り込み済みだったようで
「私以外に誰がいるの? 今、この場で、数馬にデートを誘う人が」
「いや、いないけどさ……いいのかなって」
「今度は一体何に悩んでるのさ」
と、ため息混じりに理由を聞き始める始末。
その一香のため息の対象である数馬はと言えば、如何にも自信なさげに顔を伏せ、肩も縮こませていた。そして、その状態のまま口を開く。
「俺なんかが、一香とデートしてもいいのかなって。ほら、一香は俺と違って人気者だしさ……」
「アンタはもう。そんな事で悩んで……」
開口一番に幼馴染の口から出てきた言葉は、『俺なんか』。
幼馴染の口から何度も聞いたその言葉は、一香がげんなりするのに十分過ぎるものだった。
そんな彼女の様子に、更に肩を縮こませる数馬。
「仕方ないだろ。俺はどうなったって、一香や小鳥遊、宮内先輩みたいな人気者にも自由人にもなれないんだから」
「あー、もう! 数馬の意気地無し!!」
あまりにも踏ん切りのつかない様子の幼馴染に、流石の一香にも限界が来たのか、店のテーブルだと言うのにも関わらず、怒り想いのままにバンッッッと手のひらを叩きつけた。
店内の視線が一気に数馬と一香の方へと集まる。すぐさま、自分のやってしまった事を自覚し、周りへ頭を下げた事で何事もなく済んだが……。
とは言え、一香の数馬への憤りが収まるわけでは無かった。むしろ、店中に頭を下げている中で、数馬への憤りが凝縮されていったのだから。
「私が数馬とデートしたいって言ってるんだからそれでいいでしょ!? なんで勝手ネガティブになってるのさ!」
「ご、ごめん……」
先ほどの失態を踏まえ、今度は数馬の耳元で怒りをぶつける事にした一香。
その結果、数馬の返事は辛うじて絞り出た彼の口癖のような言葉。
それでも、ネガティブな雰囲気である事には変わりはないけれども、顔を伏せつつも数馬の目はキチンと一香を見据えていた。見据えた上で、やはりネガティブな雰囲気なのだから仕方ない。
しかし、それが数馬の性格であるのをよく知っているからか、一香はそこを矯正させるつもりは無いようだった。
「まぁ? 私だって、数馬がどんな気持ちで言っているのか分からないわけじゃないんだよ? いつも剣道部で痛いくらいに思い知らされてるしね」
むしろ、寄り添う姿勢を示すのだから、大人である。
そんな彼女の言葉に、数馬は少しばかり驚いていた。
「一香でも、そういう時あるんだな。てっきり、そんな事ないと思ってたよ」
と。
数馬のこの言葉を聞いた一香の表情は少しばかり寂しげで───
「そんな事あるわよ。私、数馬が思ってるほど強く無いのよ? だから、こないだみたいに、ふとしたきっかけで体調を崩しちゃうんだから」
悲しげでもあった。
それでも、数馬はやはり変わらない。
「でも、やっぱり一香は強いよ。俺より断然強い。ちゃんと自分の事をよく知ってるんだから」
どこまでもネガティブで、一香を遠目から俯瞰してるような口ぶりをする。
どれだけ想いを伝えても届かない。
自分は強くないと言っても、君は強いと言って聞かない。
どこまでも思い通りにならない彼女のやるせない気持ちは、烈火の如く爆発───
「数馬は、またそうやって自分を卑下しようとして……! そんなんだからアンタはいつまでたっても───」
「だから、強くなりたい。一香に心配されないくらいに。一香に怒られないように」
することは無かった。
卑屈で、自虐的で、逃げたがりの幼馴染の意外な言葉によって、彼女の憤りの炎は鎮火されていった。
それに合わせるように、伏せていた数馬の顔は徐々に上を向いていく。
やがて、一香の顔を正面から見るように。
そんな少年の表情は意外にも、男のソレだった。
「だからさ、俺から言わせてくれ。ちゃんと、ケジメはつけておきたい」
「……好きにしたら?」
「じゃあ、好きにさせて貰うよ」
幼馴染の思わぬ決意の表情で呆気に取れている一香。
そんな彼女を押し切るように、数馬は一言二言、幼馴染に告げる。
「明日、デートしよう。一香に心配されないように頑張るから」
と。
弱気な男なりの、自分の言葉で。
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