第10話 そして彼女は打ち明ける
待ちに待った放課後。
退屈な授業を終え、各々に帰宅や部活の準備を進める中、写真部一行はと言うと、学校近くの森に向かっていた。
「〜〜〜♪」
「楽しそうですね、藤宮先輩」
「え、そうか? そう見える?? 楽しそうに見えちゃう???」
「ええ、あからさまに。少なくとも妙にお疲れ気味な長柄先輩にその元気を分けてあげて欲しいと思うくらいには」
数馬の満面の笑みに、夏場に灼熱を発しながら煌めく太陽のようなウザさを感じながら、ふらふらしながらゆっくりと後を追ってくる一香に目配せする千尋。
「あはは……私の方は大丈夫だから気にしないで、千尋ちゃん。数馬が楽しそうなら私はそれでいいから……」
気配りの出来る後輩に一香は、ハンドジェスチャーを送る。
手のひらをひらりひらり。───『大丈夫』。そんな風なジェスチャーを。
彼女の表情は大丈夫のそれとは、かけ離れていたが。
そんな一香にミリアは部長らしく優しく寄り添っていた。
「剣道ちゃんの言う通りよ、小悪魔ちゃん。今日はチビ助くんの好きにさせる日なんだから、いくらウザくても我慢しなきゃ」
あくまで今日は数馬最優先。そう言わんばかりに、数馬を擁護するミリア。
いつものどこか気の抜けたミリアだが、遠くではしゃぐ数馬を見つめる目は真剣そのものだった。
「別にウザいとかそう言うんじゃ無いんですが……もう少し周りを見て欲しいというかなんというか……」
ミリアの目の迫力に圧されたのか、少しだけ千尋の言葉に力が入っていないようだった。
しかし、ミリアはその事をあまり気には止めず
「それがチビ助くんなんだから仕方ないわよ。長柄さんは私の方で様子見ておくから、小悪魔ちゃんはチビ助くんの様子を見ておいて」
そう言って千尋を数馬の方へと誘導する。
そして千尋はその誘導に従うように、
「イキイキしてる藤宮先輩はいつ見ても慣れないですってば……」
ブツクサと文句を垂らしながら一香とミリアの元を離れていった。
瞬く間に数馬の元へと駆け寄っていった千尋。
意気揚々として森の入口を目指す数馬にどう接していいか戸惑っている彼女の姿はどこか初々しい。
「ふふっ、小悪魔ちゃんにはもう少しチビ助くんのギャップに慣れて貰わないとだねぇ〜」
「……一体どういうつもりですか、ミリア先輩」
後輩のあまりの初々しさに笑みが零れ溢れるミリアに、怒りを露わにした声を出す一香。
「あら、体調はもういいの?」
「よくないですよ。よくないですが、今日は数馬とミリア先輩から目を離したくないので……」
「見事に警戒されたまま〜。うん、なんとも言えない緊張感が漂ってくるね〜。でも、剣道ちゃんは少し誤解してるわよ」
「……誤解?」
自分の体調よりも幼馴染の安全を危惧し自分へ警戒心を向けてくる一香に、ミリアは悲しみどころか悦びを感じているようだった。
だが、その悦びを別にして一香の視線から感じる違和感を拭い去っておきたいのだろう。
未だに体調の優れない一香の肩を抱くと、ミリアはゆっくりと口を開き説明を始めた。
「私、別にチビ助くんをめちゃくちゃにしたいなんて思ってないわよ? それこそ、小悪魔ちゃんみたいにドS性癖なんて持って無いしね。理解はあるから手伝いはするけど」
「私のファーストキスを奪っておいて、信用できるわけないじゃないですか」
「あら、そうだったの? だから妙に舌遣いが辿々しかったのね。うんうん、ご馳走さま。おかわりしてもいいかしら?」
「思い出さないで下さい! あとおかわりなんてありません!!」
「ちぇ、残念」
ペロリと舌で唇を軽く舐めるミリアに、体調が悪いながらも厳しい視線を向ける一香。
昼休み、口の中を蹂躙した舌がチロチロと見える中で、彼女は一歩も引く様子は無かった。
それどころか
「それで、私がどんな誤解してるって言うんですか」
臨戦態勢である。
だが、そんな事はミリアの想定内だった。
「私の言葉は信用できないんじゃないの〜?」
「うっ……」
「そんなあからさまに焦った表情されると、私冥利に限るわね〜」
「全く、この先輩は……っ!」
気を張り、敵意すら剥き出しているのに一向に引く様子の無いミリアに、一香は困り果てていた。
余裕剥き出しのミリアは、体調の優れない今の一香には相性が悪すぎた。
もっとも、その体調を崩させたのはミリア自身なのだが。
とは言え、ミリア自身、ただ敵意を向けられて黙っていられる筈もなく、少しだけ動きを見せる。
「まぁ、そうね〜。とりあえず、先に伝えておきたいのは一つだけ」
「一つだけ……?」
「私、チビ助くんの事、好きよ。もちろんラブ的な方で」
宣戦布告と言う名の、大胆な動きを。
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