第20話 清掃員を追放された俺は⋯⋯
「ねぇシン、疲れたからそろそろ休憩しましょ!」
「そうですね、先程の戦闘もあって疲労もありますからね」
どうやら2人とも戦いを終えてお疲れのようだ。
「じゃあ少し休憩するか…」
街まではもう目と鼻の先だが、特に急ぐ理由もない。
近くの木陰に入り、背負っているエーミールさんを寝かせて腰を下ろす。
「そういやエーミールさんにもそろそろ起きてもらうか…」
パシャ!
魔法で生成した水をエーミールさんの顔にぶっかける。
「ぷはっ!一体何だっ⁉︎」
「エーミールさん、起きて下さい!」
エーミールさんは、何が起こったのか分からない様子で辺りを見回す。
「ここは一体…はっ⁉︎ そういえばドナースタッグはどうなったんですか⁉︎」
「あいつならサクッと倒しておいたぜ!」
エーミールさんは目を見開いて驚きを隠せていないようだ。
「シンがほとんど1人で倒しちゃったのよ!」
ティアが俺の横に擦り寄ってくる。
「さすがシンって感じでしたね!」
反対側からもクライネが擦り寄ってくる。
「別にどうってことねーよ!」
「そうなんですね! 本当にありがとうございました!!」
こんなにもお礼を言われたことなんて今までないから返答に困る。
ドドドドドド
話をしていると、突然地響きを感じて辺りを見回す。
すると、遠くの方から何やら馬が隊列を組んでこちらに向かってくる。
「何あれ⁉︎ 騎士団か何かなの⁉︎」
「ずいぶんとたくさんいますね」
騎士団一行は俺達の近くまで来ると動きを止めて、おそらく団長と思われる1人の男が馬から降りてこちらに歩いてきた。
「この近くの森で魔王軍幹部の雷帝がいるとの話を聞いたが、貴様ら何か知ってることがあれば教えろ!!」
傲慢な態度と騎士団だと言うプライドの塊…
間違いない…俺が働いていたマイン城で騎士団長を務めるシュトイツだ。
「やあ、シュトイツ! 久しぶりだな!」
「何だ貴様は…ってまさか⁉︎ 貴様はシンか⁉︎」
シュトイツはけげんな顔を見せる。
「そうだが、騎士団長ともあろうものが何でこんなところにいるんだ?」
「ふっ、貴様ら清掃員をクビにしたおかげで兵力が格段に上がったからな! 魔王軍幹部でも倒して戦果を挙げようしているのだ!」
お前をクビにして正解だったと言わんばかりの表情だ。
「それはよかったな! ところでお目当ての魔王軍幹部はすでに倒しておいたから、もう帰っていいぞ!」
「はっ⁉︎ なんだと、貴様は一体何を言っている…」
「その証拠にあの森を見てみろ! 雨雲なんて微塵もないほど快晴だろ!」
シュトイツが森を見るのにつられて、兵団達も森の方に視線をやる。
「確かに晴れている…」
「幹部は本当に倒されたのか⁉︎」
「俺達は何のためにここまで来たんだ⁉︎」
口々に言葉を漏らす兵士とは対称的に、シュトイツは黙って何やら悔しげな表情をしている。
「貴様ごとき…ただの清掃員が魔王軍幹部を倒しただと…」
「そう言うことだ! 分かったらさっさと帰って、王様に何の戦果も挙げれなかったことを告げるんだな!」
「シンごときがっっっああああ⁉︎」
シュトイツが剣を振りかざして襲いかかってくる。
「きゃー⁉︎」
「シン!危ないですよ!」
グッ!
俺にむかって振り下ろした剣は途中で水壁に邪魔されて動きを止める。
「な、何だと⁉︎」
「残念だったな。どうやら俺の水魔法は掃除よりも戦闘の方が向いてたみたいだわ!」
シュトイツは剣を下ろしたまま放心状態で、なにやらブツブツ独り言を言っているがそんなことは知らん。
「みんな!そろそろ出発するぞ!」
「ねえシン、あれが城の騎士団長なの?めちゃくちゃ弱くない?」
「ちょっとティア! 聞こえちゃいますよ!」
騎士団の横を通り過ぎていくが、シュトイツは相変わらずの放心状態のためか身動きを取らず、兵団も動きを止めている。
「おいシン…待て…」
振り向くと少し離れた距離からシュトイツが再び剣を振りかざしてこちらを睨んでいる。
「絶対に許さんぞ…」
シュトイツの剣が赤色に染まる。
「団長おやめ下さい!」
「団長!それはまずいですよ!」
兵士達が口々にシュトイツを止めようとする。
「貴様はここで死んでもらうぞ!俺の最強の魔法剣の力でな!」
そういや聞いたことがあるな、確かシュトイツは炎の魔法剣の使い手でだとかなんとか…
「くらえ!ドラゴンの一撃にも匹敵する剣技!ドラゴニックブレス!!」
ドゴーン!!!!!!
まさにドラゴンの息吹のごとく、炎が一直線にこちらに向かってくる。
後ろでティア達は騒ぎ散らしている。
フンッ!
俺は再び水壁を形成してドラゴニックブレスをなんなく防ぐ。
「バ、バカな⁉︎ これは俺の最上級魔術だぞ…」
あっけに取られるシュトイツ。
「次はこっちの番だな!」
バシャン!!!
茶色い液体がシュトイツの全身に降り注ぐ。
「な、何だこの液体は⁉︎」
「コーヒーに決まってるだろ! これは城のお返しだ!」
自身の最強魔法をなんなくいなされ、全身コーヒーにまみれとなったシュトイツは完全に戦意を失っている。
「あースッキリした。あいつは放っておいてさっさと帰るぞ!」
「ねえシン、お返しってことは初めて会った時のコーヒーまみれはあいつの仕業なの?」
「ちょっ、余計なことを言わなくていいんだよっ⁉︎ ほら行くぞっ!」
しばらく歩いた後、ふと後ろを振り返ると騎士団一行は元来た道をとぼとぼと引き返していた。
「シンさんのパーティー強すぎませんか?」
騎士団を眺めながら、エーミールさんが呟く。
「まぁーねっ!私達にかかればこの程度お安い御用よっ!」
「ティアは何もしてないだろっ! ほら早く帰ろうぜ!」
今まであまり考えてなかったけど、ひょっとすると俺は冒険者の方が向いているのだろうか…?
まあ、そんなことはどっちでもいいか。
今はこのバカで大切な仲間たちと一緒にいれるだけで幸せなんだから。
清掃員を追放され仕方なく冒険者として働き始めたが、唯一使用できる水魔法は汚れを流すよりもモンスターを流す方が向いてるのかもしれん!じゃばじゃばいくよ!じゃばじゃば! 泉水一 @izumihajime
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