清掃員を追放され仕方なく冒険者として働き始めたが、唯一使用できる水魔法は汚れを流すよりもモンスターを流す方が向いてるのかもしれん!じゃばじゃばいくよ!じゃばじゃば!

泉水一

プロローグ 屈辱の追放

「シン、お前は今日でクビだ」


へっ…⁉︎


目の前の王座にいる王様から自分に向かって予想だにしない言葉が発せられた。


つい先ほど唐突に王室へ来るように命じられて行ってみたらこの有様だ。


突然のことに視界がぐるぐるする。


王室には国王以外にも、騎士団長をはじめとする幹部たちがこちらを蔑むような目で見ている。


「王様…申し訳ありませんが、理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


王様は静かに口を開いた。


「君はこれまで清掃員として働いていたが、国の内情として当たり前だが軍事力の強化こそが最優先すべきことだ。情けないが我が王国は、ここ何年も魔王どころか幹部さえも討伐できておらん…」


王様はため息をつき、さらに付け加える。


「そこでこの度は国家予算を大幅に軍事力に費やすことにした。そうなると当然だが他の部分のコストをカットせねばらなない…。ここまで言えばもう説明は不要であろう…」


王様はこちらに向かって「あっちへ行け」と手を振った。


「お待ち下さい、王様!ここをクビになって後はどうやって生きていけばよいのですか⁉︎

そもそも軍事力に費やしたとしても掃除は必要不可欠で…」


騎士団長が話の途中でさえぎる。


「黙れ、この清掃員がっ!貴様などはなから必要ないのだっ!この後に及んでまだ気づかないのかっ!」


すると周りの幹部も続けざまに


「団長の言う通りだっ!」


「いつも掃除してるだけでお金を貰いやがって!お前なんかいらないんだよ!」


「そもそも清掃員が必要だったのかもはなはだ疑問だな!」


くそっ、くそっ、くそっ!


王様の前だからって言いたい放題言いやがって…


「国様、もう一度考え直してはいただけないでしょうか?なにとぞ…」


頭をかかえながら王様は俺の話を手で制する。


「もう決定したことだっ!会議で予算削減の際に、まず最初に全員一致で清掃員の廃止が提案された。つまりお前を擁護するものは誰一人としてこの城にはいないということだ!!」


そんな…今まで城内でよく話してたみんなは…実は裏では「必要ないくせに城内にいやがって」なんて思っていたのか…


「わ…わかり…ました…。でも、ひとつだけ…最後に自分の部屋の掃除をさせていただけませんか?」


王様は再度ため息をつき


「わかった、よいだろう。ただしそれが終わればすぐに出て行け!」


俺は逃げるように王室を後にした。





荷物をまとめて、部屋を見渡す。


俺に与えられた部屋は決して立派なものではなかったが、それでも清掃員であるからには常に綺麗に保ってきた。


「さあ、最後の仕事だ!」


俺は部屋の隅々まで丁寧に掃除して行く。


あー、この掃除をしている時間だけは俺にとって無心になれる瞬間だ。


最後に床を綺麗にしてと…


ガチャッ!


床にかがもうとした瞬間に不意に部屋のドアが開けられ、先程の王室にいた騎士団たちが各々コーヒー片手にズカズカと入り込んできた。


「おー、やってるじゃねーか!お掃除係のシンくん」


こいつら調子に乗りやがって…


「今は掃除中なので外に…」


ジョボ、ジョボ、ジョボ、ジョボ!


騎士団は手に持っていたコーヒーを床にこぼし始めた。


「あっ、すなねーな。コーヒーこばしちまったわ」


「これもちゃんと掃除するんだぞっ!」


俺は怒りの感情をグッとこらえてコーヒーを拭こうとかがみ込んだ。


「わかりました。後はやっておきますので外でお待ち下さ…」


ジョボ、ジョボ、ジョボ、ジョボ!


何やら後頭部に熱い液体の感覚がしたかと思うと、液体は頭を伝い床へと落ちていく。


ポタッ、ポタッ、ポタッ…


「おっとすまねー、またコーヒーがこぼれちまったわ」


悔しい…こんなことをされても何も言い返せないのが心底悔しい…


俺は歯をグッと噛みしめる。


それと同時に目頭が熱くなり、コーヒーとは別の透明な液体も床へと落ちて行く。


「おい、こいつ泣いてるぞ!」


「床にしゃがみ込んで、コーヒーかけられて、その上涙を流すなんてみじめだなっ!!」


騎士団は俺を指差してゲラゲラと笑った。


「ちゃんと涙で汚した床もきれいにするんだぞ〜」


もう一度ゲラゲラと笑って彼らは部屋から出て行った。


俺は頬をつたう涙をこすりながらコーヒーまみれになった床を丁寧に拭き続けた。


部屋の掃除が終わり、コーヒーで汚れた頭と服はそのままに荷物をまとめて俺は城を去った…








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