第12話 次なる問題

巨大ムカデを討伐してから1週間ほど経過した。


俺たちは1ヶ月は十分に暮せる金を手に入れたこともあり、クエストもせずゆっくりとした生活を送っていた。


「ふう、やっぱり大きなクエストクリアするとその後が楽だよなー!」


「そうね、みんなの力で乗り越えると達成感も桁違いよね!」


ティアはいかにも"私頑張りました"といった表情をしている。


「おいティア、お前は何もしてないけどな!」


「そうですよ!ティアはずっと逃げ回ってただけじゃないですか!」


すかさずクライネも俺に便乗してティアを責める。


「ちょっとクライネ、私があのムカデを引きつけて時間を稼いだからあなたが攻撃できたのよ!」


「引きつけたもなにもシンの後ろに隠れてただけじゃないですか!」


2人は頬を膨らませてそれぞれの意見を主張する。


「おいお前ら少しは落ち着けって…」


まったくまとまりのないパーティーだぜ…


「よし、今日は俺の奢りで美味しいものでも食べに行こうぜ!」


「「やったー!」」


まずは、ギルドで美味しいお店について聞いてみるか。





「ここにくるのもちょうど1週間ぶりだな」


ギルド内はいつも人がたくさんいるが、今日はいつにもましてたくさんの冒険者であふれかえっている。


「しかし今日は人が多いな」


「新しいクエストが追加されたんじゃないかしら」


「確かにみなさん掲示板の前で何やら話されているみたいですよ」


これっぽっちもクエストをやる気はないが、人が集まっているのを見たら気になるものだ。


掲示板の近くに行くとティアの言うようにたくさんのクエストが追加されて貼り付けられている。


「なるほど、数もさることながら難易度も☆〜☆☆☆☆☆までまちまちだな!」


「本当ですね…ってあれ⁉︎これは難易度不明というのもありますよ!」


クライネが掲示板に貼られている一枚の紙を指さす。


「本当だな、内容は…って俺たちがこの前ムカデを倒した森に関してだな…」


「ねえシン、あの森にはもう2度と行きたくないんだけど」


ティアが乗り気のしない表情でこちらを見てくるが、それはこちらも同意見である。


「ティアは少し落ち着け!えーなになに…ムカデ討伐以降は採取場所として使用されていたがある日を境に落雷がよく見られるようになり、採取に行った人々が帰ってこないことが度々起こっている。噂では雷使いの魔王軍幹部がいるのではとのこと…」


「シン、これは手を出すべきではありませんね」


いつもはぶっきらぼうなクライネもさすがに空気を読んでいるな。


「そうよ、無理に決まってるわ!」


よしよし


「久しぶりにみんなの意見が一致したな!俺もこれはやるべきことじゃないと思う!」


俺たちは賑やかかな掲示板の前から人混みをかき分けてそそくさと出口へ向かう。


せっかく美味しいお店について聞きたかったが、変なことに巻き込まれては本末転倒だ。


「あっ、シンさん!ちょうどよかったわ!」


不意にギルドの受付のお姉さんが話しかけてきた。


「いきなりどうしたんですか?」


俺はお姉さんの方を向いて立ち止まる。


ティアとクライネは俺達に興味がないのか何やら2人で話をしている。


「いやね、シンさんがクエストに行かれた森で行方不明になった人の恋人がおりまして…」


「その森ってまさかムカデを倒したところじゃないですよね?」


「まさにその森ですよ!」


お姉さんはニッコリとした表情を崩さない。


「ちなみに、その行方不明と魔王軍幹部の雷使いとかは関係ないですよね?」


「もちろん関係あると考えていますよ!」


「それは僕らの手には負えませんよ、あはははは…」


「いえいえ、このギルド内ではその森を熟知しておりかつ実力のあるシンさんにしか頼めませんよ、あはははは…」


依然として口元の笑顔を崩さないが、目が明らかに笑っていない。


まるで"あんたがあの森で何が余計なことをしたんじゃないの"とでも言いたそうな視線だ。


「いやだなー、そんな課題評価されても困りますよー、ではでは〜」


これ以上居ても、応じるまでしつこく頼まれるに違いない。


俺とお姉さんの会話には目もくれず、楽しそうに話している2人の背中を押してさっさと出口に向かった。


「ちょっとシン!いきなりどうしたの?」


「さあさあ、飯でも食べに行こうぜ!」


「あっ、そうだ。言い忘れてたけど私の父はこのギルド責任者なの」


へっ⁉︎


なんでお姉さんは唐突にそんな話をしてきたのだろう。


「これは噂話だけどね、以前ギルド責任者の娘が気に入らない人を報告したら、その人はこの町から仕事も住む場所も無くなって最終的にはこの街を出て行ったそうよ」


「いや、噂話ってギルド責任者の娘はあんたでしょうがっ!」


んっ?ととぼけた様子でお姉さんは首をかしげる。


「…分かりましたよ、やりますよ」


「え〜、本当にいいの⁉︎ありがとう〜!よろしくね!例の恋人には昼過ぎにギルドにくるように伝えておくからそこで詳しい話は聞いてね!」


そう言うとお姉さんは嬉しそうに受付に戻っていった。


「ねぇシン、お姉さんと何の話をしてたの?」


「ギルド内が騒がしくて、よく聞こえませんでしたが…」


はぁ〜


珍しくみんなの意見が一致してゆっくりしようとしていたのに…


「いや、それがあの〜、クエストについてちょっとな…」


「歯切れが悪いじゃない。って⁉︎まさかあのクエストを受けたんじゃないでしょうね?」


ティアの視線が痛い。


「シンは賢い人ですからそんなことするはずがないですよ」


クライネの言葉が痛い。


「じ、実はまだ受けた訳じゃないんだが…そのクエスト関係で困っている人の話を聞かなくちゃいけなくて…」


「「はっ⁉︎」」


急に2人は意気投合したかのごとく怒りの視線を向けてきた。


「まあまあ、俺もこんなつもりじゃなくって…」


「ねぇシン、詳しく聞かせてちょうだい。とりあえず昼はシンの奢りで飯でも食べながら聞かせてちょうだい」


「シン、私も詳しく聞かせてほしいです」


鬼の形相で詰め寄ってくる2人。


「はい…わかりました」


2人に先導されて飯屋へ向かう。


どうしてこうも次から次へと問題が浮上してくるのやら…







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