第14話 ティアのスキル

トイレを終えて帰ってきて2人の会話に混ざる。


「んー、とは言ったもののどうするかな…」


「とりあえずエーミールさんだけ救出して魔王軍幹部とは戦わないようにしましょうよ!」


ティアはうんうんと頷いて自分の言葉を正当化しようとしている。


「そりゃ俺だって幹部と戦うのはごめんだ!だがそんな強いやつから逃げ切れるもんなのか?」


「逃げるなんて考えず、ついでにやっちゃいましょうよ!」


「おいクライネ、よく考えてから発言しろ!今の戦力で勝てるわけないだろっ!」


このパーティーはみんなが違う方向に舵を取るから話が全然まとまらない。


「とにかくだな、まずはティア!お前も何かスキルを使えるようにしようぜ!」


「えっ、私も戦わなくちゃいけないの⁉︎冗談でしょ⁉︎」


ティアは首をブンブンと横に振って今にも逃げ出そうとしている。


「ティア落ち着け!戦わなくても補助魔法や回復魔法なんかもあるだろ!とにかく何かしら身につけておこうぜ!」


初めはいやいや言っていたが、説得の末にスキル習得することに同意してもらえた。


「よし!とりあえずは店に行こうぜ!」





俺達は街の中でも冒険者がアイテムを購入するのによく訪れる店に来た。


「ねぇシン。いつもは的外れな掃除屋ばっかり行くのに今日はどうしてまともな店に来てるの?」


「おいおい掃除屋をバカにするんじゃねーよ!いつもならステッキーに行きたいところだが、探してる物がここにしかないからな」


「一体何をたくらんでいるのでしょうか?」


「何もたくらんでねーよ!ほら行くぞ!」


店内に入ると周りは薬草から能力アップのアイテム、タイマツなど冒険に必要な物がずらりと並んでいる。


「すごいっ!これぞ冒険者の店って感じね〜!せっかく来たんだしいろいろ買っておきましょ!」


ティアはまるでおもちゃ屋に来た子供のごとく無邪気にはしゃいであちこち見てまわっている。


「こらこら!お金は節約しないといけないんだからな!無駄なもの買ってる余裕なんてないぞ!」


「このどケチ!じゃあ一体何を買うつもりなのよ?」


「誰がどケチだ!とりあえず今日の目的はこれだ!」


数あるアイテムの一つから丸い水晶を手に取って2人に見せる。


「これは…水晶ですか?ティアを占い師にでもするつもりですか?」


「いや、ティアには未来を見通す力なんては期待していない。これは冒険者に適したスキルを教えてくれる物だ!」


「あのー…なんでアイテムの説明がてら私をディスってるのかしら?」


隣でわんわん騒ぐティアは置いといてさっさと会計を済ませて店の外へ出る。



「よし!ではさっそく試してみるか!まずは俺からやってみるぞ!」


水晶を手のひらに乗せて、そこに意識を集中する。


あっという間に水晶は青色に変色した。


「すごい!青色に変色したわ!これはどう言うことなの?」


ティアはさっきまでわーわー言ってたくせに、もうすっかり忘れて今は水晶に夢中だ。


「その性格は本当に羨ましいな。これは青だから水と相性が良いってことだな!」


「じゃあシンは水商売が得意ってことですね!」


「そうそう…っておい!誰が水商売が得意な冒険者がいるんだよ!」


クライネは見た目が小さいこともあって幼い印象だが意外とその辺のことも知ってるんだな。


「まあまあ、次は私の番ですよ!」


クライネは俺から水晶を取り上げると同じように意識を集中する。


水晶は先程の青色よりも水色に近い色に変色した。


「シンと似ているけど色が薄いですね。やはり氷と相性が良いってことですね!」


さも当然と言わんばかりにクライネはうんうんとうなずく。


「色的にはクライネの方が水の色に近そうだから、お前の方が水商売に向いてるんじゃないかー?」


とたんにクライネの顔は水晶の色とは対称的に真っ赤になる。


「シンのバカっ!乙女になんてこと言うんですかっ!」


クライネがこんなに顔を赤くするのは初めて見た気がする。


以外と言葉責めには弱いのかもしれないな。


「ちょっと2人とも目的を忘れてないでしょーね。今日は私の能力を調べに来たんでしょ!早く私にも水晶を持たせて!」


クライネからティアへと水晶が渡される。


ティアも同様に意識を集中させる…


水晶は緑色に変色して光を放っている。


「えっ、なになにこれはどういうことなの?」


「これは、緑色かつ光ってことは回復系かな?こんなのは初めてだな」


前に勤めていた城でも様々な人が水晶でスキルを確認していたがこんな色は見たことがないな。


「ちょっと私聞いてくるわ!」


ルンルンな足取りでティアは店内へ入っていった。


「くそっ、余計なことを言ってしまったな」


ティアのやつ絶対に調子に乗ってるに違いない。


「ところであれはレアスキルなんでしょうか?」


「いや、正直俺もよく分からないな」


しばらくしてティアが店から戻ってきた。


「話によるとどうも回復系だそうよ!」


「やりましたねティア!回復系なら前線で戦わなくても大丈夫ですよ!」


クライネの言葉を聞いてティアは満面の笑みを浮かべる。


「いやいや、前線で戦いつつ俺たちを回復してくれて構わんぞ!」


「ちょっとシン!私を殺すつもりなの⁉︎私は2人のサポート役として頑張るわ!」


まあどのみちティアは前線には行かないだろうから、これで好都合か。


「ところで純粋な回復系なら水晶は緑色だと思うんだが、光っていることについては何か言ってなかったのか?」


「あー、それは条件魔法だそうよ!」


「「条件魔法⁉︎」」


何やら聞き慣れない言葉だ。


「えーと…聞いたことによるとある条件を満たした時にのみ発動するらしいわ!」


「条件って…どんな条件なんだ?」


「それは分からないわ」


条件が分からなきゃ使えないのと同じじゃないか。


「何か今までにそう言った出来事はなかったのか?」


「そういえば昔怪我をして泣いた後は何故か傷がきれいになってたような…」


「それだっ!条件っていうのは泣くことなんだ!そうと決まればティア今すぐ泣くんだ!」


「へっ⁉︎ちょっとシン!いきなり泣けと言っても無理よ!」


「泣けないのか?じゃあ仕方ないな!ティアは俺たちのパーティーからは離脱するしかないな!そうだろクライネ?」


クライネに視線を送ると、向こうも何かを察したように話を合わす。


「そ、そ、そ、そうですねー。使えないメンバーは必要ないですからねー」


「ねぇ⁉︎ちょっと待ってよ〜!」


そんな言葉責めをしていると、次第にティアの目元がうるうるし始めて最終的に大粒の涙を流し始めた。


ぐすんぐすん


ティアな涙を流すと同時に緑のオーラをまとう。


「おー!これが条件発動した状態だな!」


「ところでシン、ティアの魔法が発動したものの特に癒すものがないですが…」


「確かに…それじゃあどれくらいの回復力があるのか分からないな…」


ヒソヒソヒソヒソ


ふと我に帰りあたりを見回すと、周りの人々が立ち止まりこちらを見ている。


周りの人々からみると、店の前で女の子を泣かしている俺…


どう見ても俺がやばいやつじゃないかっ⁉︎


「あの人女の子を泣かしてるよ」

「最低だな…」


「ねぇ、ママ。あの人…」

「ダメっ、見ちゃいけませんっ!」


まずい、まずい


「おいティア!そろそろ帰ろうぜー!」


「お願いします!何でもしますから捨てないで〜」


ティアはより一層号泣して俺にしがみついてくる。


「わかったから!お前は俺たちの大切な仲間だからっ!」


なんとか泣きじゃくるティアを連れてその場を後にする。


これじゃあ街中に俺の変な噂が立つじゃねーかよ!


ティアさん…願わくばその癒しの力で俺の心を癒しておくれよ…















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