第18話 すみやかに帰還せよ

とりあえずエーミールさんにこれまでの経緯を手短に説明して、助けに来たことを理解してもらえたようだ。


「本当にありがとうございます!」


「気にしないでください、ところで今日はもう遅いのでここで野宿して明日の朝、街に帰りましょう!」


荷物をその辺に置き、たき火を囲みつつ持ってきた夕食を4人で分けて食べる。


「ところでエーミールさんは何でこんな洞窟に身を潜めていたんですか?」


「はい…私も初めは採取をしにここへ来ました。ですが採取中に雲行きが悪くなり次第に雷の音が聞こえたので早く帰ろうと思いました…」


エーミールさんはどこか恐怖を感じた目でたき火を見つめている。


「それで帰ろうとしたところ…道の前方に雷を身にまとったような獣が見えたんです。幸いにも気付かれてはおらず、近くにあったこの洞窟で身を潜めておりました」


「雷…ってことは魔王軍幹部のことか…」


「ねえシン、本当に大丈夫なの?」


「今までとはレベルが違う感じがしますね」


「別に何度も話したが戦闘はする必要らないからな!エーミールさんを無事に連れて帰れば問題ないだろ!」


「さすがシン!戦わずして勝つってことね!」


「みなさん本当にありがとうございます」


夕食を終えて、それぞれ寝る準備に取りかかる。


エーミールさんには俺の掛け布団を貸しておいた。


「じゃあ明日は辺りが明るくなれば出発して帰るとしよう…みんなお休み!」


「「「おやすみなさい」」」




翌日、洞窟外からの明かりで自然と目が覚める。


辺りを見渡すと、へそを出して寝ているティアとムニャムニャ何か呟いているクライネにがっつりいびきをかいているエーミールさん。


あいつら洞窟じゃ寝れんだのほざいていたくせに俺より熟睡してるじゃねーかよ!


「おーい!みんな起きろー!朝だぞー!」


予想通りティアを起こすのに1番苦労したが、なんとかみんな起こして出発の準備も整った。


「それじゃあ出発するぞ!」


「外はまだ曇りみたいだけど大丈夫なの?」


「でも辺りは十分に見えますよ!」


「おいティア!嫌ならここに1人で残ってもいいんだぞ」


「待ってよシン!おいていかないで!」


ティアが胴体にしがみついてくる。


「ちょっ、歩きづらいって!」


何で毎回しがみついてくるんだよ!


「みなさんは本当に冒険者達なのですか…?」


エーミールさんが何やら不安げな表情でこちらを見ている。


まあ確かにこのパーティーを見てると不安しかないだろうな…


相変わらずの曇り空であったが、それ以外には特になんの問題もない。


順調な足取りで森の出口に向かっている。


ピカッッッッッッッ!!!!!!


「ひゃっ⁉︎」


不意にティアがビックリした声をあげてしがみついてくる。


「落ち着けティア、ただの雷だ!俺たちに落ちてくることはまずないから安心しろ」


「み、みなさん…」


ふと後ろからエーミールさんの震えるような声が聞こえてきた。


振り返るとエーミールさんは足をガクガクとさせておりまともに動けない様子だ。


「エーミールさんどうしたんですか?」


「あ、あの時と同じです…」


「あの時?」


ズゴーン!


大きな音のした正面を向くと大木が数本ほど道を塞ぐように倒されていた。


「やっと見つけたぞ…」


倒された木々の後ろから荒く息を吐きながら、巨大なヘラジカのようなモンスターが現れる。


「でかいな、体長5メートルは軽くありそうじゃないか?」


「関心してる場合じゃないでしょ!早く逃げないと!」


「雰囲気が今までのモンスターとは明らかに違いますね」


「あ、あいつだ⁉︎もうおしまいだっっっー!」


エーミールさんは完全に膝から崩れ落ちている。


「俺様は魔王軍幹部の1人…雷帝ドナースタッグだ…お前達か?あの巨大ムカデを倒したのは?」


ドナースタッグは俺達を見渡して


「あれは魔王様のペットでな…大切にこの森で育てていたのに討伐されてしまい随分とご立腹の様子でな…」


「いや、俺たちは関係ない!他をあたってくれ!ほら、お前らいくぞ!」


「シン、あのモンスターを前にしてなんて堂々とした態度がとれるの⁉︎頼もしすぎるわ!」


「やはりシンはこういう時は肝が据わってますね!」


崩れ落ちてたエーミールさんをなんとか立たせて、ドナースタッグの横を何事もなかったように通り過ぎる。


「ちょっと待て!」


ドナースタッグが俺達の行く手を阻む。


「なんだ?まだ用があるのか?」


「匂いがするぞ…」


「匂い?」


「そうだ、巨大ムカデが倒されたあの岩の周辺に残っていた匂いと同じだな」


ドナースタッグは疑いの目でこちらを見ている。


「おいティア!匂うらしいぞ!ちゃんと帰ったら風呂に入れよ」


「なんで私の体臭が原因みたいになってるの⁉︎私は基本いい匂いしかしないわよ!」


ズドーン


その刹那…ドナースタッグの角から目にも止まらぬ雷撃が放たれる。


「「「きゃー」」」


「おいエーミール!何であんたも乙女みたいな声をあげてるんだよ!」


「あれ、私たちやられてない⁉︎」


ドナースタッグと俺達の間には、厚い水の壁が出現して雷撃を防いだ。


「任せろ、俺の水魔法で防御しておいた!」


ティアたちが俺をみる目が雷よりもキラキラしている。


「ティア達は戦う準備をしろ!どうやらこのまま逃げ切るのは無理そうだ…」


できれば戦わずして帰りたかったが、どうもそういうわけにはいかないようだな…








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