第7話 回り道
パイソン討伐から数日間が経過していたが、新たなクエストは受注しておらず、宿でのんびりしている。
「おーいティア、次のクエストだが…」
「ぜっっったいにもうクエストなんてごめんだわっ!!」
ティアは前回のパイソンに捕まえられてからのヌルヌルを思い出したのか、頭をブンブン振ってなんとか記憶を抹消しようとしている。
「じゃあどうやってお金を稼ぐんだよ!今は前回のクエスト分があるから問題ないけど、しばらくするとまたお金が底をつくぞ!!」
「へへーん!そこは私にも考えがあるの!ちょうどいいわ。夜にこのお店に集合よ!」
渡されたのは紙には酒場の名前が書かれている。
「ここで打ち合わせでもするのか?」
「まあそんな感じ!じゃあまたね!」
ティアはルンルンで部屋から出て行った。
しょうがない…それまでゆっくりしておくか。
「おっといけねー、もうこんな時間か…」
窓の外を見ると夕焼けが沈みかけている。
「そういや夜に酒場集合とか言ってたよな」
さっさと身支度をすませて酒場へ向かう。
「いらっしゃいませ〜!」
酒場に入ると目の前には超絶美少女のウェイターがお出迎えって…
「おいティア⁉︎ここで何してるんだ?」
「いやー、私ここでバイトすることにしたわ!クエストに比べたらお金は全然だけど、あんなのは命がいくつあっても足りないもの!」
まあ…ティアのウェイター需要は確かにあるとは思う。
今までローブ姿しか見たことなかったからな…
実際に周りの男達も鼻の下を伸ばしてティアをチラチラ見てるしな…
「でもこれじゃあ…」
「いいからいいから!こっちきて!」
ティアに引っ張られて席へと案内されてしまう。
「ご注文はどうされます?」
なんだよこのシチュエーションは…
「よくわからんから、とりあえずオススメを頼む!」
「かしこまりました!」
ティアはルンルンで厨房に向かって行った。
どんだけクエスト嫌なんだよ…
「しかしこの雰囲気は初めてだな」
周りはみんながワイワイと話ながら酒を飲んでいる。
なんとなくだが改めて冒険者になったって感じがするな。
ティアは全くやる気ないけど…
「おまたせしました!」
「おーっ!美味しそうだな!」
でかいステーキが乗ったプレートを見ると一気に腹が減ってきた。
「いただきまーすっ!」
食べ始めるととまらねーな!
俺は無我夢中で食べる。
「お待たせっ!」
ホールが一息ついたのか、ティアが俺の席にやってきて向かいの席に座る。
「ねえシン、どうかなこの格好は?」
ごくり…
「まあ、外面だけは一丁前だな…」
まじで外見だけは一級品だわ。うん。
「あら、内面も一級品よ。なんだってホームレスの頃はどんなものを食べてもお腹を壊さなかったもの!」
「あほかっ!なんで物理的な内面の話をしてるんだよ!」
やはり内面に関してはおバカさんだな…
「それよりシン。あなたも早く仕事を探しましょうよ、それで2人で生活費を稼ぐわよ!」
ティアは拳を天高く突き上げて元気満々に言った。
「そのことなんだがな…2人でバイトじゃお金が足りなくてな…」
「いったいどういうこと?」
「それが…今住んでる家なんだけど家賃が高くてな…」
「えっ、確かにどうしてこんなにキレイな建物なんだろうとは思ったけど…だってあの時はお金もなかったし安いところにしたんじゃなかったのっ⁉︎」
「そうしようと思っていたんだが、ギルドのお姉さんの口車に乗せられて良さそうな物件を選んじゃって…」
おもむろにティアに借用書を渡す。
「これって2人がバイトを1ヶ月死に物狂いで働いても足りないじゃないっ⁉︎」
「いやー、俺は冒険者として稼ぐの前提で考えてたからいけるかなと…」
グシャ
不意にティアが借用書を手で握りつぶす。
「あっ、おい⁉︎何してるんだよ!」
「シン。今すぐ解約してきなさい!このままじゃ2人とも1ヶ月後には露頭に迷うことになるわよ!」
さっきまでの可憐な美少女はどこにいったのやら。
今はまるで鬼嫁のごとき振る舞いだ。
「そうしてもいいんだが…実は2年契約なんだ…」
「そんなの無視すればいいじゃないっ!」
「ダメなんだよ!この街は信用が大事なんだ!だからもし契約を破ったら信用が一気になくなってしまう。おそらくギルド登録も取り消しになる…」
「えっ、じゃあ…わたし…またあんなモンスターたちと戦わなくちゃいけないの…」
ティアが今にも泣き出しそうな顔をする。
「大丈夫だから!俺がなんとかするから!」
「ほ、ほんと?」
「任せとけ!これでも清掃員内では最上級の水魔法使いだったんだから!」
「それだけ聞くと、なんか頼りないんですけど…」
その後酒場の店長には事情を話し、ティアのバイドはあっけなく終わりを迎えた。
家に帰る途中、ティアの服装はいつものローブ姿に戻っていた。
「ウェイター姿も良かったけど、やっぱりその方がしっくりくるな!」
「はいはい、私はどうせ冒険者ですよ〜だ!」
ティアは冒険者に逆戻りのはずなのに、どこか嬉しそうな顔をしていた。
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