第2話 心機一転
「仲間…ですか?」
彼女は困惑した表情でこちらを見ている。
「そうだ!俺の仲間になってくれ!」
再度はっきりと言ったものの、乗り気な様子ではなさそうだ。
「私なんか…ホームレスですし、役に立たないと思いますけど…」
「大丈夫だ。問題ない!!」
俺は彼女に近づき手を取ると強引に歩き出す。
「ちょっ⁉︎えっ⁉︎どこに行くんですか?」
「ギルドに決まってるだろ。そこで登録をすまさないとこの街では何もできないからな!」
こういう時は多少強引にでも行くしかない。
「まっ…待って下さい!こんな格好で行くんですか?」
彼女の服をチラッと見る。薄汚れたローブにボサボサの髪。
確かにこれでギルドに行くのは印象が良くないな。
「一理あるな。それならまずは服を新しくして風呂でも行ってから向かおうぜ!」
「はぁ…わかりました…」
彼女は納得したようなしてないような表情で俺の服をながめてつぶやいた。
彼女の視線を追って自分の服を見てみると、俺も王国でコーヒーかけられた服のままだった…
「とりあえず自己紹介からだな。俺はシン!つい先日まで城で清掃員として働いていたがクビになって現在は転職活動中だ!」
「私はティア。転職どころかニートのホームレスです…」
ティアはどこか自信のなさそうな様子で話す。
「気にするなよ!俺も今はニートなんだし!」
「そう言われても…」
お互いニートで年齢が近くニートという似たような境遇からすぐに打ち解けることができた。
しばらくしてその場から店を探すために歩き出した。
「とりあえず服を買うとするか…」
「服屋さんなんて初めて。少しワクワクするわ」
ティアはこの短時間でかなりフレンドリーに接してくれるようになった。
「おいおい、じゃあその服はどこで手に入れたんだよ?」
「これはゴミ箱よ!あそこなら何でもタダで手に入るわよ!」
「なんで誇らしげにしゃべってんだよ!」
ティアのよくわからない自慢にツッコミを入れつつ、俺たちは店の看板に箒が刻まれたステッキーというお店の前に着いた。
「シン、私は服屋に行ったことはないけど外からなら見たことはあるわ。だから言うのだけど、ここって…掃除の店じゃ…」
まったく、これだから素人は…
「まったく、ティアは世間知らずだな。今は掃除屋で売られてる服の方が耐久性に優れてるんだよ。デザイン性も近年目まぐるしい成長をみせているんだ」
「そう…なんだ…」
何やら不安げな表情を浮かべているがお構いなしだ。
店内に入ると、箒を始めとした掃除道具や作業着などなどがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
「うおー!また新しい掃除道具が出てるじゃねーかっ!おっと…とりあえず掃除道具は置いといて、服を選ぼうか」
ティアが適当にローブを選んで俺に見せてくる。
「ねえ、シン。これはどう?」
「いや、それは防寒性が微妙だからやめとけ!」
ティアは感心したような眼差しを向けてくる。
「すごい、シンは詳しいのね!じゃあこれは?」
「いや、それは防水性が微妙だからやめとけ!」
徐々にティアの視線が少し面倒臭いやつを見る目になってきている。
「じゃあこれは…」
「いや、それは…」
こんなやりとりを何回も繰り返してやっとのことでティアは完璧な服とローブを見つけられた。
俺も今着ている服の新品を見つけて買うことにした。
今のを洗っても使えるのだが、思い出を1度しっかりリセットしたかった。
2人分の服をまとめてカウンターに出す。
カウンターにはお姉さんがいて、愛想良く振る舞ってくれた。
どこかのギルドとは大違いだな。
「いらっしゃいませ〜!おっ、君たちいいチョイスしてるね!これらの服は見た目は普通だけどいろいろ機能がついていて…」
「そうなんですよ!防寒性に防水性、また石鹸を使わず水で洗うだけで汚れも落ちて…それから…」
途中までニコニコ聞いていたお姉さんの顔は俺が話し終える頃には何故か疲れた顔をしていたが…まあ気にしないでおこう。
店を出て温泉へと向かう。
ティアは新しい服を眺めて嬉しそうだ。
温泉につくと受付を済ませて奥に進む。
温泉内にはぼちぼち人がいる。
意外と繁盛してるんだな…
奥には男湯、混浴、女湯と入り口が並んでいる。
「じゃあ入るぞー!」
ティアの手を引っ張りながら混浴へと進んで行く。
「ちょっとシン!待ってよっ!!」
「ん?どうした?」
「混浴って男女が一緒に入るところでしょ!」
ティアは顔を真っ赤にしてうつむいている。
「そうか!ティアはホームレスだから知らないと思うけど今は混浴が主流なんだ!」
「ほ…本当⁉︎」
「本当だって!みんなやってるから一度やってみようぜ!」
「なんか路地裏で違法薬物を取引してる人達と同じ口調なんだけど…」
「大丈夫だって!」
再度ティアを混浴へと促すが全く動こうとしない。
「ねえシン。さっきからここで話してるけどみんな男湯と女湯にしか入ってないじゃない!」
「うっ…それは…」
「じゃあまた後でね」
ティアは俺の手を振りほどき女湯へと向かって行った。
む、無念なり…
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