第12話 グラン・メルクス・剣闘戦


 グラン、それは私の暮らしていた村も含めた広大な地域を治める巨大な街。

 その地域一帯はグラン地域と呼ばれ、グラン城には王族が暮らしている……


「んだよね?」


「うむ、ここで揃わない物は無いと言えるほどの街だ」


「王族ってことはフィオルの家族がいるの?」


「傍系になるがな。さて、先ずは宿を探すとしよう」


 夜なのに、星が見えないほど明るい街。

 往来する人々の数、数え切れないほどの露店。

 そこら中からいい匂いがする。

 この匂いはいったいなんの食べ物なのかな……


「うひゃー、凄い人の数。フィオル、逸れないように……あれ? フィオル?」


 ◇  ◇  ◇  ◇


「さぁお嬢さん、とっておきの魔石の数々。どうぞ見てってよ!」


「わぁ……………………魔石?」


【自然の中にある魔力が長い年月をかけ固まって出来た物。それが魔石だ。微量の魔力を注ぐと…………キサマ、以前守護者に説明されただろう。その頭の中はカラッポか?】


「カラカラ音がしないから詰まってるよ?」


【バカには勝てんな】


「ふふっ、褒めてくれてるの?」


【…………】


 賑やかな街を散策していると、一際大きな人集り。

 近寄ってみると、その人集りをかき分けるように何かが素早く移動している。

 ソレはやがて最後尾の私に目掛け突進してきた。


「きゃっ!!? 痛……あれ? 痛くないよ?」


【頼むから自己防衛くらいしてくれ……】


 咄嗟の出来事、アストライアが魔力で私を守ってくれた。

 乱暴な言い方じゃないの、初めてかもしれない。


「ふふっ」


【とうとう頭が壊れたか。いや、元から壊れているか】


「……あれ? この子……」

 

 私達に突進してきた何かが私のローブに絡まって暴れている。

 優しく解くと、その全貌が顕になった。


 大きな……蜥蜴?

 羽が生えていて、パタパタと懸命に飛ぶ姿が可愛い。

 思わず抱きしめる。


「可愛い……あなた、お名前は? ……そっか、メルクスっていうのね」


【また面倒だな……】


 メルクスは私を気に入ってくれたみたいで、私の頬を長い舌でペロペロと舐めている。

 暫くして、私よりも背の低い髭面の男性が声をかけてきた。


「ここにいたか! お嬢さん悪いね、ソイツを返してくれないか?」


「……この子、嫌だって言ってますよ?」


「馬鹿なことを言わんでくれ。ソイツはな、剣闘戦の景品なんだよ。今回はグランの王バーエン様が観に来られるとあって、特別に用意した極上品。分かるだろう? さ、返してくれ」


「よく分かんないんですけど……剣闘戦ってなんですか? そもそも生き物を景品って……」


 メルクスはこの人を常に警戒して、心の牙を剥き出しにしている。

 相当嫌な思いをしたみたいで、私から離れようとしない。

 それに、私も離したくない。


「お嬢さん、手荒な真似はしたくないんだ。ソイツが無いと俺が殺されてしまう。そんなに欲しかったら剣闘戦に出て優勝してくれ。な?」


「剣闘戦っていうので優勝すればいいんですね? メルクス、私が助けてあげるからちょっとだけ待っててくれる?」


 名残惜しそうに私を見つめるメルクス。

 それでも私のことを信用してくれているみたいで、大きく頷き口から火を吹いた。



 ◇  ◇  ◇  ◇



「なぁガルド、こんな所にフィオルがいるの?」


「うむ、魔力を辿るとどうもこの中にいるようだが……」


「ここって闘技場だろ? しかも剣闘戦がやってるし……夜にやることじゃないでしょ」


「うむ…………むむっ!!? ミロス、闘技場内を見ろ。フィオルだ」


「な、なんで剣闘戦にフィオルが出てんの!?」



「えーん……剣士の殺し合いなんて聞いてないよー……」


【仕方がないだろう。やるからには皆殺せ】


「無理だよー……」

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