第9話 初めての魔法
山は半壊し、空が晴れ渡る。
呆然としていると、崩れた山の底から何かが聞こえてきた。
「だぁー!! 死ぬかと思ったー!!」
「ミロス!! 良かった……無事だったんだ……きゃーーっ!!?」
ミロスの横にはちょっと見ちゃいけない感じの肉塊がモゾモゾと動いている。
うん、見ちゃいけないね。
「これガルドだよ。私を守ってくれてこんな形になっちゃってさ。でも最初見た時よりも大きくなってるから、魔法で回復してるんだよね?」
確かに、少しずつ人の形を成していく。
私のせいだよ、私のせいなんだけど……
直視出来ないや……
「とりあえずガルドが元に戻るまでその辺で休もっか。おいでフィオル」
私の事を気遣ってくれるミロスは、優しく手を握ってくれた。
◇ ◇ ◇
「ごめんなさい!!」
「もうよい。お主達が無事でなによりだ」
夜になり、口元辺りまで再生したガルド。
ミロスは面白半分に再生箇所を棒で突いている。
私の魔法は、人を傷付けてしまう。
もう使わないようにしなきゃ……
「……フィオル、ちょっといい?」
ミロスに誘われ、少し離れたところで腰を下ろす。
真っ暗だけど、焚き火でもするのかな?
「見てて? んん…………よいしょっ」
息を吹きかけたミロスの手の平から、光り輝く小人が現れた。
手のひらに乗った小人は私にお辞儀をして踊り始めた。
「自分の魔力に息を吹き込むんだよ。子供がやる魔法の訓練で、魔力を上手く制御出来る程に小人は意思を持っていくんだ」
私に向かって手を振っている小人。
きっとミロスは魔力を使いこなしているんだろう。
私なんかに、出来るはずないよ。
「手の平を上にして、温かいお湯の中に漬けている感覚を想像してみて」
「でも私は……」
私の手を握り、言われた通りの手の形にしてくれる。
何も言わないけど、ミロスの気持ちが伝わってくる。
“大丈夫だよ”
小人の光で優しく照らされるミロスの顔は、優しさで満ちていた。
魔力に息を吹き込む……
まずは温かいお湯の中に手を漬ける感覚。
「もっとゆっくりでいいよ。段々と温かくなる。そう、緩く優しく」
ミロスの声が私を落ち着かせる。
小人も応援するかのように私の服を掴んでいる。
ふふっ、大丈夫だよ。
「おっ、良い感じ。そしたら……誰か大切な人を思い浮かべてみて」
数え切れない程いた。
その皆がいなくなってしまった。
震える身体を包み込むように、ミロスは私の肩を抱き寄せてくれる。
「その人に届くように優しく息を吹きかけて」
綿毛も飛ばない程の息。
吹きかけた瞬間、手の平から光が形成されていく。
普段は嵐のように暴れ蠢いている私の中の魔力。
今だけは、静かな森の中にある湖のように優しく穏やか。
肩にかかる手に気が付きふと隣を見ると、澄み切った笑顔がそこにあって、何故か胸の奥が温かく疼いた。
「見て、光の小人が出てくるよ」
私の手の平から徐々に現れる小人。
光っていて顔は見えないけどこれって……
「なんだかミロスに似てるね」
肩にかかるくらいの髪の毛、上の方で少しだけ跳ねているそれはミロスと瓜二つ。
腰に手を当てる癖もそっくり。
「ふふっ、可愛い。宜しくね小人さん」
私が手を差し出すと、小人は優しく握手をして一礼をした。
それから私とミロスの間に入って、ミロスを追いやっている。
「コイツ……フィオルから離れろよ」
そっぽを向いて、ミロスの指を蹴飛ばす小人。
啀み合っているけど、まるで双子の姉妹みたい。
「まったく…………ふふっ、はっはっは!!!」
大笑いをするミロスに釣られて私も笑ってしまう。
光る小人達に照らさられたのは、夜の森だけでは無かった。
「ミロス、あのね……」
「初めてでこんなに自由な光の小人を出せるなんてフィオルは凄いね。魔法って向き不向きがあるけど、フィオルはきっと何かを生み出す力が強いんだよ。フィオルの魔力は破壊を司るのかもしれないけど……壊すって事は作るって事なんだと思う。私の村では増えすぎた木々を焼き払うんだ。その後の土で農作をするといい野菜が出来るんだよ。壊して作って、またいつか壊して……どんな事でも言えると思うんだ。だからさ、その……」
言葉に詰まるミロスだけど、その想いは心の底まで染みている。
大切な事を教わった。
優しく温かい心で使う魔法。
いつの日か、一人で使いこなせるといいな。
「ありがとうミロス。あなたのおかげで……初めて魔法が使えた気がしたの。大切な人を思い浮かべる時、ミロスの顔が浮かんだよ。うまく言えないんだけど、今とっても心が温かいの。今日はもう少しだけくっついててもいい?」
「やっ、そ、えっと……う、うん……私も……こうしてたいかな」
……
……
【キサマの事、完全に忘れてるな】
「いいんですよ……」
【泣いてるのか?】
「これは汗ですから……」
【そうか……】
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