第5話 失われたモノ


 都を目指す道中、常に魔法の練習をしている。

 今は歩きながら魔力を安定させる練習中。


「このままこのまま…………あっ!!? 駄目だ、すぐに魔力が暴れちゃう……」


【ヘタクソ!!! 魔道士なんか辞めちまえ!!!】


「うぅぅ……ごめんなさい……」


 いつまで経っても上手く制御出来ない。

 やっぱり私なんかに魔法は……


「大丈夫、少しずつ上達しておる。お主の魔力は少々特殊でな…………魔物の気配だ。この先からだな。確か小さな村が……急ごう」


    ◇


 散らばる肉片、ひどい匂い。

 その惨劇に、涙が止まらない。


【おうおう、それは子供の足だな。魔物は臓物を好むからなぁ。四肢は千切られるのが常識だ】


「彼女の前で辞めてください!! フィオル、こちらに来て目を瞑ってなさい。大丈夫だからな」


 目を背けたくなる現実。

 見た所、生きている人はいない。

 いるならば、それは私達。 


 何か出来るわけじゃないけれど、せめて安らかに眠ってほしいから、私は祈りを捧げる。


 何も出来なくて、ごめんなさい。


【ケッ、甘っちょろい。来たぞ、魔物だ】


 周囲の家より大きな身体。

 血塗れの口周り、鋭い爪。

 ニタニタと笑いながらこちらへと向かってくる。


「フィオル、下がっていなさい。私が── 」


【先手必勝だ!! メスガキ、魔力を込めろ!!!】


「えっ? わわわっ!!?」


 勝手に魔力が吸い取られ、虹を帯びていた私の魔力は禍々しい色へと変化していく。

 

【ヒャーハッハッハ!!! 壊れろ!!!】


 アストライアが叫んだ途端、目の前で大爆発が起きた。

 その魔力は村を巻き込んで、魔物諸共消し去った。


    ◇


【分かったからもう泣くな!! 我が悪かった!!】


「っ……酷すぎるよ………なんで壊しちゃうの……」

 

【殺らなきゃ殺られる、そうだろう!?】


「……家だって沢山あったんだよ? 酷いよ…………」


【分かった分かった!! お主の了解無しではもうやらん。だから泣くな!!】


「…………」


【何故我が頭を垂れなければならんのだ……】


「あなたもメギスなんですから、もう少し寄り添ってみては…………誰だっ!!?」


 村の入口で誰かが立っている。

 刃物を握りしめた、私と同じ年くらいの……

 

「…………殺してやる」


【おうおう、殺ってみろ。鼻をほじってでも消してやるわ】


「アストライア、やめて。あなた、ここの村の人?私は── 」


「魔物の言う事なんて聞くかよ!!」


「我々のどこが魔物に見えるのだ……あれ? 私はどんな容姿だ?」


「うーん、魔物入ってるかなぁ……」


【人外、畜生】


「なんと!!」


「ふざけやがって……ぶっ殺す!!!」


 勢いよくこちらに向かってくる。

 自分の大切な場所、大切な人、大切な思い出、全てを失った悲しみ。 

 辛いよね、悲しいよね。


 刃物は私のお腹目掛けて勢いよく突き刺さった。


「なっ……なんで逃げないんだよ!! それに…………なんで笑ってられるんだよ!!?」


「だ……だって……私が苦しむ顔をしたら……きっとアナタも苦しくなっちゃう……から……何も出来なくて…………ごめんなさい………………」


 意識が朦朧とする。

 お腹から、温かい何かが流れている。

 誰かが叫んでいるけど、上手く聞き取れない。

 最後にアストライアを少しだけ握りしめて、目の前は暗く閉ざされた。

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