第3話 星壊のアストライア


 歩き続けて3日目、街の灯りが段々と近くなってきた。


「漸く着いたな。あの街はデーテ。小規模な街だが、最低限の道具は揃うだろう」


「お腹空いた……体洗いたい……」


「うむ……まずは宿で汚れを落とすと良い。それから夕食にするとしよう」


    ◇


 久々の湯浴み。

 壁を挟んだ隣の湯にはガルドがいる。


「気持ちいいね。なんだか落ち着くなぁ…………きゃっ!!?」


「どうした!? 今そちらへ行く!!」


 歩き疲れて足がつってしまっただけなのに、ガルドは早とちりをしてこちらの湯に入ってきた。


「キャー!? 見ないで!! 燃えろ!!!」


「ギャーーーー!!?!!?」


    ◇


 部屋には鳥の焼けた香ばしい匂いが漂っている。

 黒焦げのガルド、お腹空いたなぁ……


「…………すまぬ」


「ううん、私こそ……ガルド真っ黒だけど大丈夫……?」


「私の体は魔法の力により朽ちる事が無い。見ての通り徐々に修復される。全ては国を守る為、この体を手に入れた。代償としてこの形と目が見えなくなってしまったがな」


「そうなんだ……でもごめんね、痛かったよね」


 焼け焦げた手を優しく撫でる。

 私の魔法で傷付けてしまった。

 夢にまで見た魔法なのに……


「……お主に何事もなくて良かった、ただそれだけの出来事だ。さ、夕食を食べるとしよう」


「……うん」


    ◇


 守護者というのはとても有名で敬われる存在らしい。

 待ちゆく人々が皆ガルドに頭を下げている。


「ガルドって凄い人なんだね」


「私よりもお主の方が敬仰されるべきなのだがな。この国に姫がいたなどと言っても、誰も信じぬだろうが……」


「……私だって自分がお姫様なんて信じられないもん。私はあの小さな村に爺ちゃんと婆ちゃんと仲良く暮らしていた普通の村人だから」


「うむ、今はそれで良い。まずは都に着く、それが最優先だ」


 守護者様に是非と言って、お店の人が山のような料理を出してくれた。

 こんなご馳走見た事がないや。


「わぁ美味しそう……いただきまーす」


「…………!? な、なんだ!? その匙の持ち方は!!?」


「え? 爺ちゃんに教えてもらった持ち方だけど……」


「教える事は多そうだな……」


    ◇


 次の日、街の道具屋で旅の支度を整えている。

 見た事の無い物しか置いていない店内。

 ワクワクしちゃう。


「お主も冒険者だ。まずはしっかりとした武具防具を揃えよう」


「わぁ……この弓可愛い。ねぇ、これが良いな」


「お主は魔道士だ。先ずは杖を買おう。こちらに来なさい」


 様々な形の杖。

 どれも石みたいな物が埋め込まれている。

 可愛い杖は……なさそう。


「杖があるとどうなるの?」


「杖は術者の……お主がやると壊しかねない。見ておれ? こうして杖に魔力を注ぐ。すると……」 


【これは守護者様。私に手を掛けて下さりありがとうございます】


「つ、杖が喋ったよ!!?」


「自然界にある物には微量な魔力が存在する。水や植物、土や岩……それらが長い年月を掛けて形成する魔力の集合体 “魔石” それは不思議と自我を持っていて、魔力を通すことによって会話できるのだ。その魔石が杖には埋め込まれている」


「……じゃあここに飾られている杖達はなんだか可哀想だね。意思があるのに動けないなんて……」


「…………」


 ── ──── ──────


『リリ様!! なんですか!? この大量の杖は……』


『これは5年以上持ち主がいなかった杖達。この部屋には常に魔力が循環するようになってるから、この子達はいつでもお話が出来るのよ?』


『しかし何故……』


『だって寂しいじゃない? 何年もずっと一人で……せめて私が生きてる間はここでこの子達と会話出来たらなって思って』


『ですが杖は使ってこその……』


『都の子供達が5歳になったらここにきて、自分に合った杖を選んでもらう事になってるの。それでも余っちゃうんだけどね。あっ、そうだ!! ガルドはそれ以上年を取らないでしょ? 私が死んじゃったらこの子達、お願いね』


『な、なんと……』


 ────── ──── ──


「ガルド? ガルド、大丈夫?」


「あ、あぁ問題無い。お主はまだ魔力に目覚めたばかりだ。手練の杖を選ぶと良い」


 どんな杖がいいのかなぁ……

 どれもなんとなくしっくりこなくて、でも選ばなきゃだよね……あれ?


 声が……聞こえる……


 声の方を見ると、使えなくなった古道具達が山になっている。

 その底から、声がする。


「どうした?」


「声がするの。なんだろう……」


「なんと……声のする方へ手をかざしてご覧」


「こう? きゃっ!?」


 山の底から吸い寄せられるように杖が私の手へと収まった。

 他の杖とは比べ物にならないくらい、大きな魔石が杖の上部に付いている。


「わぁ……綺麗な杖」


「何故これがここに……店主よ、この品は?」


「これは……数年前に商人がやってきて、ここにガラクタの山を置かせてくれと言って金貨500枚を渡してきたんです。手を触れるなという条件付きでして」


「この御方は声を聞いたそうだ。買わせて頂こう」


「声が聞こえたのならば、これは大変おめでたい事。お代は結構です、どうぞ大切にお使い下さい」


 お店の中がザワついて、外からも見物客がワラワラと押し寄せている。


「声が聞こえるとなんなの?」


「杖と術者は互いに最高の組み合わせがあってな、メギスと言われるそれは全ての者の憧れ。魔力を介さずに声が聞こえたのならば、それがメギスの証だ」


「へへ……嬉しいな。私大切に使うね」


「うむ…………!? 魔物の気配だ。街の外か……フィオル、行くぞ」


    ◇


 外へ出ると、人々が皆同じ方向へと逃げている。

 私達はその反対へと向かう。


「フィオル、杖を前へとかざして魔力を込めるんだ」


「わ、わかった」


 言われた通りにする。

 すると杖が虹色に光り始めた。

 

「わぁ……キレイな……きゃっ!!?」 


 突然魔力が弾け、虹色だった筈の魔力が黒々と変わり始める。


【ハッハッハッ!!! 久々の娑婆だな!!!】


「ガルドー、この杖なんか変だよー」


【変とはなんだ!!? 一振で地を焦がし、二振りで天を裂く。そう、我こそは星壊のアストライアだぞ!! 平伏せ!! この牝犬が!!!】


「えーん……可愛い杖が良かったよぉ……」

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