第2話 鳥頭の守護者


 私はあの村から出た事が無かった。

 同じ年のみんなが隣町の学校へ行っている時も、私は家で本を読んでいた。

 

 “アンタは魔力が無いんだから、学校へ行っても嫌な思いをするだけ”


 婆ちゃんの口癖だった。

 魔法が使えない子供が村の外へ出るのは危険だからという理由で、外へと出る事も出来なかった。


 そんな私が魔力を持って、外の世界へと踏み出している。


 都までは歩いて2月以上かかると爺ちゃんが言っていたけれど、私はそれ以上掛かるだろう。


 何故なら私は今森で迷子になっているからだ。


「えーん……ここどこ? 深いし暗いし怖いし……」


 こんな時魔法が使えたら…………

 使えるよね!?


 暗いんだったら、明るくすれば……

 えーっと…………


 うん、分かんない。

 だって魔法使った事なんか無かったんだもん……


 唯一使えた火を出す魔法。

 これで焚き火をするしか……


「よ、よーし……想像想像……」


 魔法は想像力だと本に書いてあった。

 燃えている感覚だね。


「……燃えろっ!!」


 手をかざした瞬間、私の目の前で大爆発が起き地面は抉られ巨大な穴が出来た。

 周囲の木々は激しく燃えている。


「う、うん……一応明るくなったよね?」


 私の身体から虹色の魔力が溢れ出て、燃え盛る炎はどんどん勢いを増していった。


「キャー!? ど、どうしよう!!? 止まれ止まれ止まれ!!!」


 言葉とは裏腹に、辺り一面が炎で包まれていく。

 あれ、これって……逃げられない?


「えーん……どうしよう……」


 昨日に続き、2度目の死を意識した時だった。

 木々の上から何かが降ってきた。


 人間……?

 

 剣を一振りすると、その風圧で全ての炎が鎮火した。

 凄い……



「あ、ありがとございま…………!!? キャー!!!? バ、バケモノッ!!!」


 振り向くその姿に絶叫してしまった。

 人間の体に鳥の頭を付けた鳥人間。

 

「バケモノ!? どこにいる!!?」


「あ、あなたの事です!!!」


「なんと!!」


 ◇


 小さな焚き火を起こしてもらい、森の中で野営をする。

 火がある事と、一人ではない安心感が私を包む。


「名前を言ってなかったな。私はガルド。この様な姿をしているが魔物では無い」


「魔物……?」


「し、知らぬのか!!?」


「ご、ごめんなさい……その、村から出た事も無くて……魔法も昨日使ったのが初めてで……」


「……詳しく聞かせてくれるか?」


    ◇


「なんと……その年で突然魔力が……信じられんな……」


「それで多分……この首飾りから魔力が流れてきたんだと思うの。意識すると……ほら、虹色の魔力が流れてるでしょ?」


「虹色だと!!? お主は虹色の魔力を持っておるのか!?」


 ギョロギョロしている鳥目はさらにギョロギョロを増している。

 ちょっと怖い……


「う、うん。ガルドも見えるでしょ?」


「…………すまぬな、私は目が見えぬのだ。魔力を使って物体や人物の位置を把握しているだけなのだ」


「ご、ごめんなさい…………この森から出られるの? お家に帰れる? 私が送ってあげようか?」


「……ふっふっふ、大丈夫。優しい心の持ち主だな…………」


「……?」


「よし! 私が都まで案内しよう。魔法の訓練をしながら行けば着くまでには十分使えるようになるだろう───むっ!!?」


 ガルドが振り向いた方角から、ズシンと地響きのような音がした。

 鳥達が騒いでいる。

 逃げてきた兎に聞いてみる。


「どうしたの? 何がいるの?」


“人間の巣を何個も壊した怪物が向かってくる。君達も逃げて”


「巣を壊した……怪物……?」


「動物と話せるのか!?」


「えっ?うん……普通でしょ?」


「なんと…………そうか、それでお主は外へと出る事を禁じられていたのか……」


 地響きが近づいてくる。

 振動で焚き火の木が崩れ落ち、火は徐々に弱まっていく。


「……フィオル、先手必勝だ。音のする方へと雷を打てるか?」


「や、やった事ないけど……あれ? なんで私の名前を知ってるの?」


「お主が生まれる前から知っておる。さ、やってご覧」


 状況も情報も整理出来ないままでいる。

 でも、やるしかない……よね。


 想像して……


「雷……雷はビリビリ…………」


 魔力が渦を巻き、私を取り囲む。

 それは次第にバチバチと稲光をし始めた。


「よし、そのまま放て!」


「よ、よーし……落ちろ!!」


 意識した方向へ、巨大な雷が落ちた。

 落ちている筈なのに、まるで天に登っているかのように、雷が落ち続けている。


「ガ、ガルド……どうやって止めるの?」


「うむ……自然と止まるのを待つしかなさそうだな……」


 夜中雷は落ち続け、朝方漸く収まった。

 

    ◇


「準備は良いな? では出発しよう」


「…………ねぇ、どうして私の事を知ってたの?」


「魔力というものは……血筋による影響が強く出るものでな、虹色の魔力はこの国の……王妃が持っていたものだ。そして動物の声が聞こえる力、それは国王の血統しか持たぬ。お主が王妃の腹の中にいる頃、私は王宮に仕えていた。私はこの国で一番のツワモノ……国の守護者ガルドだ」


「……………………えっ? ど、どういう事?」


「お主はこの国の姫、フィオル・ユイスン。理解できたか?」


「…………無理だよ!?」

  

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