泣き虫姫の冒険譚

@pu8

第1話 得たモノ、失ったモノ


 どうして私には魔力がないのだろうか。

 村のみんなは全員魔法を使えるし、私みたいに魔力を持っていない人は聞いたことがない。


 羨んでも、無いモノは無い。

 そう自分に言い聞かせ、お花を摘んだり動物達とお話をしたりして日々を過ごしていた。


 いつもと同じように栗鼠や小鳥たちの話を聞きながら、花束を作っていた。

 今日は私が14歳になる誕生日。

 爺ちゃんと婆ちゃんが、私の為に祝いの料理を作ってくれている。

 バレバレだけど内緒で作ってくれているので、気を利かせてこうして花を摘んでいる。


 日も暮れ始めた時、遠くの鳥たちが騒いでいた。


 “人間の巣が襲われている”


 抑えきれない胸騒ぎと共に、急いで村へと戻った。


    ◇


 見慣れた筈の景色が壊れていく。

 そこら中に散らばっている肉片は、一体なんなんだろう。

 嗅いだことのないニオイが、村を漂っている。

 私の家に着くと、大きなバケモノが何かを貪っていた。

 認めたくない現実……あれは多分、婆ちゃんを食べている。

 

「フィオル!! 逃げるんだ!!」


 爺ちゃんがそう叫ぶと、バケモノは私目掛けてのそのそと動き始めた。


 恐怖で足がすくんでいる。

 動きたくても、動けない。


 私を庇って、爺ちゃんは吹き飛ばされている。

 目の前にはバケモノ。


 どうしてこんな事になってしまったんだろう。


 今日は家族3人で美味しい料理を食べて、歌を歌って……ここまで育ててくれたお礼の花束を渡す筈だったのに。


 バケモノの鋭い爪が、私に迫りくる。

 涙を流しながら、死を悟った。


 断末魔。

 それは切り刻まれる筈の私では無く、目の前のバケモノの声。


 バケモノの右腕は崩壊し、怒り狂ったように暴れ回っている。


 でも…………どうして…………

 

 どうして魔力が私の周りに…………

 虹色に光り輝く魔力が、渦を巻くように私を取り囲んでいる。

 生まれた時から付けているお守りの首飾り。そこから出ているような……

 温かさを感じるそれに触れると、どこからか声が聞こえてきた。

 同じ事を繰り返している……?


 意識を集中させると、次第に声が鮮明になっていく。


 ‘’レ・バシレクス・クルール・ゼロ‘’


 呪文……?

 

「レ……バシレクス……クルール…………ゼロ?」


 言い終わった瞬間、私の中で何かが崩れ落ち、感じたことの無い何かが沸き始めた。

 

 多分だけど、私の中で魔力が生まれている。

 今なら、出来るかもしれない。


 ずっと、憧れていた。


 いつだって、思い描いていた。


 叫んでも叫んでも、出来なかった事。


「燃えろっ!!!」


 私の手から繰り出された魔法は、燃えるなんて生易しいモノでは無かった。

 壊れた屋根から昇る火柱は、まるで地獄の業火。

 一瞬にして、バケモノは炭になった。


「や、やった……私……」


「フィ……フィオル……そこに……いるのか?」


「爺ちゃん!! 大丈夫…………っ!? じ、爺ちゃん……お腹が……」


「フィオル……ワシは……もう…………都に……アミリアという………………」


「爺ちゃん!!? 爺ちゃん!!!」


    ◇


 魔法を使える喜びよりも、大切なモノを失った悲しみの方が大きい。

 村人の殆どがいなくなり、私の大切な場所と人達は、消えてなくなった。


 枯れるまで流した涙。

 それでも、立ち止まっている訳にはいかない。

 

 爺ちゃんが残してくれた言葉。

 都、アミリア。

 

 14歳の誕生日、生まれて初めて村の外へと踏み出した。

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